佳景探訪
新林公園
神奈川県藤沢市川名、藤沢駅の南東に位置して新林公園という公園がある。山林と谷戸から構成され、谷戸には湿地や池もあり、自然に溢れた公園だ。園内には古民家も移築されている。湿地に花菖蒲の咲く六月の半ば、新林公園を訪ねた。



新林公園

新林公園

新林公園

新林公園
神奈川県藤沢市、藤沢駅の南東側に新林(しんばやし)公園という公園がある。丘陵地の尾根と尾根とに挟まれた低地、いわゆる“谷戸”と、その周辺の丘陵とを利用して造られた公園だ。園内には山林や湿地などが残され、自然溢れる公園として市民に親しまれている。

新林公園は16haほどの面積を有し、なかなか広い公園だが、その内の75%ほどは山林が占めているため、広さを実感しにくいかもしれない。公園は北西側の角、新林小学校に隣接して入口が設けられており、そこから南東側へ向けて谷戸が丘陵地の奥へと入り込んでいる。

エントランス部分には駐車場と広場が設けられ、その横にはケヤキ並木のプロムナードも造られている。その奥には藤棚があり、その向こうに公園の門を思わせるように旧家の長屋門が移築されている。長屋門の奥には梅林が広がり、その横手には移築された古民家が建っている。梅林の南側には一段上がって斜面に囲まれた「冒険広場」がある。「冒険広場」はさまざまな遊具を配した子どもたちの遊び場だ。

梅林から南東側に向かって湿地が谷戸の奥へと延び、湿地を渡る木道が設けられている。谷戸の最も奥まった部分には川名大池という名の池がある。池の周辺はバードサンクチュアリとして立入禁止区域になっているが、野鳥観察施設が設置されている。公園中心部はそれらの施設から構成されており、その周辺を木々の茂る山林が取り囲んでいる。

その山林の尾根を辿って散策路が巡っており、古民家裏側や「冒険広場」奥から登ることができる。尾根の散策路は全長1.5kmほどだが、細い山道なので一周するには一時間ほどを要する。尾根道を辿って公園の南東端に当たる高所には「みはらし台」が設けられており、そこからは江ノ島や富士山の姿も望める。「冒険広場」西側の尾根にも展望台があり、ここからも相模湾を一望する。


新林公園

新林公園

新林公園
新林公園の中でも、その中央部に位置する湿地の周辺は公園の魅力を充分に堪能できるところだと言っていい。小さな池があり、その向こうにも湿地が広がる。池を跨いで木製の橋が架かり、橋はそのまま木道となってクランク上に曲がって湿地の上を辿って奥へ延びている。緑濃い尾根に挟まれた谷戸の風景はたいへんに美しく、木道もその景観を邪魔することなくアクセントとなって美しさを引き立たせている。池の辺には印象的に落羽松の木が立っている。その姿も風景のアクセントになって素敵だ。

湿地の横には田圃も設けられている。隣接する新林小学校の子どもたちの実習田として使われているようだ。訪れた日は六月半ばの土曜日、田圃は田植えが終わったばかりのようで小さな苗が頼りなく風に揺れている。畦道では公園に遊びにきていた子どもたちが網を持って田圃の中を覗き込んでいる。バケツを持っている子もいたから近くに住む子どもたちなのだろう。昔はどこででも見られた光景だが、今ではこうした公園の中で見ることが多くなってしまったように感じる。
新林公園/川名大池
木道を渡って湿地を奥へと進むと、谷戸の奥まったところには川名大池という池がある。この川名大池の周辺はバードサンクチュアリとして立ち入りが禁止されている。池の辺に野鳥観察施設が設けられており、施設の壁に設けられた小窓から池の様子を覗き見ることができる。池は灌漑用に造られた溜池らしいが、今ではすっかり自然の風景の一部として溶け込んでしまっている。
新林公園

新林公園
川名大池の野鳥観察施設の横手から南側の林の中に分け入ってゆく小径がある。小径はどこかへ抜けているわけではなく、林の中を一巡りして戻ってくるだけなのだが、鬱蒼とした樹林の中を歩くのはなかなか楽しい。

