佳景探訪
神戸岩
東京都檜原村の北部、北浅川の支流神戸川に神戸岩と呼ばれる峡谷がある。高い断崖に挟まれた細い谷を、幾重もの滝を成して川が流れてゆく。山々の木々が紅葉に染まる十一月中旬、神戸岩を訪ねた。



神戸岩

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檜原村の中心部から北浅川に沿った都道205号線を北へ向かい、やがて「神戸岩」を指し示す案内標識が現れたら案内に従って右手へ逸れ、神戸川を遡るように川沿いの道を辿る。進むにつれて周囲の山々はますます間近に迫り、やがて山肌が行く手を阻むように立ちはだかり、その麓を穿ってトンネルが抜けている。その手前、神戸川を渡る橋の袂から神戸川上流部の上方を見上げると、対になった断崖が聳えている。神戸川はその対になった断崖の間を流れ、峡谷を成している。「神戸岩」である。「神戸」は「かのと」と読む。

神戸岩横のトンネルは「神戸隧道」、神戸岩東側の断崖を貫いて峡谷の下流側と上流側とを繋いでいる。その手前で神戸川を跨ぐ橋は「戸岩橋」、トンネルも橋も共に1957年(昭和32年)11月の竣工という。両者とも車一台分ほどの幅しかなく、照明のないトンネルは中央部では外の光が届かない。竣工から既に50年余を経て、トンネルも橋もすでに自然の一部のように風景に馴染んでいる。

辺りは深山幽谷の佇まいである。神戸岩の断崖の景観がさらにその印象を強くする。遥かな高みにそそり立つ断崖と、その狭間を流れる川が抉った渓谷の景観には圧倒されるばかりだ。戸岩橋の袂に東京都教育委員会が設置した解説板がある。神戸岩と呼ばれる峡谷は長さ60m、谷底の幅は約4m、西岸の高さは約100mあるそうだ。ジュラ紀に属するチャート層からなる峡谷であるとも記されている。学術上重要なものらしく、1960年(昭和35年)に東京都の天然記念物に指定されている。「神戸」というのは解説によれば大嶽神社の入口であるとの意味があるとのことだが、古代の人々はおそらくこの景観そのものに“神”を見たのだろう。

戸岩橋の袂から渓谷に下りてゆくことができる。梯子を登って渓谷内に入り込むと、渓谷の南側の崖に人一人がようやく歩けるほどの小径が刻まれている。小径は場所によっては極めて細く不安定で、さらには板を渡して歩く部分を確保してあるところもあり、あるいは崖に打ち込まれた“かすがい”のような金具を梯子代わりにして上り下りしなくてはならない場所もある。小径脇の崖にはアンカーが打ち込まれ、それを繋いでチェーンが設置されている。そのチェーンを掴みながら、うっかり足を滑らせてしまわないように細心の注意を払いながら歩かなくてはならない。小径から谷底までそれほどの高さがあるわけではないが、転落してしまっては大きな事故にもなりかねない。

足場のしっかりした場所を選んで、体勢を整え、渓谷の景観をじっくりと眺め、カメラのレンズを向ける。渓谷は永い年月をかけて水の流れが岩盤を抉ってできた。岩肌の様子からそれがよくわかる。谷底を流れる渓流は随所で小さな滝を形作り、小さな滝壺を作り、淵を成す。川底の岩盤には甌穴の姿もある。水の流れは今も絶えることなく渓谷を削り続けているのだろう。見上げれば遥かな高みまで岩肌の断崖がそそり立っている。その断崖にも植物がしっかりと根を張り、樹木が育っている。時間の経過を惜しむことなく続く自然の営みによる造形の、なんと美しく畏怖に満ちていることだろうか。

