佳景探訪
「薩摩の小京都」知覧
鹿児島県南九州市の知覧には江戸時代の武家屋敷群が残っている。「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、「名勝」に指定された庭園も残る。「薩摩の小京都」とも称される知覧を訪ねた。



知覧武家屋敷通り

知覧武家屋敷通り

知覧武家屋敷通り

知覧武家屋敷通り

知覧武家屋敷通り

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知覧武家屋敷通り

知覧武家屋敷通り

知覧武家屋敷通り
江戸時代、薩摩は領地を外城(とじょう)と呼ばれる地区に分け(幕末には113の外城があったと言われる)、それぞれの外城は地頭や領主の屋敷である「御仮屋」(「地頭仮屋」とも呼ばれる)が行政を担っていた。御仮屋の周囲には地方武士である郷士が集住して武家集落を成していたが、その武家集落は「麓(ふもと)」と呼ばれた。「麓」に暮らす郷士たちは普段は農業を営みながら有事に備えていた。領内各地に散在する「麓」は有事の際に薩摩の防御を担う存在だったのだ。

知覧の武家集落もそうした「麓」のひとつで、「知覧麓」と呼ばれる。「麓」は鹿児島県内から宮崎県南部にかけて広く点在していたが、多くは往時の景観が失われてしまっている。知覧はかつての武家集落の様相をそのままに残す、数少ない「麓」のひとつだ。現在まで残る知覧の武家屋敷群がつくられたのは、江戸時代中期、第十八代知覧領主島津久峰の頃だという。

現在の知覧は鹿児島県南九州市の一地区だが、2007年(平成19年)以前は川辺郡知覧町という自治体だった。2007年(平成19年)12月1日に知覧町と同じ川辺郡に属していた川辺町、さらに揖宿郡頴娃町の三町が合併し、南九州市が誕生した(ちなみに、この合併によって川辺郡と揖宿郡が消滅している)。まだ知覧町だった1975年(昭和50年)、「知覧武家屋敷庭園保存会(現在の「知覧武家屋敷庭園有限責任事業組合」)」が発足、地域住民と行政が一体となった町町づくり、知覧麓の景観の保存へ向けた取り組みが始まった。現在、知覧の武家屋敷群が美しい景観のままに残るのは、この活動のお陰である。

そうした活動が奏効してか、1981年(昭和56年)2月には武家屋敷群の七つの庭園が「知覧麓庭園」として国の「名勝」の指定を受け、さらに同年11月には「伝統的建造物群及び地割がよく旧態を保持しているもの」として「重要伝統的建造物群保存地区」にも選定されている。さらに1986年(昭和61年)には建設省と「道の日」実行委員会によって制定された「日本の道100選」にも「武家屋敷通り」として選定されている。知覧の武家屋敷群は、名実共に全国に誇る景勝であり、貴重な歴史遺産だ。

知覧の武家屋敷群は、途中で折れ曲がりながら約700m続く本馬場通りと、通り沿いに建ち並ぶ武家屋敷から構成される。電柱や側溝が廃された本馬場通りには石垣と生垣が続き、往時のままの面影を今に伝えている。通り沿いに並ぶ武家屋敷の腕木門も風趣に富んだ味わいだ。風雅な印象の中にも凛とした空気を漂わせているのは、そもそも武家の集落であるからか。視線を上げれば町並みの向こうには母ヶ岳の優美な稜線を遠望し、その山々を借景に町並み全体がひとつの庭園のようでもある。その景観を味わいながらのんびりと歩けば、江戸時代の町並みに迷い込んだかのような錯覚さえ覚える。

