埼玉県北本市石戸宿の城ヶ谷堤には桜並木がある。六十本ほどのソメイヨシノが道沿いに並び、桜の名所として知られている。桜が満開となった四月上旬、城ヶ谷堤を訪ねた。
城ヶ谷堤桜並木
埼玉県北本市石戸宿の北西部、荒川の左岸に城ヶ谷堤という堤がある。水害から田畑を守るために江戸時代初期に築かれたものという。「城ヶ谷」の名は、南側に石戸城があったことに由来するのかもしれない。「谷」の字が意味するように堤の東側は低地になっており、その低地を荒川の流れから遮断するために堤が築かれたのに違いない。
城ヶ谷堤桜並木
土砂を台形状に盛り上げた構造の城ヶ谷堤は1943年(昭和18年)に全面改修がなされたものだそうだ。堤体上には現在は舗装路が通り、荒川左岸に沿って南北に延びる道路の一部を成している。その道路沿い、両側に約60本のソメイヨシノが並木を形作り、春には見事な“桜のトンネル”となって訪れる人々を魅了している。この桜は戦後になって地元石戸宿の人たちが植え、守り育ててきたものという。
城ヶ谷堤桜並木
城ヶ谷堤の桜並木は数はそれほど多くはないものの、どの桜も齢を重ねた大木と言ってよく、見事な枝振りで堤を覆っている。堤体上の道路はまさに“桜のトンネル”と化し、春爛漫の景観を見せる。舗装された一般路だから時折通り抜ける車に気を遣う必要はあるが、交通量はそれほど多くはなく、道脇を辿れば美しい桜並木を存分に堪能することができる。
城ヶ谷堤桜並木
堤の東側斜面には段差が設けられ、そこに小径が辿っている。その小径の東側にも桜が並び、こちらは車に注意を払う必要もなく、のんびりと花見散歩を楽しむことができる。小径脇には菜の花が咲き、黄色い絨毯となって景観に色彩を与えている。小径の東側は草木の茂った低地になっているが、そこはすでに北本自然観察公園の範囲内であるようだ。
城ヶ谷堤桜並木
堤の西側、すなわち荒川側には駐車場が設けられており、その脇、駐車場と堤の間に露店が並んでいる。取り付けられたスピーカーから流行歌が大音量で流されていて、個人的には少しばかり閉口したが、それも“おまつり気分”を盛り上げるのに一役買っているのかもしれない。露店脇にはテーブルも置かれており、露店で買い求めたものを食べながらの花見も楽しいかもしれない。
城ヶ谷堤桜並木
駐車場の南側には天神下運動公園という公園がある。公園とは言っても広場を設けただけの運動場だが、その西側には木々が茂り、桜が並ぶ。堤の桜に比べれば若い木のようだが、それでも大きく育った桜は見応え充分だ。堤の桜並木は訪れる花見客も多いが、こちらの運動公園へと足を延ばす人はほとんどないようで、まったく人の姿の無い桜景色を楽しむことができた。開放感溢れる広場で眺める桜もよいものだ。
城ヶ谷堤桜並木
城ヶ谷堤桜並木
城ヶ谷堤の桜並木は、他の“桜の名所”に比べれば、規模の大きなものとは言えないだろう。しかし大きく育って枝を張った数十本の桜が咲き揃う景観は圧巻と言ってよく、期待通りの素晴らしい春景色を楽しむことができる。堤体上を歩いて楽しむ景観も見事なものだが、堤の下から見上げるのもいい。並木は短い距離だが、見る場所によって表情が変わり、なかなか飽きない。のんびりと花見散歩を楽しむにもよく、シートを広げて花見を兼ねたアウトドアランチを楽しむにもいい。“花見の名所”の評判に恥じない、素敵な春景色の楽しめる城ヶ谷堤である。
城ヶ谷堤桜並木
参考情報
交通
電車で訪れる場合はJR高崎線北本駅からバスを利用しなくてはならない。西口バス乗り場から「北里大学メディカルセンター線」のバスを利用し、「自然観察公園前」バス停で下車、北本自然観察公園内を抜けて徒歩15分ほどだ。

車で来訪する場合は、遠方の人は圏央道桶川北本ICを利用すると近い。ICを降りたらUターンして道なりに進み、「石戸宿一丁目」交差点を左折するといい。国道17号を利用する場合は「山中」交差点を西へ折れ、県道312号を西進、「石戸両大師入口」交差点を左折、道なりに進むといい。「石戸蒲ザクラ」の前を通過し、突き当たりの丁字路を右折して進めば城ヶ谷堤だ。

堤の西側に無料駐車場が用意されており、100台近い駐車スペースがあるが、満開の時期の週末には混み合うように思える。

飲食
お花見に訪れるのであれば、お弁当と敷物を持参するのがお勧めだ。駐車場脇には露店が出ており、焼きそばやお好み焼き、たこ焼き、焼とうもろこしなど、お祭りの屋台で売られているようなものが並んでいる。

近辺には飲食店は無い。飲食店を探すなら駅近辺へ移動するのが賢明だろう。

周辺
城ヶ谷堤の東側には北本自然観察公園が広がっている。園内には樹齢200年ほどというエドヒガンの大木があるが、ソメイヨシノに比べて開花が早いので、訪れるときには開花状況を確認してからの方がいいだろう。北本自然観察公園の南側には有名な石戸蒲ザクラがある。こちらはソメイヨシノに比べて開花が遅いようだ。その横には子供公園があり、ソメイヨシノを楽しめる。すべて徒歩圏内と言っていい。のんびりと巡ってみるのも楽しい。

車で訪れたならさらに北へ足を延ばして高尾さくら公園、西へ進んで吉見町へ入るとさくら堤公園などがある。車で移動すれば城ヶ谷堤から吉見町のさくら堤公園まで5kmほどの距離だ。
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