この小径を歩いていると、木々の間から何か小さな生き物が飛び出してきた。見ると、どうやらタイワンリスのようだ。小径の入口付近に「リスに注意」と記した注意書きが設置されていたのを思い出した。“公園内での飲食の際、食べ物を目当てに寄ってきたリスに噛みつかれることがある”との旨の注意書きだった。なるほど、本当にいるのか、と、妙な納得をしながらしばらくリスの姿を眺めていた。リスはまるで人間を恐れる様子ではない。可愛らしい姿だが、爪は鋭く、噛まれると本当に痛い(以前、知人がタイワンリスに噛まれたことがある)。リスを見かけても手をさしのべたりしないほうがいい。


新林公園/花菖蒲

新林公園/花菖蒲

新林公園/花菖蒲
今回訪れたのは六月の半ば、花菖蒲の美しい季節だ。新林公園でも古民家前や湿地で花菖蒲を見ることができる。

古民家前の方は、古民家の敷地の外、門脇に設けられた湿地に植えられている。“菖蒲田”として整備されているわけではないようで、数の多くはないのだが、その素朴な佇まいがいい。特に古民家を背景に見るときなどは、古い時代の初夏の農村風景を見るようで、郷愁を誘われるような風情がある。

湿地に植えられた花菖蒲は古民家前より数は多いが、それでも規模は小さい。こちらもそれほど整備の手が入れられていないようで、湿地の植物に混じって咲く姿が野趣に富んでいて素敵だ。しっかりと整備された“花菖蒲園”などで見る花菖蒲はもちろん素晴らしいものだが、こうした里山風景の中で咲く花菖蒲にはまた別の味わいがあるように思える。

古民家前の花菖蒲と湿地の花菖蒲とを合わせても“花菖蒲の名所”と言えるほどの規模ではないが、緑溢れる周囲の景観の中で素朴に咲く花菖蒲の姿はなかなか魅力的だ。誰にでもお勧めできるとは言い難いが、“花菖蒲の咲く風景”というものを楽しみたい人には充分に魅力的だろう。
旧福原家長屋門


新林公園/旧福原家長屋門
新林公園に移築されている長屋門は「旧福原家長屋門」、福原家は江戸時代に名主を務めた旧家だそうで、この長屋門は江戸時代後半に建てられたものらしい。正面間口15m強、奥行4m強という大きさで、神奈川県下でも比較的規模の大きな長屋門だという。2007年(平成19年)10月から2008年(平成20年)12月にかけて移築復元工事が行われ、新林公園の中で一般公開されている。堂々と風格のある姿が印象的だ。訪れたときはぜひ見学しておきたい。藤沢市指定文化財である。
旧小池邸


新林公園/旧小池邸

新林公園/旧小池邸

新林公園/旧小池邸

新林公園/旧小池邸
梅林の北側に区画を設けて移築された古民家は「旧小池邸」、小池家は市内柄沢村の名主を務めた旧家で、先祖は足利尊氏に仕えていたそうだ。この建物は1841年(天保12年)に建てられたもので、寄棟造の茅葺屋根、土壁、石基礎で土台には栗が使われているという。1983年(昭和58年)に新林公園内に移築され、1999年(平成11年)に藤沢市の文化財に指定されている。

一般の観覧では座敷に上がることはできないようだが、土間までは自由に立ち入ることができる。内部の様子も土間や縁側などから見学することができる。建物は名主の屋敷らしく風格のある立派なもので、江戸時代の名主の暮らしぶりなどを想像しながら見学してゆくと興味が尽きない。建物の裏手には井戸もあり、建物の周囲を巡って建物の外観の様子や周辺をゆっくりと見ていきたい。

移築された公園の区画は周囲を木々の茂った丘に囲まれており、緑に包まれるようにして建つ姿が良い風情だ。公園内はとても静かで、建物裏手で古民家と緑の木々に囲まれていると、ふと古い時代に迷い込んでしまったかのような錯覚さえ覚える。そんな錯覚を楽しみながら、ゆったりとした気分で見学してゆくのがお勧めだ。
冒険広場


