鹿児島県指宿市の長崎鼻は薩摩半島最南端の岬だ。白亜の灯台が建ち、眼前に大海原が広がる。西には開聞岳も近く、素晴らしい景観が楽しめる。夏の盛りの八月、長崎鼻を訪ねた。
長崎鼻
鹿児島県指宿(いぶすき)市最南部の海岸に「長崎鼻」という岬がある。指宿市の最南部というだけでなく、薩摩半島最南端の岬だ。鹿児島でも有数の観光地、景勝地として知られ、多くの観光客が訪れる。
長崎鼻
長崎鼻は浦島太郎が海へと旅立った場所だという伝承もあり、岬の一角に龍宮神社が祀られている。その先に岬が長く海へと伸びている。岬突端部に白亜の灯台が建ち、風景にアクセントを添える。岬には蘇鉄が自生し、南国ムード漂う景観を見せている。岬を辿る遊歩道の風情もいい。美しい岬である。
長崎鼻
岬先端部の磯辺に立てば眼前には大海原が広がる。天候に恵まれればそこに竹島や硫黄島、さらに屋久島の島影を見ることもできる。それらの島影の向こう、南西側に広がる海は東シナ海である。東を見れば海の向こうに大隅半島の山々が連なり、西には弧を描く砂浜の向こうに開聞岳が聳える。開聞岳は朝方は順光を浴びて鮮やかに輝き、午後には逆光の中にシルエットとなって空に浮かぶ。
長崎鼻
岬そのものの景観も美しく、そこから眺める周囲の風景も素晴らしく、景勝地としての魅力に溢れた長崎鼻である。鹿児島観光で一度は訪ねておきたい岬と言っていい。長崎鼻の魅力は特に季節を選ばないが、せっかくなら景観が明るい陽光を浴びる初夏から夏がお勧めか。
長崎鼻
龍宮神社
長崎鼻の一角には龍宮神社が祀られている。日本神話に語られる豊玉姫を祀る神社だ。鮮やかな朱色に塗られた社殿や鳥居が緑の木々や空の青によく映えて美しい。鳥居の向こうに海を見る景観も美しくフォトジェニックだ。その印象はまさに南国の海の宮、龍宮を彷彿とさせる景観である。
長崎鼻/龍宮神社
「龍宮」はよく知られた昔話「浦島太郎」に語られる海神の宮だ。浜辺で亀を助けた浦島太郎は亀に連れられて、海原の宮である「龍宮」で招かれ、そこで乙姫と出会い、三年の時を過ごすのだが…というストーリーだ。浦島太郎の伝説は日本各地に残っている。ここもそうした伝承の地のひとつというわけだ。
長崎鼻/龍宮神社
浦島太郎の伝説と日本神話に語られる山幸彦が海神の宮で豊玉姫に出会うエピソードは、その物語のプロットがよく似ている(おそらくルーツは同じなのだろう)が、ここではほぼ同一視され、豊玉姫と乙姫、浦島太郎と山幸彦が同一のものとの解釈が成されているようだ。
長崎鼻/龍宮神社
傍らに設けられた解説版には、そうした伝承とウミガメとの関連が語られている。この辺りの海岸にはウミガメが産卵のために上陸する。昔の人々はウミガメを海の守り神として大切に扱ったのだといい、海の恵みへの感謝と崇敬が浦島太郎や乙姫の伝承に結びついたのではないかというわけだ。詳しい検証は専門家に譲るが、古(いにしえ)の人々の海に対する崇敬や畏怖の思いが、伝承として形を変えて残ったのかもしれない。神社の境内から海を眺めていると、昔の人々の海への思いもわかる気がする。
長崎鼻/龍宮神社
長崎鼻から見る開聞岳
岬を辿る遊歩道から西を見れば、弧を描く砂浜の向こうに開聞岳が聳えている。開聞岳は「薩摩富士」の異名もあり、端正なコニーデ形の山容が美しく、それが海に浮かぶ景観はまた殊更に美しい。開聞岳は長崎鼻からは西北西の方角に位置しているから、順光を浴びて明るい景観を楽しむなら朝方からお昼頃にかけてがお勧めだ。
長崎鼻/龍宮神社
長崎鼻には開聞岳のお勧めビューポイントが数多くある。砂浜と開聞岳の取り合わせもいいが、龍宮神社の境内地からの景観もいい。「霧島錦江湾国立公園 長崎鼻」と記された銘板とベンチが開聞岳を背景に並んだポイントもあり、これは記念撮影に便利だ。岬突端部近くから磯辺の向こうに開聞岳を見る景観も荒々しい魅力があって美しい。写真趣味の人ならさまざまな開聞岳の姿を撮影しておこう。
長崎鼻/龍宮神社
長崎鼻/龍宮神社
長崎鼻の蘇鉄
岬へ続く遊歩道を歩いていると、周囲に数多くの蘇鉄(ソテツ)があることに気付く。蘇鉄はそもそも熱帯、亜熱帯地域の植物で、蘇鉄が繁茂する風景は南国ムードを漂わせる。