高さ100mにも及ぶ断崖を切り分けるように深い谷が岩盤を抉り、その谷底を幾重もの小さな滝を成して神戸川が流れて行く。谷底から見上げれば両岸に迫る岩肌のために断崖の頂上部を見ることもできない。いったいどのようにしてこのような景観が形成されたのか。解説板には「岩石が特に堅硬であるため、このような地形が形成された」としか記されておらず、地形が形成された経緯については説明がない。谷底部分は川の流れが抉ったものであることが明らかだが、高さ100mにも達する断崖が東西に分断されたのは大きな地形の変動によるものか。その亀裂に川の流れが生じたものだろうか。圧倒的な存在感を放つ神戸岩の景観は素人の稚拙な想像力を遥かに超えている。

渓谷に刻まれた小径を辿ってみるのはなかなかスリリングで楽しく、渓流を間近に見ることができてお勧めだが、小さな子どもや足腰に自信の無い人はやめておいた方がいいかもしれない。上流側の渓谷入口部分から中ほどまでは比較的歩きやすいから、その部分だけを歩いてみるのもいい。それでも充分に神戸岩の渓谷を堪能することができるだろう。

今回神戸岩を訪れたのは11月中旬、周囲の山々はすでに紅葉に染まっていた。特に岩戸橋下流側の周辺の紅葉が美しく、道路を覆うように枝を広げたモミジなどもあり、日の光に映えて輝く姿は見事なものだった。こうした渓流は夏に涼を求めて訪れることが少なくないが、紅葉の時期に訪れるのもよいものだ。秋の色を纏った山々に包まれた渓谷の景観もなかなか風情のあるものである。

神戸岩の渓谷は規模としてはそれほど大きなものではないが、水の流れによって抉られた渓谷というものの姿を象徴するような景観を楽しむことができる。そのような景観を楽しみたい人にはお勧めの神戸岩である。渓谷に刻まれた小径を歩く際には、決して侮ることなく、くれぐれも事故のないように注意を怠らないようにしたい。
参考情報
周辺は山間で、これといった施設はないが、トイレは設けられている。

神戸岩の渓谷に設けられた遊歩道は狭く険しく、梯子の上り下りも必要だ。渓谷を歩きたい人は足にフィットした、滑りにくい靴を履いていくことをお勧めする。

交通

神戸岩へ公共の交通機関を利用して訪れる場合は、JR五日市線で終点の武蔵五日市駅まで来て、そこからバスを利用する。バスは「藤倉」行き、または「小岩」行きの路線を利用し、「神戸岩入口」バス停で下車、バス停から神戸川に沿って北へ3kmほど徒歩で辿らなくてはならない。

神戸川に沿った道は車両の通行も可能で、神戸岩のすぐ脇まで車で行くことができる。手前(神戸川下流側)の道脇に数台分が駐車可能なスペースがあり、神戸隧道の先の道脇にも2、3台なら停めることが可能だ。

武蔵五日市駅前から都道38号線(檜原街道)を9kmほど西進、檜原村役場前を過ぎて橘橋の丁字路を北へ右折、北浅川に沿った都道205号線を4kmほど辿り、「神戸岩」を指し示す標識に従って右折、神戸川に沿った道を3kmほど上流側へと上ってゆくと神戸岩に着く。神戸川に沿った道は舗装路だが、概して狭く、見通しの悪いところもある。運転には充分に注意されたい。

遠方から訪れる人は圏央道日の出ICなどを利用し、まず武蔵五日市駅前を目指し、そこから檜原村へ辿るとわかりやすいだろう。

飲食

神戸岩は山深いところに位置し、付近には飲食店などはない。神戸川下流の集落には少し飲食店があるようだが、数は少ない。檜原村中心部にも飲食店はあまり多くはないが、払沢の滝周辺で探すとよいだろう。あるいは武蔵五日市駅近辺まで戻れば飲食店も多く、選択肢が増える。

陽気の良い季節であれば、お弁当持参で訪れて、渓谷上流側の河岸などに場所を見つけてシートを広げることも不可能ではない。

周辺

檜原村を訪れたのであれば、払沢の滝も訪ねておきたい。払沢の滝は「日本の滝百選」のひとつに選定されている名瀑だ。払沢の滝以外にも檜原村にはさまざまな滝が点在している。滝巡りを楽しむのも一興だろう。
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