鹿児島県姶良市を流れる網掛川に金山橋という美しい石橋が架かっている。明治初期に架橋されたものという。上流側には板井手の滝という美しい滝もある。暑さの盛りの八月上旬、金山橋を訪ねた。
金山橋と板井手の滝
鹿児島県姶良市の東部はかつて姶良郡加治木町だったところだ。2010年(平成22年)に同じ姶良郡の蒲生町、姶良町と合併して姶良市が誕生した。その旧加治木町を流れる網掛川に、金山橋という美しいアーチを描く石橋が架かっている。上流側には板井手の滝という滝があり、下流側から見ると石橋のアーチの中に滝が見え、その美しい景観を求めて訪れる人も少なくない。姶良市の観光名所のひとつとして知られるところだ。
金山橋と板井手の滝
金山橋と板井手の滝
鹿児島県北部、霧島市とさつま町との境付近に、山ヶ野金山と呼ばれる金銀の鉱山があった。古くから知られる鉱山だったようだが、江戸時代には薩摩藩が採掘に当たっていた。幕末から明治期にかけて、フランス人技師が招かれて鉱山の近代化が行われた。設備の電化も行われ、精錬所は鹿児島を代表する大企業のひとつだったようだ。鉱山は太平洋戦争中に休山となり、戦後も復興することなく1965年(昭和40年)には閉山に至った。

明治初期に金山の近代化が図られた際、山ヶ野金山から加治木港までを繋ぐ輸送路(馬車道)の整備なども行われたが、金山橋はその一環として架橋されたものだ。だから「金山橋」は「きんざんばし」であって「かなやまばし」などではないわけだ。1879〜1880年(明治12〜13年)頃に築造されたものということだが、築造に関する詳しい資料は残っていないようだ。
金山橋と板井手の滝
金山橋は美しいアーチを描く石橋である。橋長23m、橋の幅は4.2m、通行部の幅は3.4m、川からの高さは約10mだそうだ。欄干や路面は2011年(平成23年)に改修が行われているが、橋本体は明治期の状態のままで残っているという。姶良市の指定文化財である。
金山橋と板井手の滝
金山橋の美しい姿を堪能するなら、下流側の河原から眺めるのがお勧めだ。橋の東側の袂から下流側へ辿ってゆくと河原へ降りることができる。下流側の河原から見れば金山橋の描く美しいアーチが緑濃い風景に映えてたいへんに美しい。アーチの中に上流側の板井手の滝が見えるのもフォトジェニックだ。金山橋を訪れた際にはぜひこの景色を楽しんでおきたい。
金山橋と板井手の滝
金山橋のすぐ上流側で見事な姿を見せるのが「板井手の滝」だ。「金山滝」とも呼ばれる。網掛川の河床を半円形に抉って水が流れ落ちる。滝崖には柱状節理も見られる。落差は約8m、迫力には少し欠けるが優美な美しさを見せる滝である。滝壺近くに降りることはできず、金山橋の橋上や網掛川右岸側に設けられたテラスから見下ろすことができるだけだが、その美しい景色は存分に堪能することができる。
金山橋と板井手の滝
金山橋上流側、右岸には観光用駐車所が設けられ、河岸部は展望テラスとして整備されている。四阿も設けられているからのんびりと一休みのひとときを過ごすのもいい。テラスからは金山橋の姿を上流側から眺めることができるから、その姿もぜひ見ておきたい。
金山橋と板井手の滝
展望テラスからは板井手の滝を真横から見下ろすことができる。下流側から見る滝とは違った表情が楽しめる。左岸側の滝崖に柱状節理をはっきりと見ることのできる場所もあるから探してみるといい。
金山橋と板井手の滝
金山橋の東側の袂、下流側の河原へ向かう小径への入口近くに水神碑が建っている。水神碑としてはなかなか大きなものだ。水神碑には花などが供えられており、今も地元の人々の信仰の対象であることがわかる。
金山橋と板井手の滝
水神碑から下流側へ辿る小径は板井手の滝の上流側から取水された用水に沿っている。用水は反土灌漑水路というもので、現在は小水力発電の龍門滝発電所に用いられている。用水と小径との境には古い石柱が並んでいるが、実はこの小径は明治初期に整備された山ヶ野金山から加治木港までを繋ぐ輸送路の旧道なのだという。
金山橋と板井手の滝
金山橋と板井手の滝は姶良市観光の際にはぜひとも訪れておきたい場所のひとつだ。明治初期の近代化の歴史を今に伝える遺構としても、風光明媚な景勝地としても魅力は充分だ。特に金山橋のアーチから覗く板井手の滝の景色はたいへんに素晴らしいものだ。お勧めである。
金山橋と板井手の滝
参考情報
交通
金山橋の最寄り駅は日豊本線加治木駅だが、駅からは2.6kmほどの距離があり、徒歩ではつらい。タクシーなどを利用するといい。

金山橋には観光用無料駐車場が設けられており、車での来訪が便利だ。駐車スペースは10台分ほどと少ないが、通常は駐車できるだろう。駐車場は舗装されており、トイレも併設されている。

車で訪れる場合は、九州自動車道などを利用し、加治木ICで降りればいい。加治木ICから金山橋まで2.5kmほどしかないが、ルートが少しわかりにくい。加治木ICから県道55号を北上、2kmほど行くと金山橋を指し示す標識があるので、そこを左折、引き返すように細道を500mほど南下していくと着く。

龍門滝の駐車場から金山橋へ向かう場合は、龍門司坂脇を経て龍門滝の北側を回り込むように辿る道を進めば2kmほどで着く。

飲食
金山橋周辺は長閑な田園地帯で、周辺に飲食店はほとんどない。飲食店を探す場合は加治木駅周辺の市街地へ移動するのが賢明だ。

訪れる前にお弁当やサンドイッチなどを調達し、駐車場脇に設けられた四阿などでランチタイムを楽しむのもお勧めだ。

周辺
金山橋の下流側には日本の滝百選にも選出されている名瀑、龍門滝がある。2kmほどで着く。姶良市を訪れた際にはぜひ見ておきたい名瀑だ。金山橋から龍門滝へ向かう途中には龍門司坂がある。これもぜひ立ち寄っておきたい。加治木ICから県道55号を1kmほど北上したところに設けられた「ふれあいパーク加治木」の近くからは郷田滝を見ることができる。時間に余裕があれば立ち寄っておこう。
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