鹿児島県垂水市の北部と桜島を繋いで、美しいアーチ橋が入り江を跨いでいる。牛根大橋である。国道220号の整備に伴って架橋され、2008年に開通したものだ。夏の盛りの八月半ば、牛根大橋を訪ねた。
牛根大橋
国道220号は宮崎県宮崎市を起点とし、宮崎の海岸を南下、日南市南郷町から山間を抜けて串間市へ至り、志布志湾岸を西進、大隅半島を横切る形で鹿屋市を抜け、錦江湾岸に出た後は海岸を北上、鹿児島県霧島市へ至り、「国分藪根」交差点で終点となる。錦江湾岸を北上する国道220号は、途中、桜島の南岸を通過する。垂水市海潟地区を北上した国道220号は「桜島口」交差点で直角に右(東)に折れ、その先でほんのわずかな区間、桜島の南岸部を通過するのだ。
牛根大橋
「桜島口」交差点から東、昔は大隅半島側の崖下を這うように国道220号が辿っていた。この付近は崖崩れも発生しやすく、連続降雨量が150mmを超えると通行止めになるなど、近隣住民に不便を強いていた。そこで桜島側に新しい道路を造り、東側は橋を架けて、崖下を回避する国道220号のバイパス工事が行われることになる。その時に架橋された橋が、この牛根大橋である。
牛根大橋
牛根大橋の架設は2000年度(平成12年度)に始まり、2007年(平成19年)10月に竣工、翌2008年(平成20年)3月20日に開通式が行われた。総工費約220億円を費やした大工事だった。牛根大橋の開通によって安全な交通が確保でき、さらに観光活性化にも繋がるということで、開通式には大勢の関係者が参席した。海上では大漁旗を立てた漁船が祝賀パレードを行うなど、盛大に行われたという。
牛根大橋
牛根大橋は白く塗られたアーチが美しい。全長381m、中央径間長260mのバランスドアーチと呼ばれる構造のアーチ橋だ。中央径間長260mというのは九州では最大、全国でも大阪の新木津川大橋、夢舞大橋に次いで三番目の規模だという。左右のアーチ面は約11°傾けられており、上方が狭くなっている。バスケットハンドルと呼ばれる形式だ。左右のアーチ面を繋ぐ支材が円柱形なのは桜島の降灰が積もるのを防ぐためだという。
牛根大橋
何しろ九州一のバランスドアーチ橋、中央径間部の重量は3370tに及ぶ。その架設は4100t吊りという日本最大の起重機船(クレーン船)「海翔」が用いられ、2007年(平成19年)夏に行われた。中央径間部のアーチを吊り下げて錦江湾を進む「海翔」の姿は垂水市の海岸からもよく見え、多くの市民、県民に見守られながらの工事だったという。
牛根大橋
牛根大橋は幅員12m、車道は二車線(片側一車線)で、北側(東側)に歩道が設けられている。車で走り抜ければ快適なドライヴが楽しめるし、歩いて渡れば牛根大橋の造形美を存分に楽しむことができる。東側から向かえば牛根大橋の向こうに桜島御岳が聳える。橋の南西側、牛根漁港脇から眺めれば牛根大橋を真横から見ることができ、その美しいアーチを堪能できる。
牛根大橋
牛根大橋の上から西を見れば、大隅半島と桜島との間に深く入り込んだ入り江が見える。実は、ここは昔は大隅半島と桜島とを隔てる“海峡”だった。1914年(大正3年)に起きた桜島の大噴火(いわゆる「大正の噴火」)によって流れ出た溶岩が錦江湾を埋め、大隅半島と桜島を地続きにした。現在の「桜島口」交差点付近で大隅半島と桜島が繋がっているが、それがその跡である。牛根大橋と「桜島口」交差点とを繋いで設けられたバイパスは、「大正の噴火」で流れ出た溶岩の上に造られている。
牛根大橋
牛根大橋は歴史のある古い橋というわけではないが、その美しい姿は橋というものを好きな人にはお勧めである。橋のある景観に心惹かれる人ならぜひとも訪ねてみたい橋梁である。
参考情報
交通
垂水市には鉄道路線が通っていない。訪れるには車を使用しなくてはならない。霧島市方面からは国道220号を南下、鹿屋市方面からは国道220号を北上、桜島港からは国道244号を経て国道220号を東進すればいい。桜島港からは約15km、霧島市の「国分敷根」交差点から約25kmだ。

牛根大橋の西側(桜島側)の袂に数台分の駐車スペースが設けられている。東側(大隅半島側)は国道220号と国道との分岐点付近に駐車可能なスペースがある。

飲食
周辺には飲食店がない。国道220号を東へ2.5kmほど進めば「道の駅たるみず湯っ足り館」があり、周辺の国道沿いにもいくつか飲食店が建っている。

周辺
牛根大橋の北側は桜島、桜島観光を楽しみたい。

牛根大橋から1kmと少し西へ進んで、「桜島口」バス停から県道26号へと折れて進むと、4kmほどで黒神の埋没鳥居だ。黒神の埋没鳥居からさらに数百メートル進むと昭和溶岩地帯展望台がある。

国道220号を西へ進むと約2kmで「桜島口」交差点、そのまま真っ直ぐに進めば国道224号で、桜島の南岸を辿って桜島港へ向かう。「桜島口」交差点から2km強で有村溶岩展望所だ。

国道220号を東へ2.5kmほど進めば、国道沿いに「道の駅たるみず湯っ足り館」が建っている。桜島を間近に見る眺望が魅力の「道の駅」だ。その名が占めすように温泉施設を併設している。
鹿児島散歩