東急東横線妙蓮寺駅のすぐ近く、横浜市港北区の南東端辺りに位置して「菊名池公園」という公園がある。古い時代に農耕用の溜池として造られたという池を中心に整備された公園だ。その池の岸辺に、春になれば大きく枝を張り出して桜が咲く。なかなか見事な景観である。

公園は南北に長いが、「水道道」によって南北に分断されており、北側部分と南側部分の二つの区画から構成された形だ。北側には公園の名の由来となった「菊名池」を抱え、南側は子供用のプールを設けたエリアだ。古い時代には菊名池は現在の公園のほぼ全てを占める大きさだったらしいが、1960年代以降になって現在の形になったものという。

公園の北側のエリア、水道道に面して広場が設けられている。その広場の西側、他の木々に混じって桜があり、広場に春色を添える。手軽なお花見を兼ねてか、ベンチでくつろぐ人の姿があったり、広場で遊ぶ子どもたちの姿があったり、のんびりと穏やかな春の光景に桜がよく似合う。

菊名池の西側の岸辺に、春になれば桜が咲く。桜はそれほど多くはないが、どの桜も大きなもので、池の水面に枝を張りだして見事な景観を見せる。池は南側から東側、北側にかけての岸辺は歩くことができるのだが、西側の岸辺には遊歩道が設けられていない。だから池の岸辺に桜はほぼ必ず池越しに見ることになる。それがかえって良い興趣を漂わせている。

岸辺の桜は池の水面に手を伸ばすかのように枝を張り出し、風に散った花弁が水面に浮かぶ。桜の周囲では落葉樹の新緑が芽吹き、春の青空を背景に鮮やかなコントラストを見せる。美しい風景である。西側から見たり、北側から眺めたり、視点が変われば景観の表情が変わって飽きない。やはり桜と水辺との組み合わせには格別の情趣がある。

公園の南側エリアの南側、道路に面して菊名池弁財天を祀る社がある。弁財天は現在は公園内に位置しているわけではないが、かつて菊名池の辺に祀られていたものだろう。その弁財天の横にも桜が咲いている。それほど大きな桜ではないが、弁財天の社との取り合わせがよい風情を醸している。

公園南側エリアのプールは、もちろん桜の季節には使用されておらず、単なる池と化している。その水面にも鴨の姿がある。園内に植えられた柳も芽吹きの季節である。

菊名池公園は“桜の名所”と呼ぶには少しばかり物足りないが、菊名池の岸辺に咲く桜はなかなか風趣に富んで素晴らしい。お花見目的に訪れには適していないかもしれないが、花見を兼ねた春散歩に訪れるのも良いものだろう。妙蓮寺駅前の商店街でお弁当などを調達し、池の岸辺で桜を眺めながらのランチも楽しい。