佳景探訪
吉野梅郷
東京都青梅市の「吉野梅郷」は梅の名所として広く知られている。梅郷全体で二万五千本以上の梅が咲くという。梅の開花期には「吉野梅郷梅まつり」が開催され、大勢の観梅客を迎えて賑わう。梅の花が盛りを迎えた三月下旬、吉野梅郷を訪ねた。




吉野梅郷「梅の公園」

吉野梅郷「梅の公園」

吉野梅郷「梅の公園」

吉野梅郷「梅の公園」

吉野梅郷「梅の公園」
吉野梅郷に訪れたなら、まずは「梅の公園」を訪ねてみたい。吉野街道から南西側へ細道を入り込んでゆくと「梅の公園」だ。公園へと至る道は観梅客で溢れ、道脇には露店なども並んでたいへんな賑わいだ。

「梅の公園」は尾根に挟まれた谷戸の地形を利用して造られており、その谷戸と尾根を埋め尽くすように紅白の梅が咲き誇る。公園内だけで120種、1500本の梅があるという。1972年(昭和47年)に整備されたものらしいが、現在では吉野梅郷を象徴する梅の名所として知られている。

公園内は尾根の斜面に沿ってさまざまに散策路が辿り、咲き誇る梅の花を間近に、あるいは遠景で、存分に楽しむことができる。谷戸と尾根筋で構成された地形は、やはり尾根の高みから見下ろす景観が美しい。特に谷戸の奥まったところの斜面上から見下ろせば眼下には梅の花に覆われた谷戸の風景が広がり、溜息がでるほどの見事さだ。散策路を辿って行けば場所によって景観の表情が変わり、どれほど見ていても飽きることがない。もちろん谷へと降りて見る景観も美しく、梅の花に包み込まれるような感覚が楽しい。谷戸の奥まったところの斜面は枝垂れの梅が植えられており、その枝垂れを水の流れに例えて「しだれ梅の滝」と名付けられている。これも下から見上げる景観が美しい。

尾根の上部を辿る散策路は未舗装の小径で、雨上がりにはぬかるんだところもあるから、訪れる時には滑りにくい靴を履いていった方がいい。車椅子でも通行可能な散策路も整備されており、車椅子やベビーカーを利用している人でも公園の見事な梅を充分に堪能することができるのが嬉しい。眺望の素晴らしい要所には四阿が設けられ、さらに随所にベンチが置かれており、腰を下ろしてひとときのんびりと時を過ごすのもいい。お弁当持参で訪れ、梅を眺めながらのランチタイムを楽しむ人の姿も少なくなかった。

公園北側に位置して正面口が設けられており、正面口周辺には管理棟やトイレ、日本庭園、売店などが置かれている。売店ではうどんなどの軽食も扱っているから簡単に食事を済ませてしまおうというときにも便利だ。

正面口から入った左手の一角にはサンシュユが咲いていた。鮮やかな黄色い花が紅白の梅に混じって色彩のコントラストが美しい。サンシュユは「山茱萸」と書く。ミズキ科の樹木で、早春にこうして黄色い花を咲かせる。小さな花だが集まって咲き、遠目に見ると梅にも負けない美しさだ。樹木には「サンシュユ」のネームプレートが添えられていたが、サンシュユを知らない人も多いようだった。ちなみに名が似ているがミカン科の「サンショウ(山椒)」とは異なる樹木だ。




吉野梅郷
「梅の公園」正面口の北側の丘に小径が登っている。丘には「天満公園」との名があり、どうやら都立の公園らしいがどこまでが公園の範囲内なのか判然としない。園内にも古木の梅があって楽しめるが、ここからの眺望が素晴らしい。小径を登るにつれて、南側をふりかえれば「梅の公園」の梅林を見下ろせるようになる。さらに登ってゆくと、丘の斜面を利用した展望所があった。展望所からは東側に視界が開け、吉野梅郷の集落を眼下に見下ろし、見事な眺望が広がる。建ち並ぶ家々の間には数多くの梅林が点在し、町並みはまるで霞を引いたように淡い色彩に包まれている。展望所のベンチに腰を下ろし、ひとときこの眺めを堪能することにしよう。




吉野梅郷

吉野梅郷
「梅の公園」と「天満公園」を堪能した後はいよいよ吉野梅郷の中心地へと歩を進めよう。「梅の公園」正面口から北側へと道伝いに進むとひときわ賑やかな一角がある。市営の「中道梅園」や民間の梅園が並び、「青梅きもの博物館」などもあって大勢の観梅客が行き交っている。この辺りが吉野梅郷の中心地と言ってよいのだろう。「中道梅園」東側の道路は吉野街道の西側を並行して抜ける通りで、「観梅通り」と名付けられている。この通りに沿って辿るのが吉野梅郷散策のモデルコースになっているようだ。

民間の梅林ではそれぞれに「お休み処」を設けて観梅客を迎えている。「中道梅園」には木製のテーブルとベンチも設置されており、お弁当を広げる人たちの姿もある。どの梅園もちょうど満開の時期で素晴らしい景観を見せてくれている。老木も少なくないようで、見事な枝振りで咲き誇っている。どこかの「お休み処」を利用して、お茶でも飲みながら梅の花を楽しむのもよさそうだ。
「鎌倉の梅」
この中心地の一角から西へ入り込んだところに「鎌倉の梅」という古木がある。吉野梅郷の近くには秩父と鎌倉とを繋ぐ「旧鎌倉街道」が通っており、その街道沿いに見事な梅があったという。往来の人々から親しまれ、「鎌倉の梅」と呼ばれるようになったと、「鎌倉の梅」の由来を伝える解説板に記されている。樹齢四百年以上の古木ということだが、昭和50年代前半に台風被害を受け、現在地に移植されたものらしい。吉野梅郷散策の際には立ち寄っておきたい。
ミツマタの花ミツマタの花
歩いていると、道脇の家の庭先にあまり見かけない花が咲いているのに気付いた。見ればその家の人によるものか、簡単な説明板が添えられており、ミツマタの花だという。和紙の原料に使用される、あのミツマタだ。ミツマタは中国原産、沈丁花科の樹木で、枝が三つに分岐するために「ミツマタ(三椏、三又などと書く)」の名がある。特徴的な形の花だが、顔を近づけてみるとなかなか良い香りがする。




