千葉県習志野市の南部、国道357号に沿うように細長く香澄公園という公園がある。木々の茂った園内には草はらの広場や花菖蒲園なども備えている。花菖蒲が見頃の六月上旬、香澄公園を訪ねた。
香澄公園
香澄公園は千葉県習志野市の南部、香澄3丁目から6丁目にかけて位置している。国道357号の北側に沿うように東西に細長く、南北の幅は100mほど、東西の長さは1kmほどという特殊な形だ。公園は秋津公園や谷津干潟公園と共に習志野緑地の一部を成しており、これらの緑地の南側の道路や鉄道、工業地帯と、北側に広がる住宅地とを隔てる、すなわち“緩衝緑地”としての役割を果たしている。
香澄公園
公園のすぐ南側を国道357号と、その上を関東自動車道とが走り、さらに東関東自動車道の湾岸幕張PAが近いという立地のため、園内にも車の騒音が絶えず響いているのが残念なところだが、しかし公園外周部には木々がよく茂り、それによって園内は周囲と隔てられ、車の騒音も軽減されているようだ。
香澄公園
香澄公園
公園は細長い形を巧みに活かし、草はらの広場や子どもたちのための遊び場、バーベキュー場、花菖蒲園、流れを配した樹林地など、さまざまに工夫を凝らした区画が設けられており、なかなか魅力的な佇まいを見せる。東西に長い公園内には、その全体を縫うように舗装された園路が辿り、ところどころで公園を横断する園路が各区画を分けている。各区画はそれぞれに性格や役割が与えられているが、木々の緑に包まれるような印象は一貫しており、東西の端から端までのんびりと歩けば素敵な散策のひとときを過ごすことができる。
香澄公園
エントランス広場〜習志野の草原〜フィットネス広場
香澄公園の最も西側、すなわちJR京葉線新習志野駅に近いところがメインエントランスという位置付けなのだろう。「エントランス広場」と名付けられた区画が設けられている。「エントランス広場」にはさまざまな樹木が茂り、“緩衝緑地”としての公園の役割を物語っている。
香澄公園/エントランス広場
「エントランス広場」から園路を辿って東へ進むと「習志野の草原」と名付けられた草はらの広場がある。南北の幅は数十メートルというところだと思うが、東西の奥行きがあるために体感的にはずいぶん広く感じる。開放感には少し劣るが、緑の木々に包まれるようにして視界の奥深くまで延びてゆく草はらの広場はなかなか爽快な印象がある。今回訪れたのは六月の上旬、草はらには白詰草の花が咲いていた。小さな白い花の咲く草はらとそれを包む緑濃い木々、そしてその上に広がる初夏の青空とが美しい景観を織り成している。

「習志野の草原」の東側部分では広場内にも疎らに木立があり、脇には四阿も設けられ、穏やかな緑の空間が演出されている。広々とした草はらも魅力的なものだが、適度に木立があって木陰を落としてくれるのもよいものだ。木陰にレジャーシートを広げ、のんびりとアウトドアランチを楽しむにも良い場所だろう。
香澄公園/習志野の草原
香澄公園/習志野の草原
「習志野の草原」の東側には延長のように「フィットネス広場」が設けられている。木立の中に種々の健康増進器具を設置したものだ。近隣の人たちが気軽に運動に親しむ場として設けられているのだろう。「フィットネス広場」の脇には藤棚も設けられていた。花期には美しい景観を見せてくれるのだろう。
香澄公園/フィットネス広場
とりでの丘〜じゃぶじゃぶ池
「フィットネス広場」からさらに東へ、公園を横断する園路によって隔てられた先へ進むと、そこは子どもたちのための遊び場の区画だ。

