長野県松本市の「松本市はかり資料館」は「測る」「量る」「計る」ための道具を収蔵、展示する施設だ。古い時代のさまざまな“はかる”道具に興味が尽きない。九月初旬、松本市はかり資料館を訪ねた。
松本市はかり資料館
長野県松本市の中心市街、「中町通り」に「松本市はかり資料館」という施設がある。「はかり」の名が示すように、“測る”、“量る”、“計る”ためのさまざまな道具、度量衡器(どりょうこうき)を収蔵、展示する施設だ。

1902年(明治35年)創業の「竹内度量衡店」が1986年(昭和61年)に閉店した後、建物と資料の数々を松本市が譲り受け、1989年(平成元年)に「松本市はかり資料館」としてオープンしたものという。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館の建つ中町通りはかつての善光寺街道(北国西脇往還)の宿場だったところで、昔から繁華なところだった。現在の中町通りはなまこ壁の土蔵などが並ぶ風趣に富んだ景観を見せるが、これらは明治になって造られたものという。度重なる火災から店と財産を守るため、火災に強い土蔵造りの建物が建てられたのだ。竹内度量衡店が開業したのもその頃のことだ。かつては中信・南信地域の度量衝器の需要を竹内度量衡店が一手に引き受けていたのだという。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館が収蔵、展示している資料の数々は、明治期から昭和期にかけて店舗などの現場で実際に使われていた(であろう)さまざまな“はかり”である。モノを“はかる”ために使われていた道具の歴史を、有史以前から現代のものまで収集して学術的に展開しようという意図の施設ではない。「博物館」を名乗らず、あくまで「資料館」なのは、そうしたスタンスだからだろう。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館収蔵品の数は約1300点を数えるという。展示されているのはその一部だ。それでも充分に充実した展示だと言っていい。物の長さを測るための、いわゆる“ものさし”を始め、液体などの量を量るための升、物の重さを量るための棹秤や天秤、それらと共に使用する重りなど、さまざまな度量衡器と関連資料が展示され、見てゆくほどに興味を覚えて飽きない。
松本市はかり資料館
ご年配の方なら、こうした道具が使われていた頃のことを覚えていらっしゃるかもしれない。若い人なら初めて見るというものも少なくないに違いない。展示品の数々を見ていきながら、実際にそれらの道具を用いてモノが量り売りされていた様子を思い浮かべてみるのも楽しいひとときだ。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館は1902年(明治35年)に創業した竹内度量衡店の店舗を活用しているから、建物そのものも見るべき対象のひとつだ。明治期に建てられた町家の様子をじっくりと見学しておきたい。
松本市はかり資料館
土間部分の脇に竹内度量衡店の看板が置かれていた。大きな看板である。かつて通りに面した店舗の入口上に掲げられていたのだろう。看板には「竹内度量衡店」の名が大きく記され、その上には「測量機器」と「金庫」とある。なるほど、竹内度量衡店は度量衝器だけでなく金庫も扱っていたのだろう。この看板が実際に掲げられていた頃の光景を想像してみるのも楽しい。
松本市はかり資料館
土間部分を通り抜けた先には中庭がある。小さな中庭だが、端正に設えられており、風趣に富んだ佇まいだ。