下山八幡神社
「観梅通り」を北へ辿ると道の西側に下山八幡神社が建っている。1041年(長久2年)の創建という古社で、本殿は青梅市指定の有形文化財になっている。青梅市教育委員会による解説板に依れば、旧本殿が1742年(寛保2年)に大風で破壊されたため、1755年(宝暦5年)に立川村(現在の立川市)の大工棟梁中嶋七兵衛清重らによって再建されたという。三間社流造りという構造形式が都内でも数少ない貴重なものであると、解説板には記されている。建物はどちからと言えば質素な佇まいだが、緑濃い山を背負って古社らしい風格を感じさせてくれる。吉野梅郷散策の際にはぜひ見ておきたい。神社の隣は小さな児童公園になっており、ここでも見事な梅が楽しめる。




吉野梅郷

吉野梅郷
下山八幡神社を後にしてさらに「観梅通り」を北へ進んでみよう。さすがに「梅の公園」や「中道梅園」付近のような賑わいは失せるが、それでも散策の人の姿は少なくない。下山八幡神社を過ぎると大きな梅園は少なくなるが、民家の庭先や畑の隅に咲く梅にも良い風情があって散策は楽しい。ふいに見事な梅に出会うのも嬉しい。

しばらく進んで西に入り込んだところに「岩割の梅」という梅があるというので立ち寄ってみた。「岩割の梅」はその名が示すように大きな岩を割るように梅の木が育っているものだ。傍らには「梅の里づくり実行委員会」による解説板が設けられている。それに依れば、ここは昔、若武者と地元の娘との恋の逢瀬の場所であったといい、若武者が出陣のときに岩に突き刺した一枝の梅がその岩を割って育ったものらしい。特異な生育をした梅だが、そうした昔の悲恋の物語を秘めているのかと思いながら見ると、また違った味わいがある。「岩割の梅」を見た後は、そろそろ「観梅通り」を引き返し、今回の観梅散歩を終えることにしたい。




吉野梅郷

吉野梅郷
「梅の公園」と梅郷中心地付近を訪れるだけでも、充分に吉野梅郷の魅力を堪能することができるが、せっかく訪れたのであれば少し足を延ばして散策を楽しむのがお勧めだ。青梅市観光協会による観梅モデルコースでは日向和田駅から神代橋通りを経て「梅の公園」に立ち寄り、そこから梅郷中心地を経て「観梅通り」を北へ、「岩割の梅」や吉野梅郷の始祖と言われる「親木の梅」、即清寺、吉川英治記念館などを辿って二俣尾駅へと向かう。電車を利用して訪れた人はこのコースを辿ってみるのも楽しいに違いない。「梅まつり」のイベントとしてスタンプハイクも行われていたから、これに挑戦してみるのもいい。

「梅郷通り」沿いの家々では「オープンガーデン」が行われているところも少なくない。そもそも「鎌倉の梅」や「岩割の梅」も民家の梅を一般に開放した「オープンガーデン」だ。中には自宅の庭いっぱいに陶器を並べてオープンガーデンとしているお宅もあった。おばあちゃんが縁側で梅干しを売っているお宅もあった。歩いているとさまざまな発見や出会いがある。そうしたものを楽しみながら、のんびりと春の散策を味わうのがいい。
参考情報
「青梅市梅の公園」は梅の開花期には入園料が必要だ。入園料金や開園時間などについては青梅市観光協会の「吉野梅郷梅まつり」サイト(「関連するウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
吉野梅郷の梅は東京都心部などと比べると開花がかなり遅い。2008年春には都心で桜の開花が始まった三月下旬に見頃を迎えていた。梅の開花はその年の気候などによってずいぶん違う。訪れるときには公式サイトなどで開花状況を確かめてからの方がいい。

交通

吉野梅郷へはJR青梅線日向和田駅から徒歩で十数分というところだ。駅前から西へ神代橋で多摩川を渡って「神代橋通り」を真っ直ぐに進むと吉野梅郷だ。梅の開花期には駅と吉野梅郷とを行き来する観梅客が多く、道も分かり易いから迷うことはない。
吉野街道沿いや神代橋通り沿いに民間駐車場が数多く点在しているので、車で来訪した際にはそれらを利用するといい。2008年3月に訪れたときには駐車料金は1回800円だった。すべての駐車場が同じ料金のようだったから、申し合わせがあって同一料金にしているのかもしれない。吉野街道西側の梅郷中心部は道も狭く、観梅客が多く歩いているから車で進入するのはやめておいた方がいい。

飲食

梅郷内の個人梅林では軽食の可能な「お休み処」が設けられているところが少なくない。そうしたところで簡単な食事をするのも悪くない。吉野街道沿いなどにそれほど多くはないが飲食店があり、それを利用してもいい。「青梅市梅の公園」内にも売店があり、うどん、そば、団子やおでんなどを販売している。園内にはベンチが多数設置されており、持参したお弁当を広げる観梅客も少なくなかった。梅郷中心部の市営「中道梅園」内でもお弁当を広げることが可能だ。余裕を持って散策するのであれば、やはりお弁当持参がお勧めだ。
吉野梅郷

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