長野県塩尻市の南部の国道19号沿いに「道の駅奈良井木曽の大橋」が設けられている。奈良井宿の玄関口の役割を担う道の駅だ。山々が紅葉に染まる十一月、「道の駅奈良井木曽の大橋」に立ち寄った。
道の駅奈良井木曽の大橋
「道の駅奈良井木曽の大橋」は「道の駅」としてはかなり特殊だ。当然のことながら駐車場は完備し、休憩所を兼ねた情報提供施設は有しているが、飲食店や売店などは併設されていない。実質的に「道の駅奈良井木曽の大橋」を構成するのは奈良井川両岸に設けられた駐車場と奈良井川左岸部に設けられた芝生広場の公園スペース、そして奈良井川を跨ぐ「木曽の大橋」だけである(トイレはもちろんある)。駐車場と飲食施設、物販施設のみで構成され、他には特段の施設を持たない「道の駅」は少なくないが、飲食施設と物販施設を持たない「道の駅」は異例と言っていいのではないか。
道の駅奈良井木曽の大橋
道の駅奈良井木曽の大橋
「道の駅奈良井木曽の大橋」は「道の駅」としての本来の役割より、奈良井宿を車で訪れる人々のための玄関口としての役割が大きいのだろう。奈良井宿は旧中山道の宿場で、木曽路十一宿の中でも規模の大きな宿場だった。宿場時代の家並みが今もほぼそのままに残り、多くの観光客を集めて賑わっている。「道の駅奈良井木曽の大橋」は、その奈良井宿に(JR中央本線の線路で隔てられてはいるが)半ば一体化するように隣接し、特に「木曽の大橋」は観光地としての奈良井宿の一部を成していると言ってもいい。飲食施設や物販施設を持たない「道の駅奈良井木曽の大橋」だが、奈良井宿の町並みの中に点在する食事処や土産物店などがその役割を担い、その全体で一つの大きな“施設”として機能していると考えればよいのだろう。
道の駅奈良井木曽の大橋
道の駅奈良井木曽の大橋
「道の駅奈良井木曽の大橋」は奈良井川の両岸に分かれて構成されており、国道19号側には駐車場が、線路側には芝生広場となった公園スペースと駐車場、休憩施設が設けられ、その両者を繋いで「木曽の大橋」が奈良井川を跨いでいる。1993年(平成5年)に「道の駅」として登録されたものだが、駐車場部分を道路整備事業として国土交通省が、「木曽の大橋」と公園スペースを地域総合整備事業として当時の楢川村が整備した。当時は奈良井川右岸の駐車場と左岸に位置する「木曽の大橋」、公園スペースだけで構成されていたが、2011年(平成23年)に公園スペース横の駐車場が新たに整備され、それに伴って現在の「奈良井宿」交差点とそこからのアプローチの道路が整備されている。
道の駅奈良井木曽の大橋
道の駅奈良井木曽の大橋
何と言っても「木曽の大橋」である。「木曽の大橋」は、今では「道の駅奈良井木曽の大橋」内の設備というより、奈良井宿の“見どころ”のひとつとして知られている。樹齢300年以上の木曽檜を使用したという大橋は1989年(平成元年)に着工、完成までに3年の歳月と3億円超の工費がかけられている。橋長33メートル、総幅員6.5メートル、中央部は川面から7メートルほどの高さを誇る太鼓橋だ。橋脚を持たない橋としては日本有数の大きさ、幅員は日本一だという。川岸を辿れば橋を下から間近に見ることもできる。複雑な木組みはまさに匠の技である。大橋は日没を過ぎるとライトアップされ、幻想的な光景が人気だという。
道の駅奈良井木曽の大橋
「木曽の大橋」を渡った奈良井川左岸部の公園スペースは「水辺のふるさとふれあい公園」の名があり、芝生の広場に水路を施し、四阿や遊具を置いた構成になっている。特に“観光地”としての性格を有しているわけではないが、公園を中心に河岸の散策を楽しむのも一興だろう。

「道の駅奈良井木曽の大橋」と奈良井宿の町並みとはJR中央本線の線路によって隔てられているが、近くに線路をくぐる通路が設けられており、行き来にそれほどの不便はない。
道の駅奈良井木曽の大橋
「木曽の大橋」以外には特筆するような設備のない「道の駅」だが、そのことが異例の「道の駅」としての特徴であるかもしれない。そして何より、奈良井宿に隣接する「道の駅」としての存在意義が大きく、「道の駅」駐車場がそのまま奈良井宿観光用駐車場として機能している。そしてまた、奈良井宿観光に際には、ぜひ「木曽の大橋」を見ておきたい。
カフェ深山
カフェ深山
カフェ深山
「道の駅奈良井木曽の大橋」の公園側駐車場の横手に「カフェ深山」というカフェがある。洒落た外観に相応しく、店内も落ち着いた印象のカフェで、奈良井宿散策の後での一休みにお勧めの店だと言っていい。店内にはホーロー看板などの、いわゆる“昭和レトロ”な物品を展示したコーナーもあり、そうしたものの好きな人ならそれも楽しめるだろう。
カフェ深山
カフェ深山
店では各種ドリンク類やスイーツなどが楽しめるのは当然だが、この店の看板メニューは百年前のレシピを再現したというカレーだ。1903年(明治36年)に発行された「家庭之友」1巻5号に掲載されたレシピを再現したものという。仕込みに5日間かけるというカレーは具材はほとんど煮溶けて原型を留めていない。スパイスの香りは芳醇だが、どちらかと言えば甘口で、口当たりのよいカレーに仕上がっている。
カフェ深山
この店の敷地内、建物横に古い鉄道車両らしいものが置かれている。通常の鉄道よりずいぶん小さいそれは、木曽森林鉄道で使われていた機関車と客車であるらしい。

木曽森林鉄道とは、かつて長野県木曽谷の国有林で木材運搬のために運行していた森林鉄道のことだ。林野庁長野営林局管内で、最盛期には10の営林署があり、それぞれに森林鉄道を運行していた。森林鉄道は大正期から昭和の高度経済成長期の頃まで木材の運搬を担ってきたが、やがて道路網が整備されると運搬の主役がトラックに代わり、森林鉄道はその役目を終えることになった。

「カフェ深山」の敷地に展示されている車両は、この近くに打ち捨てられたように長く放置されてきたもののようだが、2013年(平成25年)に現在地に移動、展示され、来店した客の興味を引いている。マニアには垂涎もの、これを目当てに来店しても後悔しないだろう。
参考情報
交通
道の駅奈良井木曽の大橋は塩尻市奈良井の国道19号沿いに設けられており、奈良井宿と一体化するように隣接している。塩尻駅前からは約22km、中津川駅前からは約74kmだ。

道の駅奈良井木曽の大橋には当然のことながら充分な駐車場が用意されており、大型車18台、普通車91台の駐車が可能だ。

飲食
道の駅奈良井木曽の大橋にはレストランは併設されていない。奈良井宿の町の中などに食事処があるから、それらを利用するといい。

周辺
道の駅奈良井木曽の大橋に立ち寄ったら奈良井宿の町並みも歩いておきたい。JR中央本線の線路によって隔てられているが、地下通路が設けられているので行き来に不便はない。

国道19号を北へ2kmほど辿れば木曽平沢の町、約4kmで道の駅木曽ならかわ、7kmほどで贄川宿だ。南へ向かえば5kmほどで藪原宿に着く。併せて訪ねてみるのもお勧めだ。
長野散歩