佳景探訪
しょうぶ沼公園
東京都足立区の東部に「しょうぶ沼公園」という公園がある。その名のように園内には菖蒲田が設けられ、六月には美しい景観を見せてくれる。花菖蒲が見頃の六月半ば、しょうぶ沼公園を訪ねた。



しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園
「しょうぶ沼公園」が設けられているのは東京都足立区の東部、東京メトロ千代田線の北綾瀬駅のすぐ近くだ。この辺りは、昔は野生のノハナショウブが繁茂する低湿地で、「菖蒲沼耕地」と呼ばれていたそうだ。戦争の影響で往時の面影は失われてしまったということだが、1971年(昭和46年)、足立区が公園を造成、往時を偲んで園内には花菖蒲園を設け、名称を「しょうぶ沼公園」としたのだという。

公園は東に東京メトロ千代田線、西に都道314号(川の手通り)に挟まれ、ほぼ正方形に近い四角形の敷地で横たわっている。面積2.8ヘクタールほど、決して広大な公園というわけではないが、住宅街の中に設けられた公園としては充分な広さを有している。園内北西側にはグラウンド(少年野球場)が設けられているが、他は多くの樹木が植栽されて緑濃い様相を見せる。
しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園
北綾瀬駅を西へ出て、南へ向かうとすぐに「しょうぶ沼公園」の入口だ。入口には「ようこそ しょうぶ沼公園へ」と記された横断幕が掲げられている。横断幕には花菖蒲の絵柄があしらわれている。花菖蒲の見頃の時期に、こうして来園者を迎えているのだろう。

横断幕をくぐって園内に入ると円形のモチーフでデザインされた広場だ。中心部に設けられたオブジェは本来は池と噴水のようで、夏期には涼しげな風景をみせてくれるようだ。花菖蒲が見頃の六月半ば、池には水はなく、噴水も稼働していない。
しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園
円形の広場の西に、「岩屋の滝」と名付けられた滝がある。もちろん人工的に造られた滝だが、高さ4mという規模で、滝の裏側を歩けるような造りになっている。初夏から夏、暑さを感じる季節には流れ落ちる水の飛沫の涼やかさが嬉しい。滝を落ちた水はそのまませせらぎとなって流れ、菖蒲田へと導かれている。滝の横手には小さな吊り橋も架けられ、山深い渓谷を思わせる風景としての演出がなされている。市街地の直中に位置する公園だから静謐さは望めないが、工夫を凝らした設計が楽しい。周辺にはカエデの木も多く、晩秋には紅葉も楽しめるだろう。
しょうぶ沼公園

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しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園
公園の南側は樹林地と菖蒲田に占められている。菖蒲田は曲線を活かした輪郭で設けられており、それが奏効して柔らかな印象になっているのがいい。菖蒲田の一角には三連の水車も設置され、長閑な田園風景を彷彿とさせる演出が施されている。その菖蒲田に樹林地が寄り添い、緑濃く穏やかな空間を成していて気持ちの良い散策が楽しめる。

菖蒲田は五ヶ所に分けられ、全体で140種、8100株ほどの花菖蒲が植えられているという(2016年現在)。花菖蒲は江戸時代に品種改良が盛んに行われ、「江戸系」、「肥後系」、「伊勢系」、「長井古種」といった系統があるが、「しょうぶ沼公園」の菖蒲田は江戸系を中心に植えられているという。菖蒲田には品種名を記したプレートも建てられており、それぞれの品種の名を確認しながら観賞していくのも楽しい。

菖蒲田の岸辺を辿りながら花菖蒲を観賞してゆけば、場所によってさまざまな表情が楽しめる。菖蒲田の周囲は木立が囲み、緑濃い風景が広がる。ひととき市街地の中の公園であることを忘れる。花菖蒲が見頃の時期には菖蒲田の中に木道も設置され、花菖蒲を間近に観賞することができるのも嬉しい。菖蒲田の中央部、菖蒲田脇に藤棚が設けられており、その下に菖蒲田に向かってベンチが並べられている。木陰となったベンチに腰を下ろし、のんびりと花菖蒲の咲く風景を眺めるのも素敵なひとときだ。

花菖蒲が見頃を迎える六月上旬の週末には「しょうぶまつり」が開催されて、多くの来園者を迎えて賑わう。「しょうぶまつり」の開催日に合わせて、その賑わいを楽しむのも一興だろう。
しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園
公園の南西側の隅、菖蒲田の西側には小規模ながら子どもたちのための遊具を設置した広場が設けられている。近隣に暮らす子どもたちの日常的な遊び場として親しまれているようだ。設置されている遊具はブランコや滑り台、シーソー、砂場などの一般的なもので、必要最小限といったところだ。

その中でコンクリート製の巨大な滑り台がひときわ目を引く。高さは特筆するほどではないが、幅は広い。何と言っても、その構造物として存在感が凄い。赤や黄に塗られた外観は緑濃い園内の風景の中である種の違和感を伴いつつ圧倒的な存在感を放っている。それは郊外の公園などに斜面を活用して設けられた長いローラースライダーなどとはまったく別種のもので、“遊具”を超えたオブジェのような“匂い”を放っていると言っていい。公園マニア、あるいは公園内に設置された特徴ある遊具といったものに興味のある人なら一見の価値があるかもしれない。
しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園

しょうぶ沼公園
「しょうぶ沼公園」は基本的には近隣に暮らす人たちのための日常的な憩いの場としての役割の担う公園だろう。市街地の中に緑濃い風景を残した様相は貴重な場所であるに違いない。

その「しょうぶ沼公園」が、花菖蒲の季節になれば遠方からも来園者を迎える“観光地”の顔を見せる。「しょうぶ沼公園」の菖蒲田は規模の点では他に譲るかもしれないが、“花菖蒲の咲く景観”としての魅力は決して他に劣ることはない。緑濃く長閑な印象で設計された菖蒲田の景観は見事なもので、その中に咲き誇る花菖蒲の美しさをさらに引き立てている。遠方から花菖蒲を目当てに訪れても充分に期待に応えてくれるものだと言っていい。素晴らしい菖蒲田である。
参考情報
しょうぶ沼公園は入園料は必要ない。常時開園で、自由に入園することができる。

交通

しょうぶ沼公園は東京メトロ千代田線北綾瀬駅から至近だ。駅を西に出て南へ向かえばすぐに公園だ。

車で来訪する場合は、環状七号線を利用して北綾瀬駅を目指すのがわかりやすい。遠方からなら首都高速6号三郷線の加平ICを利用するのが便利だ。

公園には来園者用駐車場はなく、駅周辺に点在するコインパーキングを利用しなくてはならないが、数は少なく、それぞれの駐車場の規模は小さい。車での来訪はお勧めしない。

飲食

公園内にはレストランや売店はない。住宅街の中の公園だが、お弁当持参でも食べる場所に困ることはないだろう。

環状七号線や公園西側の都道314号沿いにレストランがいくつかあるが、数は少ない。選択肢を増やそうと思えば綾瀬駅まで移動するのが賢明だろう。

周辺

しょうぶ沼公園から都道314号を南へ辿れば、1km足らずで東綾瀬公園だ。散策の足を延ばして公園巡りを楽しむのも悪くない。そこから西へ辿れば、これも1kmと少しで青和ばら公園がある。青和ばら公園は小さいながらもバラが美しい。その年の気候にもよるが、時期をうまく選べば、バラと花菖蒲の双方を楽しむこともできるかもしれない。
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