幻想音楽夜話
Stage Struck / Rory Gallagher
1.Shinkicker
2.Wayward Child
3.Brute Force & Ignorance
4.Moonchild
5.Bad Penny
6.Keychain
7.Follow Me
8.Bought & Sold
9.The Last Of The Independents
10.Shadow Play

Rory Gallagher : guitars and vocals.
Gerry McAvoy : bass.
Ted McKenna : drums.

This album was compiled from live recordings on a world tour November 1979 - July 1980.
Produced by Rory Gallagher.
1980
Thoughts on this music(この音楽について思うこと)

 久しぶりに痛快なハード・ロックを聴いた。ロリー・ギャラガーの「Stage Struck」だ。シンプルなギター・サウンドによるハード・ロックにぞくぞくするような興奮を感じたのは本当に久しぶりだった。

 実を言えば、ロリー・ギャラガーというギタリストの音楽を1970年代にはそれほど熱心には聴いていなかった。もちろんその名を知ってはいたし、その音楽が嫌いではなかった。世の中がLPレコードからCD時代になってから、CDで復刻されたテイストのアルバムを購入したこともあったから、むしろ「好きなタイプの音楽」として自分の中にインプットされていたことは間違いない。それにも関わらず1970年代にロリー・ギャラガーを熱心に聴いた記憶がない。さまざまな原因があるだろうが、自分の好きな音楽がシーンにはあまりにもたくさん溢れていて、ロリー・ギャラガーの音楽は自分の中で脇に押しやられていたといったところだろう。

 2005年になって、ロリー・ギャラガーのライヴ盤3枚が紙ジャケット盤でCD復刻されたのを機会に、この3枚を買い求めた。「Live In Europe」と「Irch Tour '74」、そして「Stage Struck」の3枚だ。「Live In Europe」と「Irish Tour '74」の2枚は1970年代前半に発表されたロリー・ギャラガーのライヴ盤で、いずれも「名盤」として定評のあるものだ。「Stage Struck」は1979年秋から1980年初頭にかけて行われたワールド・ツアーの際の音源を編集したものであるらしい。発表された当時はまだLPレコードの時代で、「Shinkicker」から「Moonchild」までの4曲をA面に、「Follow Me」から「Shadow Play」までの4曲をB面に収録した構成だったが、今回はその間に「Bad Penny」と「Keychain」の2曲がボーナス・トラックとして追加収録されての復刻となったようだ。

 「Live In Europe」と「Irish Tour '74」の2枚は聴いたことがあったのだが、「Stage Struck」はよく知らなかった。1980年代になる頃には自分の音楽的嗜好は「ハード・ロック」や「プログレッシヴ・ロック」から離れて「フュージョン」や「AOR」に向かっていたから、その頃に発表されたロリー・ギャラガーのライヴ盤の新譜にはほとんど興味がなく、見過ごしていたのだろう。そんなわけで、今回初めて「Stage Struck」を聴いた。そしてまたロリー・ギャラガーの音楽そのものをずいぶん久しぶりに聴いた気がする。正直に言うと、(ロリー・ギャラガーのファンに笑われそうだが)「ロリー・ギャラガーって、こんなにカッコよかったのか」などと思ってしまった。本当にすいぶん久しぶりに、ブルースを基調にしたハード・ロック・ギターの演奏に「酔って」しまった。素晴らしい演奏だった。

節区切

 ロリー・ギャラガーというギタリストを知らない人のために、少しだけ説明しておこう。ロリーはアイルランド出身のギタリストで、1960年代には「テイスト」というバンドを率いて活動していたが、1970年代以降はソロとなって数々の名演奏を残している。ブルースを基調としたハード・ロックの情熱的な演奏には熱烈なファンも多い。世の中の趨勢が変わり、「ハード・ロック」というものがロック・シーンの脇へ追いやられてからも、ロリーは自分の音楽スタイルを変えずに精力的な活動を続け、ファンの期待に応えていたものだ。しかしロリーは長年に渡る飲酒が原因で肝臓を患っていたといい、それが元で残念ながら1995年に他界してしまった。

節区切

 テイスト時代、そしてソロになって間もない頃の1970年代前半、ロリー・ギャラガーの音楽はひとことで言うなら「ブルース・ロック」だった。エッジの効いたハードなギター演奏やドライヴ感に溢れた自作曲の魅力は「ハード・ロック」としても一級品だったが、基本的な立脚点は「ブルース」にあったような気がする。自作曲に混じってブルース曲のカヴァーを演奏していたことなどからも、そういった印象が強い。久しぶりに「Irish Tour '74」や「Live In Europe」を聴きながらそんな思いを新たにして、そのような認識のままこの「Stage Struck」を聴いたものだから、はっきり言って「ぶっとんで」しまった。「あのロリー・ギャラガーがこんなハード・ロックをやるようになっていたのか」と。

 「Stage Struck」は重厚で硬質、エッジの効いた「ハード・ロック」の醍醐味に満ち溢れている。ハードに唸るロリーのギター・サウンド、それを支えるベースとドラムのリズムの演奏も素晴らしい。ロリーの歌唱は決して技巧的に優れているわけではないが、真摯で味わい深く、ハードな演奏にうまく似合っている。ハードにドライヴする演奏は張り詰めた緊張感の中にも繊細な情感を併せ持ち、根本的な「歌心」を忘れてはいない。ハードな演奏に痛快なカッコ良さを感じながら、奥深い音楽的感動の中に引き込まれてしまう。どの楽曲のどの演奏もそれぞれに魅力があって飽きさせない。素晴らしい。

