佳景探訪
伊香保温泉
群馬県渋川市の西部、榛名山の中腹に伊香保温泉がある。平安以前に開かれたという歴史の古い温泉で、江戸時代には湯治客でたいへんに賑わったという。ようやく秋めいてきた九月の上旬、伊香保温泉を訪ねた。



伊香保温泉

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伊香保温泉

伊香保温泉

伊香保温泉
伊香保温泉は全国でも広く名を知られた温泉地のひとつだ。垂仁天皇の時代(紀元前29年〜70年)に開かれたとも、行基という僧によって平安時代に開かれたとも言われ、はっきりとした縁起は定かではないようだが、南北朝時代の書物にすでに温泉の記述があるというから歴史は古い。「伊香保」の名は万葉集に収められた歌の中にも詠まれているということだが、この時代の「伊香保」は広く榛名山一帯を指し示す地名だったらしい。

現在の温泉街の原形が形成されたのは戦国時代、1576年(天正4年)のことで、小暮氏、千明氏、岸氏、大島氏、島田氏、望月氏、後閑氏の七氏によって整備されたものという。一説には長篠の合戦によって負傷した武田方の武士の療養のために造られたとも言われる。湯元から温泉を引き、中央に設けた湯桶から各屋敷に湯を分配するという、かなり綿密な計画に基づいた整備が行われたようで、地元の観光協会などでは“日本初の温泉リゾート都市計画”だったと謳っている。

江戸時代になると水沢寺や榛名神社への参拝客が増え、それに伴って伊香保温泉も湯治場として人気を集め、特に元禄時代(1600年代終わり頃)と文化文政時代(1800年代初めの頃)に大いに賑わったという。あまりに往来する者が増えたため、口留番所(幕府が設けた“関所”に相当するもので、人々や物資の移動の見張り所として諸藩が交通の要所に設けたもの)も設けられたという。現在の伊香保温泉街の一角に復元された口留番所が置かれている。訪れたときには見ておきたい。

温泉宿の周辺にさまざまな店の建ち並ぶ温泉街の姿となったのは明治になってからのようだ。その後も温泉客は増え、戦後、昭和30年代後半には増え続ける観光客を受け入れるために温泉街の拡張が行われた。異業種から旅館経営に参入する者も少なくなかったという。

現在(2009年現在)の伊香保温泉の宿泊客数は年間約120万人だそうだ。高速道路の開通やレジャーの多様化など、さまざまな要因による増加や減少を繰り返しつつ、現在は増加傾向にあるという。

伊香保温泉は温泉街の中央部を貫く石段と、その沿道に旅館や店舗の建ち並ぶ風景がよく知られている。この一角は「石段街」の名で親しまれ、名実ともに伊香保温泉の象徴となっている。この石段も歴史が古く、1576年(天正4年)に温泉街が造られたときに整備されたものという。現在の石段は1980年(昭和55年)に5年をかけて大改修が行われたもので、御影石が敷かれているという。
追記 2010年、これまでの石段の下方にさらに石段が新設され、石段の数は365段になった。「温泉街が1年365日、賑わうようになってほしい」との願いが込められているという。

この石段街散策こそが伊香保温泉散策の醍醐味のひとつだ。石段の沿道に温泉宿や土産物店、遊技場などが建ち並ぶ様子は温泉街の情緒に溢れ、ただ歩いているだけでも楽しい。土産物店を覗いてあれこれと土産物を見てみるのもいい。射的を楽しんでみるのもいい。射的場は現在はあまり多くないが、昔は何十軒もあったそうだ。足湯を楽しめるところもあるから一休みするのも悪くない。石段の途中には「小満口(こまぐち)」という湯元からの源泉を分岐させる設備もあり、温泉が流れてゆく様子を見ることもできる。

石段を上りきったところには伊香保神社が鎮座している。御由緒によれば、垂仁天皇の代の開起と伝えられているという。延喜式内社でもあり、上野国三ノ宮のひとつとして親しまれた古社である。現在の社殿は1878年(明治11年)春、大火による焼失の後、仮宮として建立したものという。石段街散策の際には立ち寄って旅の安全を祈願しておきたい。

