佳景探訪
牛根麓埋没鳥居
鹿児島県垂水市牛根麓に桜島の大正噴火で埋没した鳥居が残されている。上部を地上に1.5mほど現した鳥居の姿が大正噴火の凄まじさを物語る。夏の盛りの八月中旬、牛根麓の埋没鳥居を訪ねた。



牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居

牛根麓埋没鳥居
桜島は1914年(大正3年)に大噴火を起こした。いわゆる「大正の噴火」である。この大噴火によって流れ出た溶岩は桜島の中心集落と烏島を飲み込み、東側では海を埋めて桜島と大隅半島とを地続きにした。周辺には大量の火山灰が降り積もり、集落や田畑を埋め尽くした。その火山灰の凄まじさを物語るものとして、いわゆる“埋没鳥居”がある。上部の笠置部分だけを残して火山灰に埋もれてしまった鳥居のことで、桜島東岸の黒神の埋没鳥居が広く知られているが、海を隔てた対岸の垂水市にもそうした“埋没鳥居”がある。牛根麓の埋没鳥居である。

現地に設置された解説に依れば、牛根麓はそもそも牛根城の城下として治められていた土地だった。牛根城の築城は正確にわかっていないが、源氏に敗れた平家が築いた山城ともいう。1500年代の半ばにこの辺りを治めていたのは肝付兼続である。肝付兼続は垂水を治めていた伊地知氏や有力豪族だった袮寝氏と結んで1561年(永禄4年)、島津氏に反乱を起こす。争いは13年ほどに及んだが、牛根城を守っていた安楽兼寛が降伏して城を明け渡したことで終結に至っている。

牛根城を落とした島津義久は家臣の伊集院久道を地頭として牛根麓を治めさせた。久道は民心の慰撫と島津の権勢の誇示のため、島津の氏神である稲荷神社を創建したとされている。江戸時代後期に薩摩藩が編纂した「三国名勝図会」には天正二年(1574年)の九月十三日に伊集院魯笑齋久道が創建したことが棟札に確認された旨が記されているという。御神体は久道が奉納した掛け軸だったと言われているが現存しない。

牛根神社帳によれば「鳥居石高一丈一尺五寸(約3.7m)」だったそうだが、その鳥居が「大正の噴火」で埋没した。「大正の噴火」による牛根麓の被害は想像を絶するもので、道路や田畑には90cmから1m20cmほどの降石灰が降り積もり、村役場、松ヶ崎小学校校舎、民家32戸が倒壊した。稲荷神社の鳥居は約1.45mまで掘り出された状態で「大正の噴火」の爪痕を今に伝えている。

この場所はそもそも私有地で、地元の人にも存在が知られていなかったという。これまで所有者の久富木哲氏が桜の苗木を植樹されるなどして周辺整備を図ったこられたということだが、平成23年度魅力ある観光地づくり事業によって鹿児島県が展望広場や遊歩道、駐車場などを整備、近年ではようやく知られるようになり、観光客が訪れるようになった。黒神の埋没鳥居に比べればまだまだ知名度は低いが、「大正の噴火」の被害を伝える貴重な歴史遺産である。


牛根麓の埋没鳥居は小高い丘の上で長閑な田園風景を見下ろしている。周辺は「牛根麓埋没鳥居展望公園」として整備されており、気軽に埋没鳥居の見学や稲荷神社への参拝などを行うことができる。

稲荷神社は小さな社だが、土地の鎮守として人々の信仰が篤いことを伺わせる。見学させていただくことを感謝し、旅の無事を願って参拝していこう。

注目すべきは、やはり埋没鳥居である。上部の笠木部分、1.5mほど地上に姿を現し、下は深く埋もれている。その様子だけで「大正の噴火」の降灰の凄まじさが容易に想像できる。笠木は左右がずれているが、噴火時の地震の影響という。ずれてはいるものの、100年を経ても落ちることもなく離れることもなくその姿を保っているというので、“落ちない離れない”という御利益のパワースポットとしても語られるようになった。良縁成就や夫婦円満、学業成就などに御利益がありそうである。