「とりでの丘」と名付けられた区画には広場の中にさまざまな遊具が設置されている。遊具は木製の大型複合遊具で、なかなか工夫が凝らされている印象だ。その大型遊具を子どもたちが遊ぶための「砦」に見立ててのネーミングなのだろう。
香澄公園/とりでの丘
「とりでの丘」の東側には「じゃぶじゃぶ池」が設けられている。子どもたちの水遊びの場として造られたもので、最も深いところでも40cmほどらしい。この「じゃぶじゃぶ池」がなかなか広い。子どもたちの水遊びのための池として、これほどの広さを有するものは例が少ないのではないか。池の形状も曲線を多用して工夫を凝らしたもので、池脇に植栽された木々がアクセントとなって景観としても美しい。
香澄公園/じゃぶじゃぶ池
池の東側は少し高くなって丸い池が設けられ、その中央にはピラミッドの底部を思わせるような台形の構造物があり、そこから水が湧き出してくる仕組みになっているようだ。その水が緩やかなスロープとなった流れに導かれて池に注いでいる。

今回訪れたとき(2012年6月)、暑い日だったため、数組の親子連れの姿があった。水着姿の小さな子どもたちが水遊びに興じ、お母さんたちは池の岸辺の木陰にシートを広げて見守っている。初夏の公園の穏やかな光景だ。

「じゃぶじゃぶ池」の外周部を辿る園路脇には紫陽花が植栽されており、そろそろ咲き始めていた。見頃の時期になれば緑濃い景観の中に色彩を添えて美しいことだろう。
香澄公園/じゃぶじゃぶ池
香澄公園/じゃぶじゃぶ池脇の紫陽花
この区画は「とりでの丘」と「じゃぶじゃぶ池」とを一体として、子どもたちのための遊び場として設計されたものだろう。「とりでの丘」に設置された遊具も「じゃぶじゃぶ池」も充実したもので、近隣に暮らす子どもたちに素敵な遊び場を提供してくれているに違いない。この区画の横に駐車場が設けられているのも、親としては便利だ。「じゃぶじゃぶ池」はその形状の描く曲線が美しく、周囲の木々と共に織り成す“水辺のある風景”として、修景的にも素晴らしい。散策にもお勧めの区画だと言っていい。
香澄公園/じゃぶじゃぶ池
ピクニックの丘〜野外炉〜香りの広場
子どもたちの遊び場の区画の東には園路で隔てられて「ピクニックの丘」や野外炉を設けた区画がある。野外炉はバーベキューを楽しむためのもので、炉の他に洗い場やテーブル付きベンチなどが広場の中に配され、バーベキューを楽しむための施設として造られたもののようだ。その横に設けられた「ピクニックの丘」は、ほんの少しだけ小高くなった広場で、特筆するような施設は設けられていないが、野外炉を設けた一角と一体化してバーベキュー場として機能しているのだろう。

バーベキュー場の東側には「香りの広場」と名付けられた区画がある。それほど広い区画ではないが、その中に花壇を設けてハーブ類の植物が植栽されている。だから「香りの広場」なのだろう。ハーブに興味のある人ならぜひ立ち寄っておきたい区画だろう。
香澄公園/ピクニックの丘
香澄公園/野外炉
菖蒲園
バーベキュー場や「香りの広場」のある区画から園路と樹林で隔てられて、東側には「菖蒲園」が設けられている。その名のように、菖蒲田を設けて花菖蒲が植えられている。今回訪れたのは六月上旬、菖蒲園ではすでに花菖蒲が見頃を迎えて咲き誇っていた。
香澄公園/菖蒲園
菖蒲田の脇に習志野市による案内板が設置されている。それによれば香澄公園の花菖蒲は明治神宮御苑から株分けされたものだそうだ。花菖蒲には「江戸系」、「伊勢系」、「肥後系」の三系統の品種があるが、香澄公園の花菖蒲は江戸系が主で、早咲きから遅咲きまで、五月中旬から六月下旬まで花を見ることができるとのことだ。
香澄公園/菖蒲園
植えられている花菖蒲の株数や品種数などは明示されていないが、それほど大きな規模の菖蒲田ではない。どちらかと言えば“こぢんまり”とした印象もあるが、木々に包まれてひっそりとした佇まいはなかなか良い風情を漂わせている。周囲の木々によって外部と隔てられ、菖蒲園の中に立てば視界に人工物が入らないのもいい。菖蒲田にはいわゆる八ッ橋が設けられ、八ッ橋を渡れば花菖蒲を間近に観賞できるのも嬉しい。菖蒲田の東側には池も設けられ、池越しに眺める菖蒲田の景観や、あるいは花菖蒲の向こうに池を見る景観なども良い味わいがある。

