多摩市南野
一本杉公園
Visited in April 2023

多摩市南野二丁目の中央部に一本杉公園という公園が設けられている。1981年(昭和56年)に開園した公園で、10haを少し超えるほどの面積を有している。園内には野球場やテニスコートが設けられている他、昔ながらの多摩丘陵の姿も残し、「多摩よこやまの道」の一部を兼ねてもいる。緑濃い園内は四季折々に美しい表情を見せ、市民の憩いの場として親しまれている公園だ。

多摩市南野の辺りは1973年(昭和48年)に町田市の小野路町と下小山田町の一部が多摩市に編入されたもので、編入当初は「多摩市小野路町」の町名も存在した。「南野」の町名が誕生するのは1975年(昭和50年)のことだ。多摩市の南部に位置することと、小野路の「野」からの命名であるという。

現在の南野の辺りは当時の村境に近く、街道沿いに大きな一本杉があったのだそうだ。それがこの公園の名の由来だが、その一本杉はすでに無い。狐に化かされた人の話や悪戯や難問を出して人を困らせる天狗の話など、一本杉にまつわるさまざまな言い伝えや物語もあるらしい。

一本杉球場は高校野球の地区予選も開催される球場だが、一般利用も可能で、普段は長閑な印象の小さな野球場である。この一本杉球場、往年の野球ファンには1985年(昭和60年)に江夏豊の引退試合「たったひとりの引退式」が行われた球場として記憶に残っているかもしれない。江夏豊の引退についての詳細の説明は割愛する(興味のある人は調べてみてほしい)が、その引退試合のために約16,000人の観衆がこの球場に集まったそうである。

スダジイは暖地に分布するブナ科の常緑高木、秋にはドングリが実る。四月下旬、スダジイは早くも花の盛りで、栗の花にも似た独特の香りを漂わせていた。

「石の広場」の脇には、テニスコートを見下ろすように藤棚が設けられている。藤棚の下のベンチに腰を下ろしてテニスを楽しむ人たちの姿をのんびりと眺めて過ごすのも一興かもしれない。藤はすでに花の盛りを過ぎているが、少しだけ花を残していた。

舗道は尾根幹線(南多摩尾根幹線道路)を一本杉橋という人道橋で一跨ぎにしている。一本杉橋は美しい意匠の斜張橋だ。舗道から眺める姿もいいが、横から見る姿がたいへんに美しい。機会があれば西側や東側に少し離れた位置から一本杉橋を眺めてみるといい。多摩ニュータウン内には美しい橋が多くあるが、その中でも屈指のものではないかと思う。橋好きの人にはお勧めだ。

水の無い「流れ」は少しばかり殺風景だが、その脇の林はモミジの木立で、春から初夏には瑞々しい新緑を、晩秋には美しい紅葉を見せてくれる。「流れ」の上流側、奥まったところは小高くなって、その頂上部分には四阿も置かれている。木々に包まれてひっそりとしたところだ。

その雛壇の中ほどに炭焼き小屋がある。これは「多摩ニュータウン三十周年の記念になるものを」とのことで、都市基盤整備公団と市民とが一緒になって作ったものだ。公園の樹木や街路樹の剪定で出てくる枝を使用して、地元有志のグループによって炭焼きが行われているという。

梅林の南側には公園の施設として畑も設けられている。ときおり係の方が手入れを行っている様子を見ることがある。畑のある風景は昔ながらの多摩丘陵の風景を彷彿とさせ、すっかり里山の風情だ。梅や桜が咲く季節の風景もいいが、木々が緑濃く葉を茂らせる季節の景観も素敵だ。

東側、木立に囲まれて建っているのは多摩市乞田にあった旧有山家住宅、西側の少し高みとなったところに建つのは多摩市落合にあった旧加藤家住宅だ。どちらも農家で、18世紀頃の建物であるそうだ。それぞれ本来の持ち主より寄贈され、保管していたものを公園内に移築復元したものという。

旧加藤家住宅は一部変更されての復元であるらしい。旧加藤家住宅は市民の活動の場としても利用できるように整備され、茶道・華道などの催しなどに使用できるように考えられているとのことだ。
両古民家とも外観や内部を自由に見学できる。旧加藤家住宅は内部に入ることもできるが、旧有山家住宅は室内に上がることはできない。

旧加藤家の方はかまども使用することができるとのことで、催しの際にときおり使われることもあるらしい。薪を燃やすために屋内の梁が煤けていて、単なる展示物とは違った「生きた」保存という意味でも興味深い。旧加藤家住宅には管理される方が常駐されているようで、訪問者の案内や古民家の管理に携わってらっしゃるようだ。

こうした古民家はあまり人の興味を引かないのか、見学の人の姿を見ることは少ないのだが、一般利用にも解放された旧加藤家住宅の縁側に腰を下ろしてのんびりと風に吹かれて時を過ごすのも一興かもしれない。

池の背後は雑木林の丘で、それほど規模の大きなものではないが、ひととき木立の中の散策を楽しむのも悪くない。広場の中央を抜ける園路は、そのまま延びて一本杉公園通りへと抜け出て、公園のエントランスのひとつとなっている。

池の周囲にはさまざまな樹木が植えられ、四季折々の表情が美しい。春には池の岸辺に桜が咲き、池と桜が興趣に富んだ景観を見せる。春から初夏には新緑が美しく、晩秋には木々が紅葉に染まる。季節毎に訪ねてみたいところだ。

「多摩よこやまの道」が整備されたことに伴って、一本杉公園はそのルートの一部を兼ねることになった。休日などには「多摩よこやまの道」散策の途中らしい人の姿を一本杉公園内で見かけることも少なくない。「多摩よこやまの道」は全ルートを歩くと9.5kmほどの距離がある。一本杉公園はその中間点辺りだ。トイレも設置されているから「多摩よこやまの道」散策の際の一休みの場所にもちょうどよい。

一本杉公園は静かで穏やかな公園だ。子どもたちのための遊具類は設置されていないので、ファミリーで行楽感覚で楽しむには不向きかもしれないが、公園南側の部分の池の周囲などはお弁当を持ってピクニック感覚で楽しむのに良いだろう。駐車場脇にドリンクの自動販売機が設置してあるが、売店などはない。周辺にもお店がないので、のんびりと過ごすならお弁当持参がお勧めだ。
一本杉公園通り沿いに来園者用の無料駐車場が用意されている。100台分の駐車スペースがあるので普段なら車でのアクセスに困ることはないだろう。 多摩センターから歩くと2km強の距離があり、30分ほどかかる。バスなら多摩センター駅から「京王多摩車庫前」行きの路線に乗り、「一本杉公園」バス停で降りれば近い。
一本杉公園通り沿いに来園者用の無料駐車場が用意されている。100台分の駐車スペースがあるので普段なら車でのアクセスに困ることはないだろう。 多摩センターから歩くと2km強の距離があり、30分ほどかかる。バスなら多摩センター駅から「京王多摩車庫前」行きの路線に乗り、「一本杉公園」バス停で降りれば近い。



