埼玉県久喜市の西部、水田地帯の広がる中に菖蒲城趾あやめ園がある。戦国時代の頃に菖蒲城が築かれていたところだそうだ。花菖蒲が見頃を迎えた六月半ば、菖蒲城趾あやめ園を訪ねた。
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園
埼玉県久喜市の西部、住所表記に「菖蒲町」が含まれている地域は、かつて埼玉県南埼玉郡菖蒲町だったところだ。2010年(平成22年)に久喜市と北葛飾郡栗橋町と鷲宮町、南埼玉郡菖蒲町の一市三町が合併して新しい久喜市が発足した。

菖蒲町には1400年代の中期から1500年代に終わり頃にかけて菖蒲城という城があった。菖蒲城は古河公方足利成氏が金田式部則綱に命じて1456年(康正2年)に築城させたものらしい。「菖蒲の節句(5月5日)」に竣工したので菖蒲城と命名したとも言われる。金田は菖蒲佐々木氏とも呼ばれ、北条氏に属していたようで、1590年(天正18年)の豊臣秀吉の小田原征伐の後に菖蒲城も廃城となっている。

現在の菖蒲城趾には菖蒲城趾であることを示した石碑が建てられており、松などの木々が植栽され、四阿も置かれて風情のある景観が演出されてはいるが、菖蒲城の遺構はまったく残っていない。菖蒲城趾には、今は「菖蒲城趾あやめ園」の名で知られる花菖蒲園が設けられており、花菖蒲が花期を迎える6月には観賞に訪れる人たちで賑わっている。
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園の入口には江戸時代にこの地域を治めた旗本内藤氏の屋敷門が移築されている。内藤氏は幕末まで徳川家に仕え、この地に陣屋を構えて五千七百石を治めた。傍らに設置された解説によれば、菖蒲城趾あやめ園に残る門は内藤氏の栢間陣屋の裏門だという。明治期に陣屋は廃止解体されたが、この門は当時の名主三須家に移築されて残り、1998年(平成10年)、三須家から菖蒲町に寄贈されて菖蒲城趾あやめ園に移築されたものらしい。

菖蒲城趾あやめ園の周辺は広大な水田地帯だ。近くには山も無く、広々とした視界が広がる。その水田地帯の一角、菖蒲城趾の付近に菖蒲田が設けられて、約50品種、16000株ほどの花菖蒲が育成されている。菖蒲田の中には木道が設けられ、木道の上から咲き誇る花菖蒲を存分に堪能することができる。花菖蒲そのものももちろん美しいものだが、見渡す限りに広がる水田地帯の風景の中で見る花菖蒲には独特の興趣がある。特に菖蒲園から西へと視線を向ければ、咲き誇る花菖蒲の向こうには遥か遠くまで水田が広がるばかりで、田植えが終わったばかりの水田と花菖蒲とが織り成す風景が何とも美しい。菖蒲田の西側の外縁部から東を見れば、菖蒲園の中に立てられた四阿やその横の木々を背景に花菖蒲を見ることになるが、その景観にも良い風情がある。
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園
菖蒲城趾あやめ園は交通量の多い県道12号沿いにあり、菖蒲園の中にいても県道を通行する車の騒音が聞こえてくるのが少しばかり興をそぐが、車で来訪した身であることを思えば、声高にそれを欠点と言うのは憚られるところだ。

今回訪れたとき(2013年6月)、花菖蒲は見頃を少し過ぎていたのか、花の状態が最良とは言えない状態だった。それでも広々とした田園風景の中での花菖蒲観賞は素敵なひとときだった。この風景と共に花菖蒲を楽しむのがお勧めだろう。
菖蒲城趾あやめ園
参考情報
6月上旬から7月上旬にかけて、久喜市役所菖蒲総合支所庁舎周辺を会場に「あやめ・ラベンダーのブルーフェスティバル」が開催される。菖蒲城趾あやめ園の花菖蒲もその一環という位置づけになっている。

菖蒲城趾あやめ園にはトイレ設備はなく、簡易トイレが置かれているのみなので、訪ねる前に済ませておきたい。

交通
菖蒲城趾あやめ園は鉄道の駅から遠く、バスを利用しなくてはならない。JR高崎線桶川駅からの菖蒲車庫行きに乗り、「城趾あやめ園前」バス停で下車すればいい。「城趾あやめ園前」バス停は花菖蒲の花期のみの臨時バス停だそうだ。

菖蒲城趾あやめ園には無料駐車場が用意されており、車での来訪も便利だ。菖蒲城趾あやめ園は県道12号沿いにある。国道17号からは「坂田」交差点から県道12号を東進、国道122号(騎西菖蒲バイパス)からは「菖蒲北」交差点から県道12号を西進という位置関係だ。遠方から訪れる人なら、圏央道白岡菖蒲IC、あるいは圏央道桶川北本ICを利用するといい。白岡菖蒲ICからは国道122号(騎西菖蒲バイパス)を北上し、「菖蒲北」交差点から県道12号へ、桶川北本ICからはそのまま県道12号へ出て東進すればいい。ただ県道12号の特に東行きは渋滞しがちなようだ。

菖蒲城趾あやめ園の駐車場は道路向かいにある。駐車台数は40台分ほどと少ないが、西方に位置する久喜市役所菖蒲総合支所庁舎脇に設けられた駐車場も利用できる。庁舎脇の駐車場はかなり余裕がある。久喜市役所菖蒲総合支所庁舎から菖蒲城趾あやめ園まで、水田地帯の中の小川沿いを歩いて1km足らずだ。

飲食
菖蒲城趾あやめ園は水田地帯の直中という立地だ。周辺にはまったくお店はない。食事は場所を移動して楽しむのが賢明であるように思える。

園内には四阿もあり、そこでお弁当を食べることも不可能ではないが、少しばかり落ち着かないような気がする。「あやめ・ラベンダーのブルーフェスティバル」のメイン会場にも飲食店はないが、テントの休憩所が設営されており、そこでお弁当を食べる人の姿もあった。

周辺
菖蒲城趾あやめ園の周辺は広々とした水田地帯だ。長閑な風景を楽しみつつ、少し散策してみるのも悪くない。

あやめ・ラベンダーのブルーフェスティバル」のメイン会場である久喜市役所菖蒲総合支所庁舎周辺にも足を延ばし、庁舎周辺のラベンダーも楽しんでおきたい。久喜市役所菖蒲総合支所庁舎から西へ、さらに数百メートル辿れば、「あやめ・ラベンダーのブルーフェスティバル」の会場のひとつである「しらさぎ公園」がある。ラベンダーが見られるようだ。

久喜市役所菖蒲総合支所庁舎5階には本多静六記念館が設けられている。全国各地の公園の設計を手がけ、「公園の父」とも呼ばれる本多静六博士に関する資料が展示されている。興味のある人は見学してみるといい。

車で訪れたなら少し足を延ばし、加須市の「ふじとあじさいの道」を訪ねてみるのもいい。広々とした水田地帯の中に紫陽花の咲く風景が楽しめる。菖蒲城趾あやめ園から北へ7kmほどだ。
花菖蒲散歩
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