菖蒲田の周囲の園路を辿ったり、あるいは八ッ橋を渡ったり、自分の立ち位置によって菖蒲田は微妙に表情を変える。その味わいの違いを楽しみながらのんびりと観賞するのがお勧めだろう。決して広大な菖蒲園ではないが、落ち着いた佇まいが魅力的な菖蒲園だと言っていい。
香澄公園/菖蒲園
香澄公園/菖蒲園
樹林〜習志野の森広場
菖蒲園の東側には樹林が広がっている。樹林地は「習志野の森」と名付けられているようだ。「習志野の森」は日本庭園風に造られており、林の中を縫うように小川が流れ、小川に沿うように石を敷いた散策路が辿り、ところどころにベンチも設けられている。樹林の植栽も丁寧な整備が施されているようで、鬱蒼とし過ぎず、疎らに過ぎず、程良い密度が心地良く、木漏れ日も気持ちいい。
香澄公園/習志野の森
樹林地を東端まで進むと小川の“源流部”に至る。“源流”とは言ってももちろん人工的なものだが、岩を組んで渓流を模して造られており、滝も設けられている。ここからの水が樹林の中を小川となって西へ流れ、菖蒲園の池へと注ぐ造りになっている。この一角は「習志野の森広場」と名付けられた広場になっており、四阿も置かれている。
香澄公園/習志野の森広場
この「習志野の森広場」が香澄公園の東端に当たっている。公園全体を通して蛇行して辿ってきた舗装された園路もここで輪を描いて終わっているのだが、東端の木々の隙間を抜けるように小径が東へ辿っている。実は東側には香澄公園の延長のように「幕張海浜緑地」が隣接しているのだ。そのまま散策の足を延ばしてみるのもいいかもしれない。
香澄公園/習志野の森広場
香澄公園
香澄公園
香澄公園は行楽地的性格を持った公園ではない。南側の道路や工業地域と北側の住宅地を隔てる“緩衝緑地”としての役割を持ち、公園としては近隣に暮らす人たちのための憩いの場としての性格を持つものだろう。しかし草はらの広場があり、樹林があり、子どもたちのための遊び場があり、花菖蒲園もあり、たいへんに充実した公園だと言っていい。決して広大な公園というわけではないが、東西に長い敷地を活かし、“奥行き”のある景観が生み出されて体感的にはなかなか広く感じる。来訪者の立場であっても充分に散策を楽しめる公園だと思える。
香澄公園
余談だが、公園内で猫の姿を少なからず見た。公園内で暮らす野良猫のようだ。公園内には「猫を捨てないでください」との旨の注意書きもあった。猫好きとしては散策中に猫に出会うのは嬉しいことではあるのだが、それが捨てられた猫だとすれば悲しい気持ちにもなる。安易に猫が捨てられるという事実にも、それらの猫が公園内で野良猫として生きているという事実にも、ひどくやりきれない気持ちになる。あの猫たちが平穏に寿命を全うすることを願いばかりだ。
幕張海浜緑地
香澄公園の東側には香澄公園と一体化したように幕張海浜緑地がある。香澄公園と幕張海浜緑地との間はちょうど市境で、幕張海浜緑地は千葉市美浜区に位置している。地図で確認すると香澄公園のほぼ三分の一ほどの面積を有し、なかなか広い。香澄公園とは異なる自治体に位置し、園内の印象も微妙に違うが、自治体を跨いでひとつの敷地を分け合う形で香澄公園と幕張海浜緑地は一体化した緑地帯を成している。
幕張海浜緑地
幕張海浜緑地
幕張海浜緑地は「芝生広場」や「舗装広場」、「花見広場」といった広場で構成され、その中にゲートボールコートとテニスコートが設けられている。東端部に置かれた「芝生広場」はその名が示すように広々とした草はらで、なかなか開放感もある。外周部を木立が取り囲んでいるから周辺の喧噪からも程良く隔てられているのがいい。緑地の中央に位置する「舗道広場」はまさにその通りの舗装された広場だ。曲線を描いた段差が設けられ、随所にオブジェのように石が置かれ、景観が単調になるのを防いでいる。「舗装広場」の西側には藤棚が置かれ、その西側がテニスコートだ。テニスコートの西側は桜の林で、そこに「花見広場」が設けられている。春にはお花見の人たちで賑わうのだろう。
幕張海浜緑地
幕張海浜緑地もまた“緩衝緑地”として役割を持っているのだろう。その上で近隣の人たちのための憩いの場としての役割も担う緑地なのだろう。香澄公園以上に行楽地的性格は無いが、香澄公園散策の際には足を延ばしてみるのも悪くない。
幕張海浜緑地
JR京葉線新習志野駅を南へ出ると大きなロータリーがあり、その周辺には大型の商業施設や千葉県国際総合水泳場などが建っている。さらにその周辺には企業の物流センターなどの建物が建ち並ぶ。駅の南東側に少し離れて千葉工業大学芝園キャンパスがあり、駅には学生たちの姿も多い。駅の北側には国道357号と東関東自動車道が走る。
幕張海浜緑地
広々とした中に現代的な建物の建ち並ぶ景観や、真っ直ぐに延びる道路の景観など、どこか近未来的な印象もあり、人工的な構造物の放つ迫力というのか、人間の営みのダイナミズムのようなものが感じられて、“風景”としても心惹かれるものがある。こうした風景に興趣を感じることのできる人なら、新習志野駅周辺の散策を楽しむのも一興だろう。
参考情報
交通
香澄公園へはJR京葉線新習志野駅が至近だ。駅の東側の交差点で国道357号を渡れば、交差点の北東側に香澄公園がある。徒歩で10分足らずだ。

