東京都武蔵村山市の南東の端に近い辺り、湖南衛生組合の敷地内に菖蒲園が設けられている。それほど規模の大きな菖蒲園ではないが、端正に整えられた園内に咲き誇る花菖蒲はたいへんに美しい。花菖蒲が盛りを迎えた六月半ば、湖南衛生組合菖蒲園を訪ねた。
武蔵村山市の南東の端に近い辺り、湖南衛生組合という施設がある。武蔵村山市、東大和市、小平市、小金井市、武蔵野市の五市で構成される屎尿処理施設で、1961年(昭和36年)に建設されたものだ。建設からすでに半世紀ほどを過ぎ、住環境も変わって下水道が普及した今、処理はほとんど行われていないという。この湖南衛生組合の敷地の北東側の角に菖蒲園が設けられており、六月になると花菖蒲が咲き誇って多くの人たちが観賞に訪れる。
この菖蒲園(本来なら“湖南衛生組合菖蒲園”と呼ぶべきかもしれないが、“湖南菖蒲園”と通称することも多いようだ)、規模は決して大きくはない。面積は1haほどしかなく、植えられている花菖蒲は約30種、3000株ほどという。しかし園内は池や水路を巧みに配して端正に整えられており、そこにさまざまな品種の花菖蒲が咲き誇ってたいへんに美しい景観を見せてくれる。規模が小さいからこその、凝縮された美しさのようなものが感じられるのだ。菖蒲園の外縁部は木々が茂り、その木々の緑に囲まれて外部と隔てられているのもいい。そのために菖蒲園の中は日常から離れた穏やかな空間を成している。
菖蒲園の敷地自体は長方形なのだが、園内に設けられた菖蒲田の輪郭は曲線を描いており、無機的な表情になることを防いでいる。菖蒲園の周囲を巡るように、あるいはその中ほどを貫くように散策路が整備され、花菖蒲の咲く風景を存分に観賞することができる。散策路を辿りながら観賞すれば場所によって菖蒲園の表情が変わり、味わいは密度濃く、飽きることがない。随所にベンチも設けられているから腰を下ろしてのんびりとひとときを過ごすのもいい。散策路にはところどころに柳が植栽され、その樹形が風景のアクセントになっているのもいい。鮮やかに咲き誇る花菖蒲の背景には緑の木々が茂り、柳が風に揺れ、その横を観賞の人たちがゆったりと行き過ぎる。どこから眺めてもフォトジェニックな風景が目の前に横たわり、ついつい何度もカメラのシャッターを押してしまう。規模は大きくはないが、まさに“花菖蒲の名所”と言っていい。
花菖蒲が花の盛りの頃、そろそろ紫陽花も花期を迎える。湖南菖蒲園には紫陽花も植栽されており、時期に恵まれれば花菖蒲と紫陽花の双方を楽しむことができるのも嬉しい。また池では睡蓮の花も咲き始めており、これも花菖蒲と共に楽しみたいところだ。「菖蒲園」であるから花菖蒲の名所であるわけだが、春には梅や桜、つつじなども楽しめるという。他の季節の表情も見てみたくなる菖蒲園だ。
湖南菖蒲園は入園料は必要ない。通常は日曜、祝日が休園だが、六月中は無休で開園している。トイレは設けられている。
湖南菖蒲園には駐車場は無く、近隣も住宅街で時間貸し駐車場などは見あたらないようだ。訪れるには公共の交通機関を利用しなくてはならない。西武拝島線の玉川上水駅、あるいは多摩都市モノレールの玉川上水駅、桜街道駅で降りるのが近い。菖蒲園は湖南衛生組合の敷地の北西の角に位置しているから予め地図で位置関係を確認しておくことをお勧めする。
西武拝島線や多摩都市モノレールの玉川上水駅からならまず西へ進み、国立音楽大学の西側を北へ辿ると湖南衛生組合の南端部に出るから、衛生組合の敷地の周りを時計回りに辿ってゆくのがわかりやすい。このルートだと徒歩で30分ほどかかるだろうか。玉川上水駅から国立音楽大学西側まで、玉川上水に沿った酷ケを歩くのも楽しい。
多摩都市モノレールの桜街道駅からなら桜街道と交差する道路を西へ辿り、「村山団地東」交差点で南へ折れると大南公園の東側に出るから、大南公園の周囲を時計回りに辿って西へ進むと湖南菖蒲園の北側へ着く。このルートなら玉川上水駅から歩くより少し近いが、それでも20分ほどはかかるだろうか。
歩きたくないという人は玉川上水駅から武蔵村山市内循環(東ルート)のバスを利用するといい。「公園西」バス停で降りれば湖南菖蒲園まですぐだ。
園内はあまり広いとは言えないから、ピクニック感覚でお弁当を広げるには無理があるかもしれない。外縁部のベンチなどで軽い食事を済ますことは可能だろう。湖南衛生組合は現在ではほとんど処理は行われておらず、異臭などはまったく感じないから、そうした心配は要らない。
園内には飲食店はない。湖南衛生組合の南側を通る道路沿いには飲食店が点在しているようだ。桜街道沿いの玉川上水駅付近や桜街道駅付近にも各種飲食店が点在している。
周辺は基本的に住宅街だが、湖南衛生組合のすぐ北側には大南公園がある。地域住民のための公園で行楽地的性格はないが、足を延ばして散策してみるのも悪くない。
菖蒲園からは少し離れているが、南には玉川上水が流れている。上水沿いの酷ケを辿って散策の足を延ばしてみるのもお勧めだ。
菖蒲園の北、1kmほど離れた緑が丘の町の一角、都営団地の建て替えによって発生した用地を活用して、春には「菜の花ガーデン武蔵村山」、夏には「ひまわりガーデン武蔵村山」が開園する。それぞれの季節に訪ねてみるといい。
武蔵村山市の観光スポット(武蔵村山市)
ひまわりガーデン武蔵村山