知覧の武家屋敷群の中には国の名勝に指定された七つの庭園がある。西郷恵一郎庭園、平山克己庭園、平山亮一庭園、佐多美舟庭園、佐多民子庭園、佐多直忠庭園、森重堅庭園の七つだ。このうち、森重堅庭園だけが池泉式、他の6庭園は枯山水式である。石組の見事な佐多美舟庭園や、鶴亀の庭園とも言われる西郷恵一郎庭園、あるいは石組を用いずイヌマキとサツキの刈り込みに母ヶ岳を借景とした平山亮一庭園など、どの庭園も工夫を凝らした作庭で、それぞれに特徴があって飽きさせない。それぞれの庭園をじっくりと見学していけば時間の経つのを忘れる。いずれも小規模ながら国の「名勝」の指定に恥じない名園である。

江戸時代の武家集落の風情を楽しみながらのんびりと散策すれば、ひととき世俗を忘れた時間を過ごせる。武家屋敷群の中に建つ家の中にはカフェを営んでいるところもある。散策の途中で一休みするのもいいものだ。「薩摩の小京都」とも称され、鹿児島の代表的な観光名所のひとつとして名を連ねる知覧、鹿児島観光の際にはぜひとも訪ねておくべきところだと言っていい。お勧めである。




矢櫃橋

矢櫃橋

矢櫃橋

矢櫃橋
武家屋敷通りから100mほど東、麓川に「矢櫃(やびつ)橋」という石橋が架かっている。1852年(嘉永5年)に造られたと伝えられているそうで、鹿児島城下との往来のために多くの人馬が行き交った橋だという。「矢櫃」の名は、「矢の櫃」、あるいは「矢を引く」が転じたものだそうだが、はっきりしたことはわからないようだ。

矢櫃橋は規模の小さな、簡素な橋だが、風趣に富んだ姿が素朴な美しさを感じさせる。実際に渡ることも可能だから、江戸時代の人々になったつもりで橋を渡ってみるのも一興だ。橋の幅は決して広くはない。往時の人々は交互に渡ったのかもしれない。

矢櫃橋南側の丘は亀甲城(蜷尻(みなじり)城とも言う)という中世の城の跡で、現在は知覧亀甲城公園という公園になっている。公園内には曲輪や土塁、堀切などが残されている。中世の城跡に興味のある人は見学していくといい。

武家屋敷通りには多くの観光客が訪れているが、矢櫃橋周辺にはほとんど観光客の姿はない。観光地の喧噪を感じさせない閑寂さが魅力だ。知覧を訪れたときには、武家屋敷通りから足を延ばしてみるのもお勧めだ。橋の下を流れる麓川の岩床には甌穴も見られる。そうしたものにも目を留めておきたい。
参考情報
知覧の武家屋敷は町並みを散策するだけなら入場料などは必要ない。庭園を見学するには入園料が必要だ。一度入園料を支払えば七つの庭園すべてを見学することができる。その他、開園期間や開園時間、入園料などの詳細については公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通

鹿児島市中心部から車で知覧を訪れる場合は、国道226号を南下、平川で県道23号へと逸れ、道なりに進めばいい。あるいは指宿スカイラインを南下、知覧ICで降り、県道23号線を南下すればいい。指宿市方面からは池田湖畔を経由し、県道17号を北上、そのまま指宿スカイラインへと進み、知覧ICから県道23号を辿るのがわかりやすい。枕崎市方面からは国道225号を北上、川辺町から県道27号へと逸れるのがわかりやすいだろう。遠方から訪れる人は九州自動車道から指宿スカイラインへと辿るのがお勧めだ。

鉄道を使う場合はJR指宿枕崎線平川駅からバスを利用する方法もあるが、土地勘の無い人には鹿児島中央駅前から知覧行きのバスを利用する方法をお勧めする。

飲食

武家屋敷通りの周辺には飲食店はないが、東側と西側に数件の飲食店が建っている。知覧で食事をするならそれらの店のどれかを選ぶといい。

周辺

武家屋敷通りから県道27号を辿って3kmほど南へ下ると知覧特攻平和会館がある。周辺は知覧平和公園という公園になっている。

知覧は茶葉の産地として有名なところだ。主要道から外れて周辺へと足を伸ばすと茶畑の広がる長閑な風景が楽しめる。そうした風景の中の散策を楽しむのも一興だろう。
「薩摩の小京都」知覧

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