展望広場からは眼下に牛根麓の田園風景を見下ろし、その向こうには錦江湾を挟んで桜島を望む。鹿児島市街から見る桜島の、ちょうど反対側だ。山肌の一角には昭和火口が口を開け、そこから立ち上る噴煙を見ることがあるかもしれない。桜島の裾部分、錦江湾にせり出しているのは「大正の噴火」で流れ出した溶岩の跡である。この溶岩によって桜島は大隅半島と地続きになった。それによって深く入り込む入り江となった部分に、牛根大橋が架けられて国道220号を通している。白いアーチが陽光に映えて美しい姿だ。

桜島は、午前中に訪れれば陽光を順光で浴びて空に聳え、午後遅くから夕方近くになれば逆光の中にシルエットを浮かべる。この景観は埋没鳥居と共に「牛根麓埋没鳥居展望公園」の魅力と言っていい。絶景である。


牛根麓の風景

牛根麓の風景

牛根麓の風景

牛根麓の風景
牛根麓の埋没鳥居を訪ねたなら、ぜひ周辺の散策も楽しんでみたい。牛根麓の集落の中へ散策の足を延ばすのもいいものだし、田畑の広がる田園風景の中を歩くのもお勧めだ。西を向けばどこからでも桜島の姿が見えるのは牛根麓ならではの魅力だろう。

牛根麓の集落の中から田園風景の中を貫くように東西に真っ直ぐに延びる堤のような道がある。これはかつての国鉄大隅線の跡である。

国鉄大隅線は1912年(明治45年)に設立された南隅軽便鉄道株式会社によって1915年(大正4年)に高須〜鹿屋間の軽便鉄道が開通したことに始まる。翌年には会社名が大隅鉄道株式会社に改称され、1935年(昭和10年)に鉄道省によって買収され国鉄となった。1938年(昭和13年)に国鉄古江線が開通、このとき軽便鉄道から普通鉄道になっている。1972年(昭和47年)に志布志〜国分間が開通し、国鉄大隅線に改称されている。以来、大隅地方の重要な鉄道として地域の交通を担ってきたが、1987年(昭和62年)3月、惜しまれつつ、その歴史を終えるのである。

それから30年余、各地に残る廃線跡はかつて鉄道だった痕跡を探すのも難しくなり、時の流れの中で静かに現代の風景の中に同化してゆくのを待っている。
参考情報
交通

垂水市には鉄道路線が通っていないため、訪れるには車の使用が必須だ。霧島市方面からは国道220号を南下、鹿屋市方面からは国道220号を北上、桜島港からは国道244号を経て国道220号を東進すれば垂水市の牛根麓だ。牛根麓簡易郵便局の数十メートル東で国道220号から細道を南に入り込んでゆけばいい。桜島港からは約17kmだ。

国道220号から入るところが少しばかりわかりにくいが、「牛根麓埋没鳥居展望公園」を指し示す標識が建てられているから注意深く見ていこう。

牛根麓埋没鳥居展望公園下に来訪者用の駐車場が設けられている。駐車スペースは7台分と少ないが、観光客が数多く詰めかけるような場所ではないと思えるから、おそらく駐車できるだろう。

飲食

周辺には飲食店がないが、国道220号を東へ1kmほど進めば「道の駅たるみず湯っ足り館」があるから、道の駅のレストランを利用するといい。その周辺の国道沿いにいくつか飲食店が建っている。

お弁当などを用意しておいて、「牛根麓埋没鳥居展望公園」の展望所のベンチを利用して、桜島の姿を眺めながらのランチも楽しい。

周辺

国道220号を東へ1kmほど進めば、国道沿いに「道の駅たるみず湯っ足り館」が建っている。その名の通り、温泉施設を併設した道の駅だが、桜島を間近に見る眺望も魅力だ。鹿児島観光の際にはぜひ立ち寄っておきたい。

国道220号を西へ1kmと少し進めば牛根大橋、2008年(平成20年)に開通したもので、白いアーチの美しい橋だ。

牛根大橋を渡れば桜島、国道220号からUターンするように県道26号へと逸れて4kmほど進むと黒神の埋没鳥居だ。黒神の埋没鳥居からさらに数百メートル進むと昭和溶岩地帯展望台がある。

国道220号から「桜島口」交差点をそのまま真っ直ぐに進めば国道224号、桜島の南岸を辿って桜島港へ向かえば「桜島口」交差点から2km強で有村溶岩展望所だ。
牛根麓埋没鳥居

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