横浜線沿線散歩公園探訪
横浜市鶴見区東寺尾
入江川せせらぎ緑道
Visited in May 2003
入江川せせらぎ緑道
横浜市鶴見区から神奈川区にかけて流れる入江川の上流部、鶴見区東寺尾辺りに位置する区間は、自然の小川を模したせせらぎとそれに沿った遊歩道として整備され、「入江川せせらぎ緑道」として親しまれている。かつての入江川は周辺の市街化に伴って生活排水やゴミなどによって汚れてしまい、やがて下水道が整備されると水路自体の存在意義も失われていった。その入江川を親水空間としての緑道へと再生させたものが、現在の「入江川せせらぎ緑道」であるという。せせらぎを流れる水は神奈川下水処理場によって高度に処理されたもので、本来の入江川は暗渠となっているらしい。

入江川せせらぎ緑道 「入江川せせらぎ緑道」は人工的に造られたせせらぎではあるが、水辺の緑に溢れ、小魚の泳ぐ姿もあり、今では自然の小川にも負けない素晴らしいものになっている。「入江川せせらぎ緑道」は平成12年度に行われた「近代下水道制度100年記念事業」に於いてその成果が認められ、建設大臣賞「甦る水 100選」のうちの「下水道事業によりせせらぎなどの水環境を創造した事例」として選定されている。
入江川せせらぎ緑道
「入江川せせらぎ緑道」は横浜市鶴見区東寺尾一丁目の北の端に近い部分を東西に延びている。緑道は緑に溢れ、花々に彩られて美しい。せせらぎを覗き込むと、澄んだ水の中には水草の陰に小魚の姿もある。自然石などを巧みに使った造りは自然の小川を彷彿とさせ、昔からあった小川がそのままに保たれてきたのではないかという錯覚さえ抱かせる。まさに水辺の環境の「再生」であったのだろう。
入江川せせらぎ緑道入江川せせらぎ緑道

緑道には地元の人々の行き交う姿もあるが、水辺の景観を眺めながらのんびりと散策を楽しむ人の姿がほとんどだ。歩いている人たちの交わす会話を聞くともなく聞いていると、どうやら遠方から散策目的に訪れた人もあるようだ。すっかり市街化した周辺の環境の中では、こうしたせせらぎの見せる表情はとても貴重なものであるかもしれない。
入江川せせらぎ緑道 緑道を上流側へとのんびりと歩いていると、人だかりがあって、みんなで何かを眺めている様子だ。見るとゴイサギが緑道脇の石の上にじっと動かずにいるのだった。緑道を歩く人から手を伸ばせば届くほどなのに、ゴイサギは身動きひとつしない。写真を撮ろうをレンズを向けても、ぴくりともしない。後で写真を確かめると、鳥類図鑑などで見るゴイサギよりやや首が長いようにも見えるのだが、身体の色や赤い目などはやはりゴイサギのようだ。WEB上で目にするゴイサギの観察記の中には「ゴイサギが水に映る自分の姿に見とれてじっと動かない」といった旨の表現を見ることが少なくないのだが、このときもじっと動かずにいたことを考えると、それもゴイサギの特徴なのだろうか。

入江川せせらぎ緑道 さらに歩くと、今度は真っ白なコサギの姿があった。このコサギには、実は帰路を辿る時にも出会った。その時にはちょうどせせらぎの中の小魚を捕らえて、嘴に挟んだまま緑道脇に上がり、それを飲み込むところを目撃した。このコサギにも、緑道を歩く人間を怖れる様子はまるでない。何しろ小魚をくわえて緑道に上がってきたのはこちらの足元だったのだ。これほど近くでコサギの姿を、それも捕食する瞬間を見たのは実は初めての体験で、とても新鮮で楽しい経験だった。 緑道沿いに、地元の学校の先生と児童によるものと思われる、「せせらぎ緑道で見られる動植物」というような解説板が設置されていた。それにもゴイサギとコサギが記されている。この二羽のサギは、よく飛来してくる、というようなものではなく、このせせらぎに棲みついているものなのかもしれない。
緑道は交通量の多い道路に近いために、歩いていると車の騒音なども聞こえてはくるが、さまざまな表情を見せるせせらぎと岸辺を眺めながらの散策は楽しい。舗道はせせらぎの右手になり、左手になり、緩やかに曲がってゆき、歩いていて飽きない。ザリガニ釣りをする親子連れの姿もあった。夏になれば子どもたちの水遊びの場所になるらしい。
入江川せせらぎ緑道

緑道の周囲は基本的に家々が立ち並んでいるので開放感はあまりないが、適度な閉塞感が落ち着いた雰囲気に繋がっているようにも感じられる。途中、何カ所かで車道を横断しなくてはならないが、交通量の多い道を横断することはなく、概ね快適に散策が楽しめる。緑道の随所に案内板が設置され、せせらぎを越える道にそれぞれ「松陰橋」や「向谷橋」といった名があることがわかる。

上流側へと歩いて、やがて白幡下橋へ至ると、せせらぎに流れる水の噴出口がある。ようするに上流端である。噴出口脇には四阿も置かれていて一休みによいかもしれない。そこから抜け出るとバス通りに出る。このバス通りは地図で確認すると東に向かって国道1号線の「岸谷」交差点へと辿っている。この道路をほんの少し南東側へと進むと、東側の丘の上に白幡公園がある。
入江川せせらぎ緑道
一方、建功寺の入口脇から、馬場一丁目の中を北へ向けて「せせらぎ右支川」が延びている。こちらは東寺尾の緑道とはほんの少し趣が違っている。人工的な「水路」的な雰囲気が強くなり、両脇の家々も間近に迫っている。のんびりと散策を楽しむ人の姿より、地元の人の行き交う姿が多い。こちらはどうやら散策路としての意味合い以上に、地元に暮らす人の生活のための舗道としての役割が大きいのだろう。
入江川せせらぎ緑道

しかしもちろん散策が楽しくないわけではない。せせらぎには鯉の泳ぐ一角もあり、緑道脇の木々や花々を眺めながらの散策は楽しい。適度な屈曲を与えられた舗道は、まさに家々の間を縫うように続き、何やら秘密の通路を抜けてゆくような楽しさがある。せせらぎは自然の小川のような風情には乏しいが、きちんと整備された公園のような端正な美しさがある。途中には藤棚とベンチを置いた場所があり、その傍らに建設大臣賞「甦る水 100選」に選定された旨の記念碑が建っている。
入江川せせらぎ緑道入江川せせらぎ緑道
「入江川せせらぎ緑道」は行楽地的性格を併せ持った公園ではなく、駐車場などももちろん設置されてはいないが、足を延ばして訪れても充分に魅力あるものだと思える。緑道の南側には「東寺尾ふれあいの樹林」も近く、上流端付近からは白幡公園が近い。右支川の方からは建功寺や「馬場の赤門」が近い。さらに東方へ足を延ばせば寺尾城址などもある。せせらぎ緑道を往復するだけでも楽しいが、それらを併せて周辺の散策を楽しむと良いだろう。

訪れるにはJR鶴見駅西口から「水道道(鶴見三ツ沢線)」を通る横浜市営バスの路線を利用するのが「正攻法」であるようだが、横浜線の大口駅からも歩けない距離ではない。大口駅から町の佇まいを楽しみながらのんびりと歩いてみるのもお薦めだ。
入江川せせらぎ緑道