長崎鼻の蘇鉄は植栽されたものではなく、自生しているものだ。鹿児島県内ではここ(山川)以外には坊津(ぼうのつ)、佐多、内之浦に自生しており、日本に於ける蘇鉄自生地の北限とされている。その貴重さから「鹿児島県のソテツ自生地」として「国指定特別天然記念物」となっている。ちなみに蘇鉄自生地の北限として国の特別天然記念物の指定を受けている場所には、他に宮崎県串間市の都井岬がある(「都井岬ソテツ自生地」)。これらの場所は黒潮の影響を受けて年間の平均気温が高い。蘇鉄が自生する条件にかなっているのだろう。
長崎鼻/長崎鼻の蘇鉄
長崎鼻/長崎鼻の蘇鉄
薩摩長崎鼻灯台
長崎鼻の突端部に建つ灯台が薩摩長崎鼻灯台だ。1957年(昭和32年)に建造されたもので、塔高は11.0m、灯高(平均海面からの高さ)は21.0m、光達距離は13.5海里(約25km)である。決して大きな灯台ではないが、優美さも感じさせるデザインで、風光明媚な場所に建つ灯台に相応しいものにしようと特別に設計されたものという。
長崎鼻/薩摩長崎鼻灯台
灯台内部には普段は立ち入ることができないが、台座部分は展望所を兼ねているようで、自由に利用することができる。そこに立てば海に突き出た磯辺の向こうに海原が広がり、荒々しくも美しい景観が楽しめる。
長崎鼻/薩摩長崎鼻灯台
意匠に凝った灯台は、灯台そのものの姿も美しい。北側(すなわち岬の奥側)から岬の先端部に立つ姿は特に素晴らしく、岬を辿る遊歩道や岬に茂る木々と灯台が水平線を背景に織り成す風景はとてもフォトジェニックだ。灯台よりさらに海側の磯辺から振り返って仰げば、順光の日差しを浴びて灯台が白亜に輝き、岬の木々を背負って風景に映える。さまざまに美しい表情を見せる灯台である。
長崎鼻/薩摩長崎鼻灯台
岬先端の磯辺
薩摩長崎鼻灯台の先は磯辺になっていて、岩場の中を縫うように細い遊歩道が辿っている。波の浸食などによるものか、ところどころ途切れた部分もあって、そこでは否応なく岩場の上を歩かなくてはならない。足元を確かめながら進んでゆけば、まさに岬の先端、眼前には海原が広がるばかりだ。長崎鼻を訪れたなら、やはりこの磯辺先端部からの眺めも楽しんでおきたい。磯辺は潮の満ち引きによって景観が異なる。予め調べておいて、引き潮の時刻に訪れるのがお勧めだ。
長崎鼻/岬先端の磯辺
長崎鼻/岬先端の磯辺
参考情報
交通
鉄道を利用して訪れる場合はJR指宿枕崎線西大山駅が最寄りだが、駅からは4kmほどの距離があり、徒歩ではつらい。指宿駅や山川駅からタクシーを利用するのが賢明だろう。

車で訪れる場合は鹿児島市街から国道226号や指宿スカイラインなどを利用して南下、国道226号の「長崎鼻入口」交差点からさらに南へ向かえばいい。近くまで行けば長崎鼻を指し示す標識などがあるから、それに従えばいい。

大隅半島側から来る場合は根占から山川へフェリーで渡る方法もある。

長崎鼻には市営の無料駐車場が用意されているが、駐車台数は16台分と少ない。余裕を持った予定で行動しよう。

飲食
岬へ向かう道脇には土産物店が建っているが、食事の可能な店は無い。食事は場所を変えて楽しもう。

周辺
長崎鼻には「長崎鼻パーキングガーデン」という施設がある。亜熱帯の植物を数多く植栽し、サルや鳥類などの小動物を展示した施設だ。時間に余裕があれば立ち寄っておこう。

長崎鼻のすぐ北側には「フラワーパークかごしま」がある。面積36ha超という広大な植物公園で、世界各地の亜熱帯植物を見ることができる。興味のある人は訪ねてみよう。

長崎鼻の西側には開聞岳が聳えている。開聞岳北側の山麓に設けられた「かいもん山麓ふれあい公園」などから間近に開聞岳の姿を眺めてみるのも楽しい。さらに西へ頴娃方面へ辿れば、海岸から東に開聞岳を眺めることのできる場所もある。開聞岳のさまざまな表情を楽しんでおきたい。

長崎鼻近くにあるJR指宿枕崎線西大山駅はJR日本最南端の駅として知られ、鉄道ファンなど、数多くの観光客が訪れる。立ち寄ってみるのもお勧めだ。

長崎鼻は指宿市、指宿市と言えば砂蒸し温泉がよく知られている。日帰り体験の可能な施設もあるから体験してみるのもお勧めだ。

指宿市の北東側には知林ヶ島という島がある。この知林ヶ島は春から秋にかけての大潮、中潮の干潮時に砂州によって繋がる、いわゆる「トンボロ現象」が起こることで有名だ。砂州が出現すれば島に歩いて渡れる。ぜひ体験しておこう。

長崎鼻の北方、山間部には池田湖や鰻池などの湖がある。これも指宿観光の際には訪ねておきたい。
海景散歩
鹿児島散歩