国鉄志布志線は宮崎県都城市と鹿児島県志布志市とを繋いでいた国鉄の路線だ。1987年に廃線になった。志布志市北部に大隅松山駅跡が残されており、線路跡やホーム跡を見ることができる。夏の盛りの八月半ば、大隅松山駅跡を訪ねた。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
鹿児島県志布志市の北部、松山町新橋地区に、かつての国鉄志布志線大隅松山駅跡が残されている。駅跡はきれいに整備され、一角には記念碑が建てられている。ホーム跡や線路跡なども残され、往時の面影を今に伝えている。鉄道ファン、廃線マニアならぜひとも訪ねておきたいところだろう。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
国鉄志布志線大隅松山駅跡
国鉄志布志線は宮崎県の都城駅と鹿児島県の末吉駅とを繋いで1923年(大正12年)に開業した。その後、都城−西都城間は日豊本線に編入されたが、末吉からさらに延伸し、1925年(大正14年)に志布志まで開通、開業した。さらに志布志から宮崎県方面へと延伸し、1941年(昭和16年)には北郷(現在の日南線北郷駅)まで延伸している。1963年(昭和38年)には日南線が全線開通し、それに伴って志布志ー北郷間は日南線に編入されている。

以来、志布志線は都城市と志布志港とを繋ぐ路線として歴史を刻んだが、時代の流れと共に利用者は減少、1980年代になって国鉄再建法の施行により第2次特定地方交通線に指定、バス路線への転換を余儀なくされ、1987年(昭和62年)3月27日を最後に全線廃止となっている。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
大隅松山駅は1924年(大正13年)に志布志線が末吉駅から大隅松山駅まで延伸した際に新設、開業した。この地域は志布志線開通当時、囎唹郡(後の曽於郡)松山村だったところだ。松山村は1958年(昭和33年)に町制が施行されて松山町になり、町としておよそ半世紀の歴史を刻んだが、2006年(平成18年)に志布志町、有明町と合併、現在の志布志市の一部になっている。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
その松山町に設けられた鉄道の駅だから「松山駅」で良いわけだが、かつての国鉄は原則として同名駅を避けるという方針があり、後から開業した同名駅には古い“国名”を冠するという慣習があった(例外もあった)。「松山駅」は他に存在したため、こちらは“国名”の「大隅」を冠して「大隅松山駅」となったわけだ。志布志線が宮崎県方面へと延伸した際に設けられた「大隅夏井駅」(現在の日南線大隅夏井駅)も同様である。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
現在、大隅松山駅の跡地は端正に整備されて、かつてのホームや線路が残されて往時の面影を今に伝えている。一角には「大隅松山駅 志布志線跡地 記念碑」が建てられており、その下には「平成二年八月吉日」の日付で、志布志線の歴史と廃線となる経緯を簡単に記した碑文が刻まれている。碑文には建立時の松山町長だった加世田瑞穂氏の名がある。西都城ー志布志間の開通からおよそ60年を経ての全線廃止、その決定に抗う術のなかった地元の人たちの無念さが伝わる碑文である。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
記念碑の傍らにはレールや車輪を使ったモニュメントが置かれている。記念碑にもレールの一部がオブジェのようにあしらわれている。これらはかつて志布志線で使われていたものか。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
記念碑の背後にはホーム跡が残され、ホームに沿って線路跡も残されている。残されている線路跡は志布志線の駅跡の中では比較的長いものだ。レールは錆びて、枕木も朽ちて歳月の経過を感じさせるが、かつて志布志線の列車が停車した大隅松山駅の光景を思い浮かべてみるのも廃駅跡探訪の愉しみというものだろう。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
記念碑から道路を挟んだ南側(記念碑に向かって左手)に小さな公園がある。ホーム跡に沿って設けられた公園には「大隅松山駅鉄道記念公園」という名がある。フェンスに囲まれた公園は小さなものだが、あるいは駅跡全体が「大隅松山駅鉄道記念公園」であるのかもしれない。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
志布志線が廃止され、大隅松山駅が廃駅となってからすでに久しい。志布志線が走っていた光景を覚えている人も次第に少なくなっていくのだろう。時代の変遷というものに思いを馳せながら、草の生えた線路跡を歩いてみるのも感慨深い。静かに時を重ねていく、大隅松山駅跡である。
国鉄志布志線大隅松山駅跡
参考情報
交通
大隅松山駅跡は車で訪ねるのが便利だ。都城市街からなら国道269号や都城志布志道路などを経由して20km強、志布志市街からなら都城志布志道路や県道499号などを経由して17km前後といったところだ。

場所は志布志市役所松山支所の少し西に位置しているが、少しばかりわかりにくいので、予め下調べしておこう。無料駐車場が設けられており、二十数台が駐車可能だ。

飲食
大隅松山駅跡周辺には飲食店はほとんどない。県道110号(塗木大隅線)を西へ3kmほど辿って曽於市大隅町下窪町の辺りまで移動すれば飲食店が点在している。

周辺
大隅松山駅跡から県道110号(塗木大隅線)を西へ辿り、国道269号を北上すると、約9kmで志布志線岩北駅跡がある。併せて訪ねておきたい。
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