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八王子市平町
平堰
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平堰
八王子市の北東部、多摩川河岸に平町という地区がある。ここに平堰と呼ばれる、日野用水の取水堰が設けられている。平堰を中心に、平町の辺りを歩いてみたい。よく晴れた十一月上旬、河岸の散策には好適な日だ。
平堰 現在の八王子市平町は多摩川河岸の平地のごく狭い範囲を占める地域だが、かつては西側の丸山町の一部から南側の久保山町の一部まで含んでいたようだ。明治初期にはすでに平村として存在していたらしい。

1878年(明治11年)に郡区町村編制法によって南多摩郡が発足し、平村はその一部となったが、同じ郡内にもう一つ平村が存在したため、こちらは北平、一方は南平と改称されている。そのもう一方が現在の日野市南平だ。

1889年(明治22年)に周辺の村々が合併して小宮村が成立、北平村はその一部(大字北平)となる。小宮村は1934年(昭和9年)に町制を施行して小宮町となり、1941年(昭和16年)には八王子市に編入されている。かつての平村が北平村となり、小宮村大字北平となり、現在は「北」が取れて八王子市平町だ。地名の変遷というものの面白みを感じる経緯だ。

1977年(昭和52年)には西側の地域が丸山町の一部に、1988年(昭和63年)には南側の地域が久保山町の一部に分割され、現在の状況(2024年現在)になっている。
平堰 平町の北側には多摩川が流れている。そこに日野用水の取水堰が設けられている。地域の名から「平堰」の名で呼ばれている。日野用水が開削されたのは戦国時代の1567年(永禄10年)のことで、すでに450年以上の歴史を刻んでいる。

ここで多摩川から取水された日野用水は多摩川右岸、日野台地北側の平地を東へ流れていく。日野用水には上堰と下堰の二本の主要流路がある。かつてはここが上堰の取水口で、下堰の取水口は下流側に下った日野市の東光寺裏手の辺りにあったそうだが、現在の下堰は上堰から分水された流れになっている。

平堰 多摩川の堤防道に立てば平堰の景観を見下ろすことができる。堰の上流側には満々と水を湛え、草木の茂る中州が浮かんでいる。美しい景観だ。

対岸に見えるのは昭島市大神町だ。かつてこの辺りに渡船場があった。現在の八王子市平町と昭島市大神町とを繋いで渡し船が多摩川を渡っていた。「平の渡し」と呼ばれる渡しで、江戸時代以前からある古いものだという。近代になると大神町が運営を担い、実質的には「大神の渡し」だったらしい。平町が昭島市大神町の昭島市立成隣小学校の学区域だった時期があるそうで、子どもたちは渡し船や板橋を使って通学していたという。

平堰 平堰の所在地は八王子市だが、日野用水の取水堰ということで“水辺のある風景日野50選”のひとつに選定されている。“水辺のある風景日野50選”のNo.01、「平堰−日野用水の源」だ。それを示すプレートが取水施設に取り付けられているから、興味のある人は見ておこう。

取水施設から日野用水に導かれた水は平町の家々の横を流れ、八王子水再生センターの西側から南側へ回り込むように流れていく。平町から小宮町の町域へ、2.5kmほどを流れて、谷地川を越える辺りでいよいよ日野市の市域だ。
平堰 平町の町域の東側半分は東京都下水道局の八王子水再生センターの敷地が占めている。八王子水再生センターは平町の東側から小宮町北部にかけての、多摩川右岸の広い範囲を占めている。

八王子水再生センターの施設建物の屋上部分を活用して「たいらまち広場」という公園が設けられている。たいらまち広場は草はらの広場で、南側の隅にわずかに遊具が設置されている。建物の上、しかも河岸の立地だから広場は開放感に溢れている。西に見える丘陵は加住丘陵だろう。その向こう、北西の方角に遠く見える山並みはあきる野市から青梅市にかけての辺りか。
平堰 平町の町域の東端部を、JR八高線が南北に抜けている。八王子水再生センター横の堤防道からも八高線の多摩川橋梁がよく見える。すぐ近くから見上げるのも楽しいが、少し離れたところから眺める橋梁の姿も興趣に富んでいる。

この八高線多摩川橋梁で、1945年(昭和20年)8月24日朝7時40分頃、上り下りの列車が正面衝突するという大事故が起きた。100名を超える人々が死亡する大惨事だった。終戦間もない頃で、列車には通勤通学の人々に加え、復員兵や疎開先から帰る人々も多く乗車していた。当日は豪雨で、多摩川は増水、その濁流に流された乗客も少なくなく、遺体が見つからないままの人々もあっただろうという。対岸の昭島市宮沢町の、橋梁近くの堤防道の脇に、事故に関する簡単な解説を記した案内板が立てられ、傍らには事故車両のものと思われる車輪が保存展示されている。機会があれば、それも訪ねてみるといい。
平堰
平堰は日野用水の取水堰ということで、日野の用水を巡る趣味の人なら必ず訪ねておきたいところだ。そのまま日野用水の流れに沿って散策の足を延ばすのもお勧めだ。平町には真新しい住宅も建っているが、昔ながらの風景も残っている。町歩き趣味の人でも楽しめる。
平堰
平堰
平堰
平堰
平堰