岩手の小岩井農場は畜産品の加工販売で全国的な知名度を誇る企業だ。岩手の観光名所のひとつでもあり、多くの観光客を集めている。秋の気配漂う九月のはじめ、小岩井農場まきば園を訪ねた。
小岩井農場まきば園
小岩井農場は正式には小岩井農牧株式会社といい、農畜産品の生産・加工・販売を中心に動植物の育種・改良や緑化造園事業などを広く手がける企業だ。観光事業も積極的に展開し、敷地内に設けられた「まきば園」には土産物店やレストランなどが設けられて多くの観光客を迎えている。
小岩井農場まきば園
小岩井農場まきば園
小岩井農場まきば園
小岩井農場は1891年(明治24年)に創業された歴史の古い企業だ。かつてこの土地は火山灰土壌の広がる原野だった。1888年(明治21年)、当時の鉄道局長官の井上勝は東北本線の延伸工事視察のために盛岡を訪れ、この不毛の大地に大農場を拓こうと考えた。これまで鉄道事業によって数多くの田園風景を潰してきたことへの悔恨の念があったのだという。

井上は日本鉄道会社副社長の小野義眞に相談、小野は親交のあった三菱社の岩崎彌之助と井上を引き合わせる。井上の構想に感銘を受けた岩崎は出資を快諾、こうして1891年(明治24年)に小岩井農場が設立されるのである。ちなみに、「小岩井」の名は小野、岩崎、井上の名字から一文字ずつ取られたものだ。

火山灰土壌の不毛の原野の開墾は困難を極めたという。井上には農場経営の経験はなく、経営は一向に軌道に乗らなかった。やがて鉄道事業が多忙を極めた井上は農場経営から手を引き、小岩井農場の経営は岩崎家へ引き継がれる。

当時の三菱を率いていたのは岩崎彌太郎の長男久彌である。小岩井農場の方針を畜産振興へと大きく舵を切ったのは久彌だったという。畜産から乳製品の加工販売へ、さらに林業、観光業へと事業の多角化を図って、小岩井農場は今もその歴史を刻み続けている。
小岩井農場まきば園
小岩井農場の広大な敷地の中で、レストランや土産物店などを設けて観光客を迎えているのが「まきば園」だ。その名の通り、「まきば園」には“高原の牧場(まきば)”のイメージを具現化したような風景が広がっている。敷地内に設けられたレストランなどの建物も意匠に凝っており、風景の魅力を邪魔しない。というより、それらの建物によってさらに“高原リゾート”的な印象が増している。そうした風景を楽しみながらのんびりと敷地内を散策するだけでも充分に楽しめる。
小岩井農場まきば園
今回訪れたときは残念ながら天候に恵まれず、ようやく雨は上がったものの空は雲に覆われ、周囲の山々も雲に隠れていた。しかしそのお陰で木々の緑はしっとりと潤いがあって美しく、霞む山々もそれはそれで風情に富むものだった。
小岩井農場まきば園
園内に設けられた「まきばのホール」ではポニーの餌やり体験が可能だ。餌として用意されたニンジンを差し出すと、口元を寄せてニンジンを食べてくれる。なかなかかわいいものである。動物好きの子どもたちにはぜひ体験させてあげたいものだ。
小岩井農場まきば園
園内の一角に古いトラクターが展示されている。「JOHN DEERE 2030」というトラクターで、世界最大の農機具メーカーであるアメリカのDeere & Company社製、1971年から1975年まで生産されていたモデルで、水冷4気筒ディーゼル3.6リッター、68馬力のスペックだそうである。小岩井農場では2014年(平成26年)までトラクターバスを引いて走っていたそうだ。こうしたものに興味のある人ならぜひ見ておきたいものだろう。
小岩井農場まきば園
小岩井農場を訪れたなら、やはり新鮮なミルクを使ったソフトクリームを味わっておきたい。当然のことながらミルクが濃く、たいへんに美味しい。風景を眺めながらのソフトクリームは格別である。
小岩井農場まきば園
「まきば園」の園内や周辺には他にもさまざまな施設が設けられており、特に家族連れなら丸一日を退屈せずに過ごすことができるだろう。観光で岩手を訪れた人も、ぜひ訪ねてみて欲しいところだ。美しい風景と美味しい食事だけでも充分に満足できる。
小岩井農場まきば園
「まきば園」から西へ車で5分ほど(徒歩なら30分ほど)行ったところに、有名な一本桜があり、道路脇から見ることができる。広々とした草原の中に立つ一本桜は小岩井農場を象徴する風景だろう。九月、もちろん花の季節ではなく、緑の葉にそろそろ秋の色が混じり始めている。背後の山々は雲に霞んでいたが、ときおり雲の切れ間から差す陽光に一本桜が照らされる。幻想的な光景だった。花の季節にも見てみたいが、その季節にはたいへんに混雑するそうである。
参考情報
小岩井農場まきば園は入場料が必要だ。料金や営業時間など、詳細は小岩井農場公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
小岩井農場へは盛岡駅から「小岩井農場まきば園」行きバスを利用すればいい。30分と少しで着く。

車で訪れる場合は東北自動車道盛岡ICから国道46号を西進、「繋十文字」交差点を右折して県道131号を北上するのがわかりやすい。約12kmだ。盛岡市街からもほぼ同じルートだ。

飲食
小岩井農場にはレストランや軽食コーナー、ラーメンショップなどが設けられている。好みのお店で食事やティータイムを楽しもう。

周辺
小岩井農場を訪れたなら足を延ばして盛岡市街の観光も楽しもう。盛岡城跡公園や「岩手銀行赤レンガ館」、「もりおか啄木・賢治青春館」などを訪ねたり、中津川の岸辺を散策するのがお勧めだ。
田園散歩
岩手散歩