幻想音楽夜話
Toulouse Street / The Doobie Brothers
1.Listen To The Music
2.Rockin' Down The Highway
3.Mamaloi
4.Toulouse Street
5.Cotton Mouth
6.Don't Start Me To Talkin'
7.Jesus Is Just Alright
8.White Sun
9.Disciple
10.Snake Man

Tiran Porter : vocals and bass.
Pat Simmons : vocals and guitar.
Tom Johnston : vocals and guitar.
John (Little John) Hartman : drums and percussion.
Michael hossack : drums.

Produced by Ted Templeman
1972 Warner Bros. Records Inc.
Thoughts on this music(この音楽について思うこと)

 ドゥービー・ブラザースというアメリカン・バンドが日本に紹介されたのは、彼らのセカンド・アルバム「Toulouse Street」によってである。「Toulouse Street」が発表されたのは1972年のことで、このアルバムからのシングルとなった「Listen To The Music」は全米チャートでもなかなかのヒットになった。しかしこの頃のドゥービー・ブラザースはお世辞にも日本で注目されていたとは言えない。マニアックなアメリカン・ミュージックのファンの間で少しばかり話題になったという程度ではないか。日本で彼らが注目され、人気を得るのは、次作「Captain And Me」と、そこからのヒット「China Grove」の発表まで待たなくてはならない。

 だから個人的にも、このアルバムや「Listen To The Music」によって彼らを知ったという記憶はない。すでに正確に覚えてはいないが、おそらくラジオ番組などでオンエアされる「China Grove」を耳にして、そこから次第にドゥービー・ブラザースというバンドに対する認識を深めていったような気がする。そんなわけで、そのドゥービー・ブラザースが1972年に発表した楽曲として、後になって「Listen To The Music」を知ったはずだが、今となってはどのような順番で知っていったのかはわからない。個人的には「Toulouse Street」と「Captain And Me」は二枚一組になってドゥービー・ブラザースというバンドの音楽を知らしめてくれたものだったようにも思う。

 この「Listen To The Music」という楽曲がとても好きだ。ドゥービー・ブラザースの楽曲の中で何が一番好きかと問われれば、迷うことなく「Listen To The Music」を挙げる。個人的には「Listen To The Music」こそがドゥービー・ブラザースだ。だからその楽曲を収録したオリジナル・アルバムである「Toulouse Street」も、個人的に特別な意味を持つ作品になってしまっている。

節区切

 ドゥービー・ブラザースは「Toulouse Street」に先立つファースト・アルバムを1971年に発表しているが、米国でもあまり人気は得られなかったようだ。このファースト・アルバムはアコースティック・ギターを中心にしたサウンドながら、歯切れの良いギターのカッティングと爽やかなコーラスという彼らの持ち味が活かされた好盤だったが、やはり衆目を集めるほどの完成度は持ち得ていないというのが正直なところかもしれない。彼らのファースト・アルバムは日本ではずいぶん後になって発売され、コアなアメリカン・ミュージック・ファンを喜ばせてくれたものだった。

 ファースト・アルバムを発表した後、ドゥービー・ブラザースはドラム奏者のマイケル・ホサックを新たなメンバーに迎え、ツイン・ドラムの編成になって、この「Toulouse Street」を発表する。ツイン・ドラムとなったためか、ファースト・アルバムから「Toulouse Street」への変化は、主として躍動感や力強さが増すという点に現れているように思える。結果、この「Toulouse Street」はアコースティックな味わいを残す楽曲と、ハードにドライヴする楽曲とがほどよくブレンドされた好盤となった。「Toulouse Street」からは「Listen To The Music」や「Jesus Is Just Alright」がヒットし、アメリカのロック・シーンで一躍注目を集めることになる。

 当時のドゥービー・ブラザースはカリフォルニアを活動の拠点にしており、いわゆる「ウエスト・コースト・サウンド」のひとつとして認知されてゆく。カリフォルニアという土地の風土が生むものなのか、ドゥービー・ブラザースの音楽も爽快で軽快、カラッと乾いた音楽性が魅力だったと言えるだろう。やはり「ウエスト・コースト・サウンド」のバンドとして同時期に人気を増していたイーグルスが少々内省的な音楽性を漂わせていたのに対し、ドゥービー・ブラザースはあくまでロック・ミュージックのダイナミズムに重きを置き、「外へ向かった」躍動感が魅力であったように思える。この両者は1970年代のアメリカン・ミュージック・シーンに於いてまるで競い合うように人気を高めてゆき、1970年代半ばにはアメリカン・ロックを代表するバンドとして双璧を成す存在としてシーンに君臨することになるのだが、その成功へ向かって走り始めた頃のドゥービー・ブラザースの姿を如実に表した作品としても「Toulouse Street」は忘れがたい。

節区切

 何しろアルバムの一曲目が「Listen To The Music」だ。この楽曲の、この軽快感、高揚感が何とも素晴らしい。「Listen To The Music」というタイトルも、その歌詞に込められたメッセージもいい。歯切れの良いギターのカッティングが印象的な演奏にはハードな感触はなく、大らかで穏やかですらある。カラリと乾いた音像の中に少しばかり素朴な泥臭さも覗く。ゆったりとしたリズムは「疾走感」というより「滑空感」とでもいうべき感覚に近い。まことに個人的な感想で申し訳ないが、この曲を聴いているととてもポジティヴな気持ちになって元気が出てくる。これからもがんばっていこうという勇気をもらえる。この曲を聴いてそのような思いを抱く人が他にもあったなら嬉しい。

