JR中央本線の奈良井駅は中山道奈良井宿への最寄り駅だ。明治42年の開業という駅は、当時の駅舎がそのままに残る。山々が紅葉に染まる十一月上旬、奈良井駅を訪ねた。
JR中央本線奈良井駅
JR中央本線奈良井駅
長野県塩尻市奈良井はかつて中山道奈良井宿として栄えたところだ。奈良井宿は中山道六十九次のうち、江戸から34番目、木曽路十一宿の中では贄川宿の次の宿場である。奈良井宿と次の藪原宿との間に難所として知られる鳥居峠があったからか、奈良井の宿は多くの旅人で賑わう、規模の大きな宿場だったという。

JR中央本線奈良井駅は、その奈良井宿への鉄路の玄関口だ。JR中央本線は1889年(明治22年)に新宿ー立川間で開業した甲武鉄道が始まりだ。同年のうちに路線は八王子まで延伸した。1901年(明治34年)には官設により八王子ー上野原間が開業、1906年(明治39年)には塩尻まで延伸開業している。塩尻から奈良井までが延伸開業したのが1909年(明治42年)のことで、奈良井駅はこのときに開業した。
JR中央本線奈良井駅
JR中央本線奈良井駅
奈良井駅の開業当時、この路線は中央東線という名称だった。路線はさらに1910年(明治43年)に宮ノ越まで延伸、1911年(明治44年)になると中央西線が木曽福島から宮ノ越まで延伸して中央東線と接続、これによって昌平橋ー塩尻ー名古屋間が中央本線と改称されることになった。それから百年余、今では中央本線のうち、塩尻以東を“中央東線”、塩尻以西を“中央西線”と呼び分けるのが通常だ。奈良井でも地元の人に線路の路線名を尋ねると「中央西線」との答えが返ってくる。ちなみに“中央東線”はJR東日本、“中央西線”はJR東海の管轄である。
JR中央本線奈良井駅
JR中央本線奈良井駅
奈良井駅の駅舎は1909年(明治42年)の開業時に建てられたものという。宿場の景観に似合うように改修や整備が施されているものの、ほぼ往時の姿を保っている。奈良井駅は木曽福島駅管理の簡易委託駅で、基本的に無人駅だが、観光案内所を兼ねている。ホームは片面ホームと島式ホームの2面があり、それを繋いで跨線橋が線路を跨いでいる。ホームには「中山道 奈良井宿」と記した大きな看板が立てられ、奈良井宿の最寄り駅であることを示している。
JR中央本線奈良井駅
JR中央本線奈良井駅
奈良井駅に停車する列車は1〜2時間に1本程度、利用者も多いとは言えない。奈良井宿を訪れる観光客のほとんどは車を使い、鉄道を利用する人は多くないようだ。

それでも1909年(明治42年)に開業した駅である。開業時に建てられた駅舎は風情に富み、鉄道ファンならずとも魅力を感じるものだ。奈良井宿を訪れた際には、車を使って訪れた身であっても、ぜひ奈良井駅にも立ち寄っておきたい。
C12-199号蒸気機関車
奈良井駅から1kmほど西、すなわち奈良井宿の旧宿場を通り抜けた先、「権兵衛(ごんべい)踏切」の脇に設けられた観光用駐車場の奥に、「C12-199号蒸気機関車」が展示されている。
C12-199号蒸気機関車
C12-199号蒸気機関車
傍らに設置された案内板によれば、この蒸気機関車は戦前、鉄道省が軸重制限のある簡易線規格路線に使用するために設計製造した小型軽量機関車「C12型蒸気機関車」282両のうちの1台であるという。1938年(昭和13年)に埼玉県蕨工場で製造され、初任地は新潟鉄道管理局山形機関区、その後、同飯山機関区を経て、終戦後の1955年(昭和30年)に長野鉄道管理局木曽福島機関区に配置された。以後、18年余を木曽路で活躍、1974年(昭和49年)に役目を終え、翌年、(当時の)国鉄長野鉄道管理局から(当時の)楢川村に貸与され、現在地に移設されたものという。通算走行距離は1,366,016km、地球29周分ほどに及ぶそうである。
C12-199号蒸気機関車
機関車は今も保存会によって美しい外観のままに展示されている。前述の案内板には機関車の最大寸法やシリンダ径といったスペックも記されている。鉄道ファンならぜひ見ておきたいものだろう。
参考情報
交通
奈良井駅へは塩尻駅からJR中央本線で約21km、乗車時間は22分ほどだ。新宿からは塩尻で乗り換えが必要だ。新宿から塩尻まで約212km、「スーパーあずさ」などを利用して、2時間半ほどの乗車時間を要する。中津川駅からは約74km、1時間20分ほどの乗車時間だ。

車で訪れる場合、塩尻市中心部方面からなら国道19号を南下、中津川市方面からなら国道19号を北上すればいい。中央自動車道を利用する場合は、伊那ICから国道361号を西進し、国道19号を北へ辿るのが近い。長野自動車道を利用する場合は塩尻ICで降りて国道19号を南へ辿るのがいいだろう。

駐車場は奈良井宿に設けられた観光客用の駐車場を利用すればいい。駅前にも観光客用の駐車スペースが少しばかり用意されている。詳細は奈良井宿観光協会サイト等を参照されたい。

飲食
奈良井駅から奈良井宿の町並みに歩を進めれば街道沿いに食事処が点在している。気に入った店を見つけて利用すればいい。

周辺
奈良井駅は中山道奈良井宿の最寄り駅だ。駅から西南の方角へ向けて、約1kmほどで旧宿場の面影を残した町並みが続く。のんびりと散策してみるのがお勧めだ。線路を渡った東側には「道の駅奈良井木曽の大橋」がある。木曽檜を利用して造られたという「木曽の大橋」はぜひ見ておきたい。

奈良井駅から塩尻方面へ向かえば、次は木曽平沢、その次は贄川の駅だ。それぞれ旧中山道の面影を残した町並みが魅力だ。中津川方面へと向かえば鳥居峠の下をトンネルでくぐって藪原、次は宮ノ越だ。これも旧中山道の名残を探しての散策が楽しい。足を延ばしてみるのがお勧めだ。
鉄道小景散歩
長野散歩