JR総武線津田沼駅からの路線バスや習志野市コミュニティバス(ハッピーバス)の京成津田沼駅ルートなどを利用して訪れることもできる。詳細は習志野市のサイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

香澄公園には来園者のために有料駐車場が用意されており、車で来園することも可能だ。国道357号や国道14号を利用すればよいだろう。東関東自動車道の湾岸習志野IC(出口は下り線のみ)や湾岸千葉IC(出口は上り線のみ)、京葉道路の幕張ICなども利用できる。

駐車場は公園の北側、香澄5丁目、6丁目の住宅街に面して、2ヶ所が設けられており、合わせて数十台分の駐車スペースがある。駐車場が満車の場合は海浜公園(香澄公園の1kmほど西南の海岸に位置する)の駐車場を利用してもよいらしい。

香澄公園の東側に隣接する幕張海浜緑地にも専用の無料駐車場が20台分ほど用意されている。

飲食
香澄公園内にはレストランや売店などはない。JR京葉線新習志野駅の周辺に飲食店があり、南側に建つショッピングセンター内にもテナントとしてファストフード店などがあるから、食事は駅周辺で楽しもう。それらのお店でテイクアウトのものを買ってから公園へ行き、公園内でアウトドアランチを楽しむのも悪くない。

香澄公園内にはバーベキュー用に野外炉を設けた区画がある。家族やグループでバーベキューを楽しむのもいい。野外炉以外での火気使用は禁止とのことだ。詳しい利用方法などは習志野市のサイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

周辺
香澄公園から国道357号に沿って西へ辿れば秋津公園を経て、1.5kmほどで谷津干潟だ。足を延ばして東京湾に残された貴重な干潟の姿を見てみるのも悪くない。谷津干潟の北側には有名な「谷津バラ園」がある。バラの季節であればぜひ立ち寄っておきたいバラの名所だ。

香澄公園を東へ出れば市境を越えて千葉市美浜区、幕張海浜緑地からその周辺に点在する幕張西第3公園、幕張西第2緑地、幕張西第1公園、浜田緑地といった小公園や緑地などを巡って散策を楽しむのも一興だ。少し距離があるが幕張海浜公園へも歩けない距離ではない。

現代的な風景に興趣を感じられる人ならJR京葉線新習志野駅の南側周辺を散策してみるのもお勧めだ。
花菖蒲散歩
公園散歩
千葉散歩