埼玉県鳩山町の北東部に「石坂の森」という樹林地がある。湿地や雑木林など、昔ながらの里山の自然環境を保全した樹林地だ。新緑が色濃くなっていく五月の初め、石坂の森を訪ねた。
石坂の森
埼玉県鳩山町の北東部、石坂地区の北部に鬱蒼と木々の茂る樹林地がある。地区の名から「石坂の森」と呼ばれる樹林地で、雑木林と尾根筋と尾根に挟まれた谷戸の湿地など、昔ながらの里山の自然環境を保全した樹林地だ。北側は東松山市の市民の森に接し、双方を合わせて広大な樹林地を成している。南側には鳩山ニュータウンが近く、東側と西側、さらに北側にはゴルフコースが横たわり、その中に残された貴重な自然環境だ。
石坂の森
雑木林や谷戸田などの里山の自然は、人の営みと共にある自然だ。人々は木々を暮らしに活用し、木々を伐採した後には苗木を植えて保全してきた。そうした里山の自然と共にある暮らし、人々の暮らしと共にある自然環境は、特に東京近郊ではすっかり少なくなってしまった。石坂の森はそうした里山の自然環境を保全し、樹林地の自然の学習なお場として、あるいは伝統的な農林作業の体験の場として活用されている。
石坂の森
石坂の森は樹林地の保全が第一義に考えられているようで、いわゆる“里山保全型の公園”とは性格が異なっているように見える。樹林地の中には尾根や谷戸を辿る小径があり、道標なども設けられているが、整備は最小限に留められている印象だ。谷戸沿いの径も尾根伝いの径も細く未舗装で、野趣溢れる雑木林散歩が楽しめる。
石坂の森
特に石坂の森の中央部を貫く「中の尾根道」は鬱蒼と茂る木々の中を縫うように辿る“山道”で、ちょっとした森林浴気分が楽しめる。尾根道脇の樹林に茂る木々のそれぞれに目をやりながら、のんびりと散策を楽しむのがお勧めだ。
石坂の森
「中の尾根道」はほどんどの区間が木々に包まれて視界が遮られているが、北端部近くの高所となったところに北側に眺望の開けたところがある。標高は130mほどか。眼下には東松山市民の森の樹林を見下ろし、その向こうに遠く町並みが横たわっている。見えているのは東松山市西部から滑川町南部の辺りだろうか。青く広がる空が爽快だ。
石坂の森
谷戸の奥まったところにある湿地は、かつては水田として耕作されていた場所のようだ。両脇には木々の茂った尾根が迫り、その中にぽっかりと平地が横たわり、日射しが降りそそぐ。その景観を眺めながら、土地の人が田を耕作するために通っていた姿を思い描いてみるのも一興だろう。
石坂の森
五月の初め、樹林の中ではところどころでヤマツツジが咲いていた。緑のグラデーションとなった景観の中で、ヤマツツジの赤い色がよく目立つ。木漏れ日の中で見る新緑とヤマツツジのコラボレーションがたいへんに美しかった。
石坂の森
石坂の森の北端部は東松山市との市境で、道路(車両通行止め)を挟んで東松山市民の森が隣接している。東松山市民の森は石坂の森とは少し林相が違い、アカマツやテーダマツなどの林を見ることができる。林地を抜ける散策路も比較的広く、のんびりと散策を楽しむことができる。

石坂の森と東松山市民の森はひとつの丘陵を分け合うように一体化して広大な樹林地を成している。双方を合わせて散策を楽しむのがお勧めだ。
石坂の森
石坂の森
石坂の森
石坂の森
参考情報
交通
石坂の森は東武東上線高坂駅が最寄りだが、4kmほどの距離があり、駅から徒歩で訪ねるのはつらい。駅から鳩山ニュータウン行きのバスを利用するといい。

石坂の森には来訪者用無料駐車場が用意されているから、車での来訪が便利だ。駐車場は数台分の駐車スペースしかないが、通常であれば駐車できるだろう。

遠方から訪れる人は関越自動車道を利用するといい。坂戸西スマートICからなら4.5kmほど、東松山ICからなら7kmほどで着く。

飲食
石坂の森の周辺には飲食店がない。飲食店を探すなら東武東上線高坂駅周辺に移動するのが賢明だろう。

お弁当持参で訪れて、隣接する東松山市民の森や物見山公園などでランチタイムを楽しむのもお勧めだ。

周辺
石坂の森の北側には東松山市民の森が隣接し、ほとんど一体化した樹林地を成している。石坂の森と東松山市民の森とを併せて散策を楽しむのがお勧めだ。

東松山市民の森の東側には物見山公園がある。これも隣接しているかのように距離は近い。散策の足を延ばしてみよう。さらにその東側には埼玉県こども自然動物公園がある。動物園を主体にした規模の大きな公園で、特に家族連れにお勧めだ。

石坂の森から西へ、鳩山ニュータウンを抜けて2kmほど辿ると鳩山町農村公園がある。谷戸の地形を利用して造られた公園で、長閑で美しい風景を楽しむことができる。周辺の田園風景へ足を延ばしてみるのもお勧めだ。
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