佳景探訪
中山道奈良井宿
長野県塩尻市の奈良井宿は江戸時代に中山道の宿場として栄えた。木曽路十一宿のうち、江戸から二番目、難所である鳥居峠を控えて多くの旅人で賑わった。山々が紅葉に染まる十一月初旬、奈良井宿を訪ねた。



中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿

中山道奈良井宿
奈良井宿は中山道六十九次のうち、江戸から34番目、木曽路十一宿の中では贄川宿の次の宿場だった。かつての長野県木曽郡楢川村、現在の塩尻市に位置し、標高は900mを超える。木曽路十一宿の中で最も標高の高い宿である。

奈良井の集落は1500年代の中頃にはすでに宿駅としての機能を果たしていたようだが、1600年代になると江戸幕府による宿駅制定によって整備され、中山道の主要な宿場のひとつとして栄えた。奈良井の宿は総延長八間余り(約1km)と規模が大きく、「奈良井千軒」と呼ばれ、多くの旅人で賑わったという。江戸から辿れば次の藪原宿との間に難所である鳥居峠を控えており、西へ向かう人はここで難所越えの支度を調え、東へ向かう人は峠越えの疲れを癒やしたのだろう。

明治期になって道路が改修された際、旧街道が国道から外されたため(現在の国道19号は奈良井宿の町並みとは奈良井川を挟んだ対岸を通っている)、結果的に古い町並みがそのまま残ることなった。宿場時代の町並みがほぼ完全に残る町並みは歴史遺産としても価値のあるもので、1978年(昭和53年)に国から「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。

「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された後、奈良井の町は往時の面影を取り戻すために建物の修復やさまざまな修景事業を実施、その甲斐もあってか、1989年(平成元年)には国土交通省による「手づくり郷土(ふるさと)賞」を、さらに2005年(平成17年)「手づくり郷土大賞」を受賞、2007年(平成19年)には財団法人古都保存財団による「美しい日本の歴史的風土100選」に選出、2009年(平成21年)には社団法人日本観光協会「花の観光地づくり大賞」を受賞するなど、数々の賞を受賞している。

2011年(平成23年)には4月から半年間放送されたNHKの連続テレビ小説、いわゆる「朝ドラ」の「おひさま」のロケ地となり、これによって奈良井はさらに知名度を高めたようだ。「おひさま」は激動の昭和時代を生きたヒロインの半生を描いたドラマだったが、戦前の昭和初期、ヒロイン(井上真央が演じた)が女学生時代を過ごしたシーンの通学路などの舞台として奈良井宿の町が使われていた。

奈良井宿は約1kmに渡って古い家並みが続く。その風景は宿場時代の面影を色濃く残し、古い時代に迷い込んだかのような錯覚さえ覚える。国の重要文化財に指定された手塚家住宅、江戸時代末期の建物が残る伊勢屋や中村邸、あるいは復元された高札場、奈良井宿に六ヶ所ある水場など、見るべきものは多く、丁寧に見学してゆくと時の経つのを忘れる。

もちろん観光地として人気を集める町だから、通り沿いには土産物店や飲食店なども軒を並べ、観光客向けのさまざまな演出が施されて宿場の風情を盛り上げている。

その一方で、奈良井の町は今でも人々が暮らしを営む生活の場でもあり、観光客がそぞろ歩きを楽しむ旧街道には地元の人たちの車がときおり行き交う。この古い町並みが、今もこうして生活の場として使われていることに感動する。

旧街道とは線路を挟んだ東側、奈良井駅近くに店を構える「カフェ深山」で、奈良井の旧街道にご自宅があるというスタッフの方にお話を伺う機会があった。「こうした歴史的な価値のある町に暮らしていると、いろいろなご苦労もあるのではないですか」と訊ねてみたが、「生まれたときからこれが当たり前のことですから、苦労と感じたことはありません」と笑顔でおっしゃっていた。感服する思いだ。

奈良井駅から鎮神社までおよそ1km、江戸時代の宿場の風情を味わいながらのんびりと散策を楽しむのが奈良井観光の王道だろう。街道沿いの店で土産物を買い求めたり、お茶を楽しんだり、横道に入り込んでみたりしながら、じっくりと時間をかけて辿るのがお勧めだ。木曽路観光の際には絶対に訪れなくてはならないところだと言っていい。
徳利屋


徳利屋
徳利屋は1940年(昭和15年)頃まで旅籠を営んでいたそうである。現在は資料館を併設した食事処になっている。塩尻市指定の有形文化財である。
伊勢屋


伊勢屋
伊勢屋は江戸時代末期から明治期まで下問屋を務め、脇本陣も兼ねていたという。その頃の建物が今も残り、現在は民宿を営んでいる。
手塚家住宅(上問屋資料館)


手塚家住宅(上問屋資料館)
現在は上問屋資料館となっている手塚家住宅は国の重要文化財である。建物は1840年(天保11年)に建てられたものという。手塚家は1602年(慶長7年)から明治になって宿駅制度が廃止されるまで奈良井宿の問屋を務めてきた家柄で、天保年間(1831〜1845年)からは庄屋も兼務した。1880年(明治13年)に明治天皇が巡幸された際には御在所にもなった。現在は上問屋資料館となっており、明治天皇が宿泊された部屋が当時のまま保存されている。
長泉寺