伊香保神社のやや手前の道を右(西)へ入り込んでゆくと、山の斜面に設けられた道が右手に川を眺めながらさらに奥深くへ辿っている。その先に湯元があるのだ。石段街から数百メートル行くと、美しい意匠の橋が架かっている。河鹿橋という。風情のある木造の橋で、紅い欄干が周囲の緑に映えて鮮やかだ。橋の周辺には楓の木が多く、秋は紅葉が美しいらしい。紅葉の時期には河鹿橋のライトアップも行われるという。

河鹿橋近くに「千明元屋敷跡」と題した解説板が設けられている。「伊香保温泉が一般客の利用の温泉となったと考えられる初期の宿の跡」だそうだ。「伊香保温泉発祥の地」として渋川市指定史跡になっている。興味のある人は見ておくといい。

石段街から河鹿橋へと辿る道は散策の人の姿も少ない。こちらまで足を延ばす人は普段は多くはないのだろう。その静けさも楽しい。道沿いにはお店も何軒か建っている。そろそろ店の灯りが目立つようになる時刻、店の佇まいが良い風情だ。高齢のご主人が温泉饅頭を作っておられる店もあった。余談だが、「温泉饅頭」というものは伊香保温泉が発祥であるらしい。

夕方の早い時刻に宿に入り、それから温泉街の散策へ、石段街から河鹿橋までをのんびりと回れば帰り道はすでに宵闇の迫る時刻だ。通りに提げられた提灯が灯り、店々の看板にも灯りが点き始める。薄暗くなり始めた石段街では浴衣姿の人たちがそぞろ歩きを楽しんでいる。そうした風景は旅情に満ち、郷愁を誘う。やはり温泉街散策は夕刻がいい。




伊香保温泉
伊香保温泉から西へ、榛名湖へ向けて県道33号線を辿れば、道路は曲がりくねった坂道となって榛名山へと登ってゆく。その途中、パーキングエリアを設けた展望台がある。展望台からは東から北にかけての眺望が開けている。東は眼下に伊香保温泉街を見下ろし、その向こうには赤城山を見る。北に視線を向ければ子持山や小野子山、十二ヶ岳といった山々を望み、さらに遠くには谷川岳の姿も見える。なかなかの絶景である。車で訪れた人ならぜひ立ち寄って、ここからの景観を楽しんでおきたい。
参考情報
交通

公共の交通機関を利用して訪れる場合、JR渋川駅から群馬バスを利用する。上越新幹線や長野新幹線を利用する人は高崎駅で上越線に乗り換えればよい。高崎駅から伊香保温泉へのバス便もある。東京から訪れる人なら新宿から伊香保温泉へのバス便もある。

車で来訪する場合は関越自動車道の渋川伊香保ICから渋川市を抜けて県道33号線を西進すればよい。渋川伊香保ICから伊香保温泉まで10kmほどだ。

伊香保温泉の町には県道33号線沿いに観光客向けの駐車場がいくつか用意されているようだ。宿泊の人は駐車場のある宿を選び、宿の駐車場を利用すればよいだろう。

飲食

石段街の周辺にはさまざまな飲食店が点在しており、食事の場所に困ることはない。宿泊の人なら宿の豪華な夕食を楽しもう。

周辺

石段街近く、県道33号線沿いには徳冨蘆花記念文学館が建っている。伊香保は徳冨蘆花が生涯を終えたところだ。興味のある人は見学していくといい。石段街から少し東へ行くと県道33号線沿いに竹久夢二伊香保記念館が建っている。これも好きな人は立ち寄ってみるとよいだろう。さらにその東にはグリーン牧場がある。子ども連れの家族には楽しいかもしれない。県道33号線から県道15号線に逸れて南東の方角に辿れば水沢、「日本三大うどん」のひとつとして知られる「水沢うどん」で有名なところだ。道路沿いに手打ちうどんの店が並んでいるらしい。

県道33号線を西へ峠を越えると榛名湖だ。榛名富士と湖との織りなす風景の美しい観光地だ。榛名湖から南へ峠を越えれば榛名神社も近い。車で訪れた人はドライヴを兼ねて訪ねてみるのも楽しい。
伊香保温泉

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