 「Stage Struck」に於けるロリー・ギャラガーは、もはや「ブルース・ロック」のギタリストではなく「ハード・ロック」のギタリストだ。誤解の無いように言い添えておくが、ブルースから離れてしまっているというのではない。ブルースを基礎に置きながらも、さらにコンテンポラリー・ミュージックとしての「ロック」に昇華されているという印象があるのだ。ベースにGerry McAvoy、ドラムスにTed McKennaを従えたトリオ編成の演奏はハードにドライヴし、楽曲としての塊感があり、タイトでソリッドな印象がある。その音楽は重厚で硬質、まさに「ブリティッシュ・ハード・ロック」の王道と言っていい。ロリーはアイルランド出身のミュージシャンだから「ブリティッシュ」というのは正しくはないが、「Stage Struck」の演奏は1960年代の「ブリティッシュ・ブルース」から正常進化した「ブリテュッシュ・ハード・ロック」の匂いに満ち溢れている。「Stage Struck」には、「ロック・ミュージック」というものがまだ混沌の中に未来を探し、必然的にハード・ロックとしての方法論を身につけていった時代の息吹が濃厚に漂っている。

節区切

 ロリー・ギャラガーの歌と演奏は、「自らの情念を叩きつけるような」といった言葉で形容されてきた。自らの情感のままをギターに託すロリーの演奏はエモーショナルな魅力に溢れ、それが聴く者の心を捉えてきた。しかしそうした演奏スタイルは往々にして情動的に過ぎて聴き手を置き去りにしてしまうような側面もなかったとは言えない。それはロリーの若さ故のことだったかもしれないし、ロリーの演奏者としての真摯な姿勢の現れでもあっただろう。ファンもまた彼のそういう「青臭さ」に惹かれていた部分もあっただろう。

 「Stage Struck」の演奏には、そうした「青臭さ」が感じられない。敬愛するブルースへの希求を噛み砕いて腹の底に収めた後に、エンターテインメントとしての「ハード・ロック」に徹しきっているという印象がある。そしてそれが見事に奏功している。「Stage Struck」の演奏は、どこか突き抜けてしまったような印象がある。この頃のロリー・ギャラガー自身がどのような心境であったのかは知らない。しかし1970年代前半までの彼の演奏とは、明らかに違う感触がある。どちらが良いとか悪いとかではない。どちらもロリー・ギャラガーの音楽であることは間違いないし、どちらも素晴らしいものであることもまた間違いないのだが、「Stage Struck」に於けるロリーの演奏には何か決意に満ちた潔さのようなものが感じられてならない。

 このアルバムに収録された演奏の行われた1979年から1980年にかけて、ロック・シーンは激動の時期を経ていた。パンクの嵐もようやく過ぎ去って「ニュー・ウェイヴ」へと変貌し、ハード・ロックから進化する形で「ヘヴィ・メタル」が台頭し、一方では「AOR」や「AC」などと呼ばれる都会的な印象に洗練された音楽がポップ・ミュージック・シーンを席巻しようとしていた。1960年代から1970年代初期にかけてロックの主流だったスタイルはすでに「過去の遺物」と化していたのだ。その中で、ロリー・ギャラガーは相変わらずブルースを基盤にした「ハード・ロック」を演奏し続けていたのだ。決して順風満帆とは言えない状況の中で自らの信念を貫き、自らの信じる音楽を演奏し続けるのはなかなか難しいことだ。それでも一切の妥協を許さず、このようなロックを演奏していたロリー・ギャラガーには、おそらく並々ならぬ決意と信念があったに違いない。「これこそが、自分の音楽なのだ」と。その潔さが、この音楽の痛快なまでの爽快感に繋がっているのではないか。

節区切

 ギタリストとベーシストとドラマーというトリオ編成のバンドによる名演奏というものは数多く存在する。クリームやジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、BB&Aなどは言うまでもなく、他にも多くのトリオ・バンドが名盤を残してきた。ロリー・ギャラガー自身もトリオ編成のバンドでの名演奏を少なからず残している。ロック・ミュージックに於ける必要最低限とも言えるトリオ編成のバンドでの演奏は、それだけに「ロック」というものの核に迫るような演奏が多い。この「Stage Struck」もまた、そうしたトリオ編成のバンドによる「名盤」のひとつに数えても差し支えないのではないか。

 「Stage Struck」のCDを購入したのは、言い方は悪いが「ついで」だった。「Irish Tour '74」と「Live In Europe」を購入する「ついでに」、同時発売だった「Stage Struck」も購入したのだ。幸運だったと言わざるを得ない。もしそのとき一緒に「Stage Struck」を購入しなかったなら、このままずっと、この素晴らしい演奏を聴くことはなかったかもしれない。思わぬところで「宝物」を見つけてしまった気分だ。1970年代初期の「ロック」の匂いを濃厚に漂わせたトリオ・バンドによる痛快な「ハード・ロック」を魅力を、久しぶりに堪能させてくれた一枚だった。同好の人で「Stage Struck」を知らない人があったなら、あるいはロリー・ギャラガーというギタリストについてよく知らないという人があったなら、ぜひ聴いてみてほしい。きっと満足できるに違いない。