新林公園/冒険広場

新林公園/冒険広場

新林公園/冒険広場
梅林の南側には小谷戸を利用した区画に子どもたちの遊具を設けてあり、「冒険広場」と名付けられている。幼児用の複合遊具や、いわゆる“ターザンロープ”や“ツリークライミング”など、現代的な遊具が揃っている。広場は段差を設けて上下に二カ所あり、下段の広場に多くの遊具が揃えられ、上段の広場には“ツリークライミング”が設置されている。以前は木製の複合遊具が設置されていたようだが、2010年(平成22年)の早春に工事が行われ、新しい遊具が設置されたようだ。木製の遊具も味わいがあって良いものだが、老朽化のために取り替えられたのだろう。

今回訪れたのは土曜日だったが「冒険広場」にも何組かの親子連れが訪れて賑わっていた。日曜日や休日にはさらに賑やかさを増すことだろう。広場の中には木立もあり、木陰を落としてくれるのも嬉しい。自然溢れる新林公園は、その自然そのものが子どもたちの遊び場と言っていいが、こうした遊具類の設置は特に小さな子どものある家族には喜ばれるものに違いない。



新林公園

新林公園

新林公園
新林公園は、何と言ってもその豊かな自然が魅力だ。緑濃い丘陵地に囲まれた谷戸に湿地が横たわり、そこには街の喧噪から離れた穏やかな時間が流れている。移築された古民家も良い風情を感じさせ、まるで昔懐かしい農村の風景を見るような気分にさせられる。園内はとても静かで、鳥の声と風の音が聞こえる中に子どもたちの声が響く。訪れたときにはどこからかウグイスの声も聞こえていた。ゆっくりと園内を巡れば心安らぐひとときを過ごすことができるだろう。梅や藤などの花々が季節に応じて楽しめるのも嬉しい。訪れたのは六月、古民家前や湿地では花菖蒲が咲き、園内のところどころで紫陽花が咲き始めていた。

遊具類も備えた公園は近隣に暮らす人たちの憩いの場であり、子どもたちの遊び場であることはもちろんだが、遠方から訪れても充分に楽しめる。お弁当を持ってピクニック気分で訪れるのがお勧めだろう。

園内の散策を堪能して、そろそろ公園を後にしようか思った頃、公園の上空をトンビが飛んでいた。二羽のトンビはおそらく“つがい”なのだろう。公園内の林の中に巣があるのかもしれない。二羽のトンビはときおりピーヒョロロと鳴きながら、公園の上の空に輪を描いていた。
参考情報
本欄の内容は新林公園関連ページ共通です
長屋門や古民家などの文化財の保護の目的のため、公園敷地内の藤棚から奥部分は夜間(午後7時30分から午前4時)は立ち入れないとのことだった。また古民家「旧小池邸」は月曜と年末年始は休館、利用時間は午前9時から午後4時30分までとのこと。詳細は藤沢市サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)などを参照されたい。

交通

新林公園へはJR東海道線、小田急江ノ島線の藤沢駅が近い。駅の南口から東南方向へ向かい、境川を渡って徒歩で20分ほどだろうか。初めての人は駅からのルートがわかりにくいかもしれない。地図などを携行することをお勧めする。

公園には無料駐車場があり、車で訪れることも可能だ。駐車スペースは30台分ほどで、充分とは言えないが、公園北西側の境川対岸に位置する奥田公園の有料駐車場も利用できる。奥田公園の周辺には民間駐車場も点在しており、それを利用する方法もある。

飲食

新林公園は自然溢れる公園で、シートを広げてのアウトドラランチに最適だ。ピクニック気分で楽しめる。訪れるときはお弁当持参をお勧めする。駅から徒歩で訪れるときに駅周辺のお店でテイクアウトのものを買っていってもいい。

新林公園にはレストランや売店はない。公園近辺にもお店などは見あたらない。お弁当持参でないときは駅近くまで戻ればいい。駅周辺にはさまざまな飲食店が軒を並べている。

周辺

新林公園の西側には境川が流れている。散策の楽しい川辺とは言い難いが、少し足を延ばしてみるのも悪くない。町歩きの好きな人なら藤沢駅周辺の繁華街を歩いてみても楽しめるだろう。
新林公園

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