東京都あきる野市に「乙津花の里」を呼ばれるところがある。春になると桜やミツバツツジ、菜の花などが咲き誇り、美しい春景色を見せてくれる。枝垂れ桜が盛りを迎えた四月初め、「乙津花の里」を訪ねた。
乙津花の里
東京都あきる野市の西端部に「乙津(おつ)」という地区がある。JR五日市線武蔵五日市駅前から都道33号(檜原街道)を西へ5kmほど辿ると「荷田子(にたご)」という交差点があるが、その辺りが乙津の中央部である。「荷田子」交差点から北へ入り込んだ先には龍珠院という寺が建っている。この龍珠院からその南側、南浅川河畔に広がる一帯が「乙津花の里」と呼ばれるところだ。
乙津花の里
この辺りは丘の斜面に家々が並んで集落を成し、長閑で美しい里山風景が広がるところだが、春になればその風景を埋め尽くすように枝垂れ桜やミツバツツジ、菜の花といった花々が咲き誇る。辺り一帯が春色に染め上げられるような景観は見事なもので、まさに“花の里”。その美しい春景色を求めて訪れる人も多い。
乙津花の里
「乙津花の里」を訪ねたら、まずは龍珠院を目指したい。龍珠院は臨済宗建長寺派の寺で、山号は天照山。1363年(貞治2年)の開創といういことだから、なかなかの古刹である。近年はすっかり“花の寺”として知られるようになり、春の桜の時期には大勢の人が参拝に訪れるという。
乙津花の里
地蔵尊の並ぶ参道は未舗装の小径だ。里山の風情漂う参道の脇には枝垂れ桜やミツバツツジが咲き誇り、辺りを春の色に染め上げる。見事な春景色である。方角の関係でお昼頃からは花々は逆光になってしまうが、それも興趣に富んだ景観だ。参道入口側から見る景観もいいが、本堂側から見下ろす景観も素晴らしい。
乙津花の里
参道だけでなく、もちろん境内にも花々が咲き誇り、美しい景観を見せてくれる。その向こうには山々の斜面に咲く桜が見えている。場所を変えれば見える景観の表情も変わる。のんびりと境内を巡って視界に広がる春景色を楽しみたい。
乙津花の里
龍珠院は集落内でも高い場所に立っている。龍珠院の脇辺りから南に視線を向ければ南秋川と檜原街道を挟んだ南側の山々が見える。その山肌に桜と新緑が春の色を添える。陽射しを受けて浮かび上がるような景観が美しい。
乙津花の里
集落内の道を歩けば、あちこちで見事な春景色に出会う。道脇に咲く桜や、少し離れた高みに咲くミツバツツジや、遠い山肌を彩るヤマザクラなど、さまざまな春景色が広がり、飽きることがない。ゆったりとした気持ちで散策しつつ、春爛漫を堪能したい。
乙津花の里
集落の中を細い小径が辿っている。もちろん車両の通行のできない未舗装の小径だ。集落内の人たちの生活通路なのだろう。その小径脇に桜が並ぶ。この景色も素晴らしい。少し離れて眺める景観もいいが、桜の下を歩くのも楽しい。
乙津花の里
小径を辿っていった先には、丘の斜面にぽっかりと広場のような場所があり、ベンチも置かれている。推測だが、本来は私有地の畑地だったものが今は耕作がなされないまま、観光客のために開放されている状態なのではないか。“広場”にはミツバツツジやハナモモ、菜の花などが咲き、さらにその向こうには春色を添えた山肌が見える。まさに“花々に包まれた”ような景観で、時の経つのを忘れる。
乙津花の里
集落の中心部から少し離れてみるのも楽しい。龍珠院前の道を少し西側、すなわち南秋川の上流側へ辿ってみると「乙津花の里」を全景を俯瞰するように見下ろせる場所もある。桜やミツバツツジが集落内を埋め尽くすように咲き誇る様子がよくわかる。
乙津花の里
「乙津花の里」から南へ降り、都道33号(檜原街道)の南側に足を延ばしてみるのもお勧めだ。「荷田子」交差点から南の山裾へ辿る道がある。この道を進むと少し高みとなって、そこから北を眺めれば龍珠院前辺りの景観がよく見える。枝垂れ桜に包まれるようにして建つ龍珠院。その背後の山肌も桜や新緑が彩る。美しい春景色である。「乙津花の里」を訪れたときには、ぜひこの景観も楽しんでおきたい。
乙津花の里
「荷田子」交差点南側の山裾は畑地の中に家々が点在し、長閑な里山風景が広がっている。その畑地にもハナモモやミツバツツジが咲き、穏やかな春の里山の景観を見せてくれる。花々を眺めながら山裾の道を辿ってみるのもお勧めだ。
乙津花の里
「乙津花の里」の春景色はたいへんに見事なもので、少し遠くからでも足を延ばす甲斐のあるものだと言っていい。枝垂れ桜とミツバツツジがこれほどの数で咲き誇る景観はなかなか他に類例がないのではないか。桜の咲く景観、花の咲く景色の好きな人なら、ぜひ訪ねておきたいところだ。
乙津花の里
乙津花の里
乙津花の里
参考情報
本欄の内容は乙津花の里関連ページ共通です
「乙津花の里」散策の際には、私有地に立ち入らない、写真を撮るときには地元の方々のプライバシーに留意するなど、地域の方々のご迷惑にならないよう、充分に注意しよう。

交通
「乙津花の里」に電車で訪れる場合はJR五日市線を利用し、終点の武蔵五日市駅からバス、「荷田子」バス停で降りれば良い。所要時間は15分ほどだ。

車で訪れる場合には圏央道あきる野ICや日の出ICから西へ辿り、JR武蔵五日市駅前を経由、都道33号をさらに西進するのがわかりやすい。あきる野ICからも日の出ICからも「乙津花の里」まで11kmほどだ。他の方面から来る場合もまずJR五日市線武蔵五日市駅を目指し、そこから都道33号を檜原方面へと西進すればよい。

「荷田子」バス停近くの県道33号沿い、「荷田子」交差点の角に民間の有料駐車場がある。「乙津花の里」の中は道が狭く、観光用駐車場も無いので、車で進入するのはやめておこう。

飲食
「乙津花の里」にはお洒落な喫茶店などがあるので一休みにはお勧めだが、本格的な食事のできる店はほとんどない。武蔵五日市駅周辺に戻ればさまざまな飲食店があるので選択肢が増えるだろう。

周辺
「乙津花の里」から南浅川北側の道を東へ辿れば1kmほどで「瀬音の湯」だ。人気のある日帰り温泉施設で、食事処もある。「瀬音の湯」の周辺は秋川渓谷の景観が美しいところだ。夏の深緑秋の紅葉などが特に見事だ。初夏から夏には川遊びも楽しい。

「瀬音の湯」から養沢川を渡って北へ辿り、都道207号を少し山間部へと進むと徳雲院という寺がある。早春には梅、初夏には蛍が見られる。それぞれの季節に訪ねてみたい。

「乙津花の里」から都道33号を西へ辿ればすぐに檜原村、払沢の滝へも数キロの距離だ。車で訪れた人は足を延ばしてみるといい。

街歩きの好きな人なら五日市の町を散策してみるのもお勧めだ。五日市の町を抜ける檜原街道は百日紅の並木で、夏には美しい景観が楽しめる。花の盛りに訪ねてみたい。
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