 「Rockin' Down The Highway」もまた初期ドゥービー・ブラザースの代表曲のひとつと言ってよいだろう。ハードにドライヴを効かせた演奏で、タイトルから受ける印象そのまま、ハイウェイを突っ走るかのような痛快な疾走感を伴った楽曲だ。とにかく「音」がスカッと明るく乾いているところがいい。ハードな演奏だが豪放に過ぎず、あまりラフな印象がないのも彼らの持ち味と言えるだろう。

 「Mamaloi」はのどかな田園風景を連想するような感触のポップな楽曲だ。それほど目立つ楽曲ではないが、穏やかな印象の佳品だ。この楽曲はパット・シモンズによるものだ。

 アルバムのタイトル曲となった「Toulouse Street」もパット・シモンズによる楽曲で、アコースティック・ギターによる演奏と感情を抑えたコーラスとが静謐な美しさを湛えている。繊細な中に漂う情感が味わい深い。間奏部分に聞こえてくるフルートの音色が幻想的な寂寥感を伴っていて印象深い。

 「Cotton Mouth」はシールズ&クロフツの楽曲のカヴァーで、ブラスやコンガの演奏を加えて少々異色な仕上がりを見せる。間奏部分で奏でられるアコースティック・ギターも印象的だ。

 「Don't Start Me To Talkin'」は往年のブルース・シンガー、ソニー・ボーイ・ウィリアムソンの楽曲のカバーだ。この曲もブラスの演奏を加え、見事にブルージーなグルーヴを見せる。トム・ジョンストンのエレクトリック・ギター・ソロも聴き応えがある。

 「Jesus Is Just Alright」は、かつてバーズも「Ballad Of Easy Rider」の中で取り上げていたゴスペル曲だが、アメリカでヒットしたこともあってすっかりドゥービー・ブラザースの代表曲のひとつになってしまっている観がある。コンガの演奏を加えての演奏はパワフルでポップ、構成も凝っていてなかなか聴き応えがある。この曲や、「Don't Start Me To Talkin'」などを取り上げているところなどに、トム・ジョンストンの音楽的ルーツを垣間見る思いがする。

 「White Sun」はアコースティック・ギターによる演奏とコーラスを主体にしたリリカルな楽曲だ。この楽曲はトム・ジョンストンによるもので、パット作の「Toulouse Street」との印象の違いにふたりの音楽的指向の違いが見えるような気もする。

 ドゥービー・ブラザースのハードにドライヴするロックン・ロールの魅力を充分に堪能できる楽曲として、「Disciple」も印象に残る楽曲だ。アルバム収録楽曲中でもっとも演奏時間の長い楽曲で、他の曲が4分台以内であるのに対し、この楽曲は6分を超え、7分近い。その分だけ彼らの演奏を楽しめるわけだが、他の楽曲がコンパクトにまとめられているのと比較すると、この曲を冗長だと感じる人もあるかもしれない。しかしロック・ミュージックの好きな人であるなら、彼ら自身が演奏を楽しんでいる様子が伝わってきて充分に楽しめるだろう。歯切れのよいリズムにのったギター・ソロなどはなかなかの「聴きもの」だ。アルバム中でもっともハード・ロック的な印象の楽曲であるかもしれない。

 アルバム最後に収録された「Snake Man」はアコースティック・ギターの演奏を主体にしたブルースっぽい楽曲で、なかなか味わいのある小品だ。短い楽曲で、演奏時間は1分半ほどしかなく、「もっと聴きたい」と思っているうちに終わってしまうが、それはそれで楽しい。

 このアルバムに収録されているのは全部で10曲、そのうちの5曲がトム・ジョンストンによる楽曲だ。「Listen To The Music」や「Rockin' Down The Highway」といった代表曲が彼のペンによるものであることを思っても、やはりこの時期のドゥービー・ブラザースはトム・ジョンストンが「鍵」を握っていたと言えるだろう。この時期、トム・ジョンストンこそがドゥービー・ブラザースだったといっても過言ではないかもしれない。

節区切

 ドゥービー・ブラザースは途中で大きく音楽性を変化させながら、1970年代のアメリカン・ミュージック・シーンに君臨したバンドだ。このセカンド・アルバム「Toulouse Street」は、そんな彼らの、「助走」のような作品であるかもしれない。後の成功へ向けて大きな一歩を走り始めたドゥービー・ブラザースの姿がここにある。

 改めてじっくりと聴いてみると「ウエスト・コースト・サウンド」のバンドである前に、彼らが生粋のアメリカン・バンドであったことがよくわかる。ブルースやカントリーといったルーツ・ミュージックが彼らの音楽の根底に脈打っていることがよくわかるのだ。アルバム作品としての充実度や完成度という点では次作以降のアルバムに譲るとは思うが、素朴さも残した音楽の表情は味わいがあって惹きつけられるものがある。「アメリカン・ロック」というものの中で「名盤」としてその名を挙げられることはあまりないが、このアルバムを好むファンは決して少なくはない。初期ドゥービー・ブラザースの音楽の大らかさや暖かみといったものがファンを魅了するのかもしれない。そして個人的には、しつこいようだが、「Listen To The Music」を冒頭に収録したオリジナル・アルバムであるというだけで、このアルバムを推したい。