長泉寺

長泉寺
長泉寺は1365年(貞治5年)の創建という。長泉寺は、いわゆる「御茶壺道中」の宿泊所である。江戸時代、京都宇治の特産品である宇治茶を徳川将軍家に献上するため、京から江戸まで行列が組まれて茶壺が運ばれた。三代将軍家光の頃に「宇治採茶使(うじさいちゃし)」として制度化され、1633年(寛永10年)から1866年(慶応2年)まで続けられた。この「宇治採茶使」のことを、俗に「御茶壺道中」と呼ぶ。御茶壺道中は京を出て中山道から甲州街道へと辿って江戸へ向かったが、その途中、毎年、奈良井宿長泉寺に宿泊していた。長泉寺には拝領した茶壺が残されているという。
中村邸


中村邸
中村邸は塗櫛の問屋を営んでいたという。建物は天保年間(1831〜1845年)に建てられたもので、塩尻市の有形文化財に指定されている。二階を少しせり出させた出梁(だしばり)づくりや鎧庇(よろいびさし)などは、奈良井の民家の典型的な様式だそうである。現在は資料館として公開されている。
鎮神社


鎮神社

鎮神社
鎮神社は奈良井宿の鎮守である。1618年(元和4年)、この地に難病が流行った。住民が協議の末、社殿を建立、下総(現在の千葉県北部)の香取神宮を勧請して祀ったところ、難病が鎮まったという。当然のことながら祭神は経津主大神である。もともとは鳥居峠に建立されたものらしいが戦火で焼失、現在地に遷座したものという。鬱蒼とした樹林を背負って建つ社殿は奈良井の鎮守に相応しい凛とした風格を漂わせている。鎮神社まで足を延ばす観光客の姿は少ないが、奈良井を訪れたときにはぜひ参拝しておきたい。毎年8月には氏子総出で例祭が盛大に執り行われるそうである。
猿頭


猿頭
猿頭とは、庇木を押さえる桟木のことで、奈良井の民家の特徴であるという。“猿の頭が重なったように見える”ことからこの名があるそうだが、なるほど、見る角度によってはそのように見える。
水場


水場
奈良井宿には「下町」、「下城」、「横水」、「池の沢」、「鍵の手」、「宮の沢」の六ヶ所の水場がある。山からの沢水や湧水を引いたもので、地元の水場組合によって管理され、飲料水として、そしてまた地元住民の生活用水や防火用水としても用いられているという。古来、峠へ向かう旅人が、あるいは峠を越えてきた旅人が喉を潤してきたのだろう。水場には柄杓が置かれている。昔の旅人に倣ってみるのもいい。清らかな水である。
高札場


高札場
高札場とは、江戸時代に幕府が定めた各種の法令を民衆に周知するために板に書いて掲げていた場所のことだ。各宿場に高札場が置かれており、距離の起点にもなっていた。奈良井宿の高札場は南西側、すなわち京方の入口に置かれていた。鎮神社の参道脇、「宮の沢」水場の横である。高札場は明治期になって宿駅制度が撤廃されると共に廃止されている。現在の高札場は往時の絵図を基に1973年(昭和48年)に復元されたものという。


中山道奈良井宿

中山道奈良井宿
鉄道を使って奈良井宿に訪れる人にとっては、JR中央本線の奈良井駅が玄関口だろう。奈良井駅は奈良井宿の町並みの北東側に端に位置し、奈良井宿散策のまさに入口として機能している。奈良井駅は1909年(明治42年)の開業という。

自家用車や観光バスなどで訪れる人は「道の駅奈良井木曽の大橋」やその周辺に整備された駐車場を利用することになる。「木曽の大橋」は、今ではそれ自体が奈良井宿の“見どころ”のひとつとして広く知られている。樹齢300年以上の木曽檜を使って造られたという「木曽の大橋」はなかなか美しい。「木曽の大橋」から少し河岸の散歩へと足を延ばしてみるのもお勧めだ。
参考情報
交通

奈良井宿は電車ならJR中央本線を利用し、奈良井宿駅で降りればいい。駅から南へ、奈良井宿の古い町並みが続く。

車で訪れる場合、塩尻市中心部方面からは国道19号を南下、中津川市方面からなら国道19号を北上すればいい。中央自動車道を利用する場合は、伊那ICから国道361号を西進し、国道19号を北へ辿るのが近い。長野自動車道を利用する場合は塩尻ICで降りて国道19号を南へ辿るのがいいだろう。

奈良井宿には観光客用の駐車場が用意されており、百数十台分のスペースが設けられている。詳細は奈良井宿観光協会サイト等を参照されたい。

飲食

奈良井宿には蕎麦店や古民家カフェなど、飲食の可能な店がある。好みの店を選んで食事を楽しむといい。

周辺

奈良井宿を訪ねたなら、旧宿場の町並みだけでなく、道の駅奈良井木曽の大橋JR中央本線奈良井駅なども訪ねておきたい。

足を延ばして木曽路の他の宿場町を訪ねてみるものお勧めだ。国道19号を北へ7kmほどで贄川宿、南へ向かえば5kmほどで藪原宿だ。奈良井宿から北へ2kmほどの木曽平沢の町も訪ねてみたい。

中山道奈良井宿
中山道奈良井宿

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