静岡県磐田市に「旧見付学校」という日本最古の木造擬洋風小学校校舎がある。国の史跡に指定された建物で、内部は教育資料の展示などが行われている。夏の暑さの残る九月半ば、旧見付学校を訪ねた。
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
静岡県磐田市中心部のやや北方に位置する「見付」の地、「見付宿場通り」の北側に「旧見付学校」という建物がある。その名を見れば一目瞭然、かつて学校として建てられた建物である。

見付学校は1872年(明治5年)の学制発布を受けて建てられた。当時、この辺りは浜松県で、浜松県は第2大学区に属しており、見付の地はその「第2大学区」の「第12番中学区第1番小学」だった。当初、見付学校は寺院の建物を仮校舎として始まったが、淡海国玉神社から境内地が寄付され、そこに新校舎が建てられることになる。新校舎は1874年(明治7年)10月に着工、翌1875年(明治8年)に落成した。

そもそも見付の地は遠江国の国府が置かれていたところで、東海道の宿場としても発展したところだ。国学が盛んで、教育にも力が注がれていた土地柄だったようで、私塾も多かった。見付学校の建設に際して土地を寄付した淡海国玉神社の神官大久保忠尚も、そうした私塾を主宰していた一人である。私塾を主宰する国学者の中には文庫、今で言う図書館を設立する者も多かったが、大久保もまた淡海国玉神社境内地に「磐田文庫」を設立している。現在、旧見付学校の校舎の裏手に建つ「磐田文庫」がそれである。
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
この見付学校校舎の新築工事を手がけたのは、愛知の棟梁、伊藤平右衛門(後の第9代伊藤平左衛門)である。伊藤平右衛門は幕末から大正期にかけての建築家で、そもそも伊藤家は尾張藩作事方を務めた工匠の棟梁の家柄である。伊藤平右衛門は明治に入って西洋建築の技法を学び、この見付学校校舎の他、旧愛知県庁舎、東本願寺御影堂、旧築地本願寺など多くの建築を手がけ、旧三重県庁舎の建築にも関与している。旧愛知県庁舎が現存しないことを思えば、旧見付学校校舎は伊藤平右衛門が残した貴重な洋風建築である。

見付学校校舎は基礎石垣の上に洋風木造二階建て、屋上に二層の塔屋を置く。玄関にはエンタシス式(下部から上部にかけて徐々に細くした円柱状)の柱を配し、外壁は漆喰塗り、内部は中央階段でその両側に教室を配した。1883年(明治16年)に二階の天井裏を改造して三階を設け、二層の塔屋をその上に上げて、屋根を寄棟造として、現在まで残る校舎の姿になった。その姿から「見付の五階」と呼ばれる建物である。

この旧見付学校の校舎は現存する日本最古の木造擬洋風小学校校舎であり、裏手に残る「磐田文庫」とを合わせて、「旧見付学校附磐田文庫」として国の史跡に指定されている。
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校の建物は、現在は資料館としても機能しており、館内には明治大正期の教科書などの教育資料や地域の歴史資料などが展示されている他、明治期の授業風景や教員室等も再現されている。再現された教室には教師と生徒の人形なども使われて臨場感のある展示になっている。蓄音機やミシンといった生活用品から農機具に至るまで、さまざまな民俗資料が展示されているのも楽しく、興味深く見学してゆくことができる。塔屋部分にも上がることができ、窓外に見える景色に往時の様子を思い浮かべてみるのも一興だろう。校舎裏手に建つ「磐田文庫」も、訪れたときにはぜひ見学しておきたい。
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
旧見付学校
国の史跡に指定された旧見付学校、明治初期に建てられた洋風学校建築として、近代建築に興味のある人ならぜひ見ておきたいものに違いない。館内の資料展示もなかなか充実しており、資料館としてもお勧めである。磐田市を訪れたときには、ぜひ立ち寄っておきたいところだ。
淡海国玉神社
旧見付学校の東側には淡海国玉神社が隣接して鎮座している。と言うより、そもそも淡海国玉神社の境内地の一角の寄付を受けて見付学校が建てられたという経緯であるから、“見付学校が淡海国玉神社に隣接している”という表現の方が正しい。
淡海国玉神社
淡海国玉神社
淡海国玉神社は遠江国の総社で、その名が示すように大国主命(おおくにぬしのみこと)を祭神として祀る。創立年は不明だそうだが、平安時代の貞観年間(759〜877年)に創建されたと伝えられているという。延喜式神名帳に名を連ねる延喜式内社であり、千年以上の歴史を持つ古社である。周辺はすっかり住宅地だが、境内地は木々が囲んで神域らしい厳かさを保っている。通常の神社であれば狛犬がいるべき場所に、ウサギの像があるのは大国主命を祀る神社らしいところだ。旧見付学校を訪ねた際には併せて参拝していこう。
参考情報
旧見付学校は入館無料だ。自由に見学できる。また、館内写真撮影可とのことで、各種展示物も特別な許可の必要なく写真撮影が可能だ。

交通
旧見付学校はJR東海道本線岩田駅が最寄り駅だが、駅から2km以上の距離がある。バスを使うのが賢明だろう。

来訪者用の駐車場は用意されている。駐車台数は数台分で、あまり余裕は無いが、それほど観光客が数多く詰めかける場所ではないと思われるので、通常なら駐車可能だろう。

東名高速道路磐田ICから旧見付学校まで2.5kmほど、10分足らずで着く。

飲食
旧見付学校の周辺は市街地だが、飲食店は少ない。旧見付学校の東側を東西に延びる県道86号の沿道にファミリーレストランなどが点在している。

周辺
旧見付学校の東方には「つつじ公園」がある。その名のようにツツジが見事な公園であるらしい。旧見付学校からつつじ公園の駐車場まで1kmと少しだ。ツツジの季節なら立ち寄ってみるといい。

旧見付学校の北西側、県道44号沿いには旧赤松家記念館がある。明治期に磐田原台地に茶園を開拓した海軍中将男爵赤松則良の邸宅跡という。1887年(明治20年代)に建てられた門や塀、土蔵は静岡県と鰯市の指定文化財で、敷地内には庭園と旧赤松家記念館がある。これも旧見付学校から1km強の距離だ。

旧見付学校の南西側に1kmと少し離れて、県道56号沿いに「遠江国分寺跡」がある。国の特別史跡である。
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