神奈川県横浜市戸塚区の南端部に俣野別邸庭園という公園が設けられている。住友家16代当主の別邸として建てられた建物を復元展示、周囲には広大な庭園が広がっている。新緑も美しい五月の初め、俣野別邸庭園を訪ねた。
神奈川県横浜市戸塚区の最南端部、藤沢市との市境に接する立地に、俣野別邸庭園という公園が設けられている。園内は内苑と外苑に分かれ、内苑には住友家16代当主の別邸として建てられた建物を復元して展示、外苑にはさまざまな草木が茂り、自然溢れる環境が残されている。河岸段丘を利用した立地は高低差があり、変化に富んだ景観も魅力だ。四季折々に訪ねたくなる、風趣に富んだ公園だ。
俣野別邸は住友家16代当主の別邸として1939年(昭和14年)に建てられたものという。設計施工を担当したのは著名な建築家である佐藤秀三(さとうひでぞう)だ。
佐藤は1914年(大正3年)に住友総本店営繕課に入社、1929年(昭和4年)に佐藤秀三建築工務所を創業し、政財界の要人の住宅や別荘などを数多く手がけている。この俣野別邸もその一つだ。
俣野別邸は昭和初期のモダニズムを感じさせる和洋折衷建築として評価され、2004年(平成16年)に国の重要文化財に指定されたが、残念ながら2009年(平成21年)に大部分が焼失、2011年(平成23年)に解除されている。
現在の建物は新築当時の設計図面などを元に2016年(平成28年)に再建されたもので、2017年(平成29年)に横浜市認定歴史的建造物となり、俣野別邸庭園の公園施設として一般公開されている。
俣野別邸は所定の入館料を支払って館内を見学することができる。公園施設としての公開に当たって一部に改変や付加された部分もあるそうだが、主要部分はオリジナルを忠実に再現しているそうだ。俣野別邸庭園を初めて訪ねた際には、ぜひ入館し、建物内部を見学しておきだい。
建物は三棟がY字形に配置されるという特徴的な構造で、内部の間取りも興味深い。主屋棟二階展示室の曲面を描く窓も美しいが、その向こうには丹沢の山々を望み、天候に恵まれれば富士山の姿も見えるという。窓外の眺望が美しいのは、河岸段丘を利用した立地が奏功しているのだろう。一階の居間や食堂、サンルーム、一階と二階を繋ぐ階段などの造りも洒脱で素敵だ。事務棟の奥まったところに位置する書庫は焼失を免れた場所だとのことで、これもぜひ見ておきたい。
順路に沿って内部を見学していけば、昭和初期の建築物しての味わいを存分に感じることができる。細かな造作や仕上げなどにも注目し、ゆっくりと見学していきたい。再建された建物ではあるが、近代建築に興味のある人ならぜひ見学しておきたい施設だと言っていい。
建物の南西側には芝庭が設けられている。ベンチも設けられているからのんびりと時を過ごすのもいい。芝庭に面した建物一階部分には喫茶室が併設され、ドリンク類やケーキなどを楽しむことができる。芝庭の風景を眺めながらティータイムを楽しむのもお勧めだ。
建物の建つ内苑の南西側、広大な樹林地を活かして外苑が設けられている。外苑には「山野草の小径」や「もみじ坂」、「四季の花苑」、「林の小径」といったスポットが点在し、園路を辿っての散策が楽しい。
中央部には「芝生広場」が設けられ、木々に包まれた広場が穏やかな空気感に満たされている。その南端部には休憩棟があり、休憩スペースや図書コーナーなどが設けられている。
外苑には「あじさい園」や「つつじ園」、「シャクナゲ園」なども設けられ、その他にも梅や水仙、カタクリ、桜など、四季折々の花々も楽しめる。樹林の中にはモミジの木も少なくなく、秋の紅葉も見事だという。季節毎に訪ねて、その風趣を楽しんでみたい。
俣野別邸庭園を訪ねたなら、まずは俣野別邸の建物に入館して内部を見学しておきたい。オリジナルではなく再現されたものだが、充分に楽しむことができる。特に建築に興味がなくても館内の様子を見て回るだけでも楽しい。
外苑部分は豊かな自然環境が何よりの魅力だ。日本古来の和風庭園でもなく、フランス式の幾何学的なデザインの庭園でもなく、強いて言えば自然の景観美に重きを置いたイギリス式庭園に近いか。樹林の中の小径を歩いたり、季節の花々を愛でたり、自然に親しむひとときを過ごすことができる。
俣野別邸庭園では室内楽のコンサートや庭園散歩などのさまざまなイベントが開催される。興味のある人はそうしたイベントに参加してみるのもお勧めだ。
俣野別邸庭園と俣野別邸はそれぞれ開園時間、開館時間が定められている。庭園部分は入園無料だが、俣野別邸の内部見学には別途料金が必要だ。詳しくは横浜市緑の協会による公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」のリンク先)を参照されたい。
俣野別邸庭園は鉄道の駅からは少し距離がある。公共の交通機関で訪れる場合は藤沢駅(JR、小田急、江ノ島電鉄)からバスを利用するのが妥当だろう。詳しくは俣野別邸庭園公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」のリンク先)を参照されたい。
俣野別邸庭園には来園者用の有料駐車場が設けられており、37台分の駐車スペースがある。通常は混雑することはないと思われる。駐車料金等、詳細はこれも俣野別邸庭園公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」のリンク先)を参照されたい。
駐車場は国道1号の「藤沢バイパス出口」交差点から西へ入り込んだところにある。圏央道(新湘南バイパス)側から東進してくるとわかりやすいが、戸塚中心部から国道1号を下ってくると「藤沢バイパス出口」交差点の数百メートル手前で江の島・藤沢方面への県道30号へ逸れておかなくてはいけないので注意が必要だ。
俣野別邸の建物内に喫茶室があり、ケーキやドリンク類が楽しめる。ホットドッグもあるが、本格的な食事メニューはない。
園内には芝生広場もあるから、陽気の良い季節ならお弁当持参もお勧めだ。
俣野別邸庭園(公益財団法人横浜市緑の協会)
建築家 佐藤秀三の世界(株式会社佐藤秀)