中庭に面してなまこ壁の土蔵を活用した第2展示室、さらに奥の部分には擬洋風建築の蔵座敷を活用した第3展示室が設けられている。これらも見学しておこう。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館の第2展示室は蚕種業、製糸業に於ける“はかり”に焦点を当てた展示が行われている。
松本市はかり資料館
そもそも松本は養蚕業は製糸業が盛んな土地柄だ。当然のことながら養蚕業や製糸業でも“はかり”は必要不可欠な道具だ。養蚕業や製糸業に詳しくない身ではそれらの“はかり”を見てもどのように使うのかもよくわからないが、添えられた説明を見ながら丹念に見学していくのも楽しいひとときだ。
松本市はかり資料館
中庭の奥に建つ擬洋風建築の蔵座敷は老舗の材木問屋「三松屋」の蔵座敷だったものだという。七代目当主の三原彰氏からの寄付を受けて現在地に移築、2010年(平成22年)から公開が開始されている。この奥座敷、開智学校を手がけたことでも知られる大工棟梁、立石清重が最晩年に設計施工したものだそうである。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館
この蔵座敷は一階部分が畳敷きの和風、二階部分は洋風の造りになっている。内部にもちろん“はかり”関連資料が展示されているが、建物そのものが見学の対象だと言ってもいい。
松本市はかり資料館
松本市はかり資料館
モノの長さや重さ、体積などを量るための道具、いわゆる“はかり”というものに対してマニアックな興味を持つ人はそれほど多くはないと思うが、そのような人なら言うまでもなく一度は訪ねてみなくてはならないと言っていい。“はかり”というものに特に興味がなくても、明治期から昭和期にかけての古い道具としての“はかり”の数々は楽しく見ていくことができる。

また、展示品の“はかり”だけでなく、資料館として使われている建物そのものも見学の対象として魅力のあるものだ。明治期の建築物に興味のある人なら訪ねておきたいところだろう。

「松本まるごと博物館」のひとつを担う松本市はかり資料館、松本観光に際にはぜひ立ち寄りたい施設である。
松本市はかり資料館
参考情報
松本市はかり資料館は観覧料が必要だ。観覧料や開館日など、詳細は公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
松本市はかり資料館は松本駅(JR中央本線、アルピコ交通上高地線)の「お城口(東口)」から1kmほど、徒歩で十数分の距離だ。

松本市街地を巡る周遊バス「タウンスニーカー」を使うのも便利だ。「東コース」の「はかり資料館」バス停で降りれば目の前が松本市はかり資料館だ。

車で訪れる場合は周辺に点在する有料駐車場を利用するといい。予め調べておくと利用しやすいだろう。

遠方から車で訪れる場合は、長野自動車道松本ICから国道158号を西進すればいい。松本ICから松本駅周辺まで3km足らず、道路状況にもよるが10分ほどで着く。

飲食
松本市はかり資料館は中町通り沿いに建っている。中町通りや女鳥羽川北側の縄手通りを中心にさまざまなカフェやレストランがある。散策しながらお店を見つけてランチや一休みを楽しむのがお勧めだ。

周辺
松本市はかり資料館の建つ中町通りはかつての善光寺街道の宿場で、明治期に建てられたなまこ壁の土蔵などが今も残って風情ある景観だ。中町・蔵シック館(松本市中町蔵の会館)などに立ち寄りつつ、散策を楽しむのがお勧めだ。中町通りから東へ少し足を延ばせば松本市時計博物館が建っている。これも併せて訪ねておきたい。

中町通りの北側、女鳥羽川を挟んで縄手通りが東西に延びている。長屋風の店舗が建ち並ぶ、風情ある商店街だ。中町通り散策の後は足を延ばしてみたい。

松本市はかり資料館の横の道を北へ辿れば、女鳥羽川を渡って上土通りが北へ延びる。沿道には古い建物が残り、散策の楽しいところだ。そのまま北へ辿って左手(西側)に向かえば松本城が近い。松本城は松本観光の際はぜひ訪ねておきたい。松本城公園から北へさらに数百メートル辿れば旧開智学校がある。隣接して建っている旧司祭館と併せて、これもぜひ見学しておこう。

松本市の市街地には湧水が多く、「まつもと城下町湧水群」として「平成の名水百選」にも選定されている。湧水巡りをメインに市街地散策を楽しむのもお勧めだ。

松本市街地の観光名所を効率良く巡るなら、周遊バス「タウンスニーカー」を利用するのが便利だ。一日乗車券を購入しておくのがお勧めだ。車で松本を訪れたときも、車を駐車場に置いて「タウンスニーカー」と徒歩を組み合わせて巡のが効率がいい。
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