神奈川県藤沢市遠藤地区の北部に遠藤笹窪谷公園という公園が設けられている。笹窪谷という谷戸の自然環境を活かした公園だ。木々の緑が日増しに濃くなる六月初旬、遠藤笹窪谷公園を訪ねた。
神奈川県藤沢市の北西部に位置する遠藤地区の北部、笹窪谷(ささくぼやと)という谷戸がある。笹窪谷には樹林地や湿地、草地などの多様な自然環境が残っている。その笹窪谷の一部を公園として整備したものが遠藤笹窪谷公園だ。公園は2022年(令和4年)7月に開園、約2.5haの面積を有し、谷戸の豊かな自然環境を保全しつつ、憩いの場として活用できるように端正に整備されている。
遠藤笹窪谷は“藤沢市の三大谷戸”のひとつだそうだ(残る二つは川名の「川名清水谷戸」、石川の「石川丸山谷戸」)。小高い丘陵地の尾根に挟まれた細長い谷筋のことを関東では谷戸(やと)、あるいは谷地(やち)などと呼ぶ。単に「谷」と書いて「やと」と読む例も少なくない。藤沢市の遠藤笹窪谷もそうした“谷戸”のひとつだ。遠藤笹窪谷の場合は尾根に挟まれた谷筋というより、台地に刻まれた谷筋という地形だ。
谷戸は東西に延び、南北には鬱蒼と木々の茂る樹林地が横たわっている。この樹林地は「健康の森」と呼ばれる緑地で、公園の区域外だが、この樹林の風景があってこその遠藤笹窪谷公園だろう。公園は谷戸の一部を整備したもので、湿地や草地を縫って園路が辿っている。園内には谷戸の自然環境が保全され、昔ながらの里山風景を楽しむことができる。修景池や菖蒲畑、カキツバタ田、水田なども設けられ、谷戸の風景に表情を与えている。
園路を辿って散策するのは楽しいひとときだ。さまざまな植物にも目を向け、湿地の生き物の姿を探しながらのんびりと散策を楽しみたい。ベンチに腰を下ろして時を過ごすのもいい。谷戸の風景も美しく、静かな時間が流れている。
公園東側のエントランス部には「生物多様性サテライトセンター」が建てられており、公園の管理事務所や資料展示室などが設けられている。建物の二階部分には展望テラスがあり、テラスからは公園のほぼ全景を望むことができる。両脇の樹林地とその間に挟まれた谷戸が視界の向こうへと延びていく風景はたいへんに美しい。公園に訪れた際にはぜひテラスから眺望を楽しんでおきたい。
遠藤笹窪谷公園は谷戸の自然環境の保全という役割を担っており、一般的な都市公園とは性格が異なっている。自然豊かな環境に身を置き、ゆったりと散策を楽しむための公園だと言っていい。子ども向けの遊具などは設置されていないが、昔ながらの谷戸の風景と豊かな自然環境は子どもたちにとっても楽しいものに違いない。日々の喧噪から離れたひとときを過ごすことのできる公園だ。
本欄の内容は2025年6月現在の状況です
遠藤笹窪谷公園は鉄道の駅からは遠く、駅からバスを利用しなくてはならない。湘南台駅(小田急江ノ島線、相鉄、横浜市営地下鉄)や辻堂駅(JR東海道線)から慶応大学行きバスを利用すればいい。「慶応大学」バス停で下車すれば、公園まで徒歩で10分ほどだ。
公園入口手前に来園者用駐車場が用意されているが、駐車台数は12台分と少ない(障がい者用駐車場は4台分が別に用意されている)。公園近くに建つ湘南慶育病院のコインパーキングも利用できるようだ。
遠方から車で来園する場合は、さがみ縦貫道路(圏央道)の寒川北ICを利用するのが近い。寒川北ICから公園まで約7kmだ。ルートがわかりにくいので注意されたい。
公園内にはレストランや売店などはない。周辺にも飲食店はない。「生物多様性サテライトセンター」にドリンク類の自動販売機が置かれている。
陽気の良い季節ならお弁当などを持参して、園内のベンチで“青空ランチ”を楽しむのも悪くない。
遠藤笹窪谷公園の周囲には樹林地が広がっている。「健康の森」と名付けられ、里山の自然環境が保全されている。その西側には「少年の森」という施設がある。青少年の野外活動のための施設のようだが、こちらも自然林が広く残っている。「健康の森」と「少年の森」との間には長閑な田園風景も広がる。散策の足を延ばしてみるのもお勧めだ。
遠藤笹窪谷公園の東南側に小出川という川が流れている。小出川が藤沢市遠藤を流れる部分、河岸には紫陽花が植えられ、
紫陽花の名所として知られている
。さらに下流側に辿れば小出川は藤沢市と茅ヶ崎市との市境を流れ、その辺りでは河岸に彼岸花が群生し、“
小出川の彼岸花
”として広く知られている。それぞれの季節に訪ねてみたいところだ。
遠藤笹窪谷公園(指定管理者公式)
遠藤笹窪谷公園(藤沢市)
遠藤あじさいロード
小出川彼岸花