東京都大田区、東急多摩川駅の東側に田園調布せせらぎ公園という公園がある。木々が茂った緑濃い公園で、園内には湧水もある。木々の緑も瑞々しい六月の下旬、田園調布せせらぎ公園を訪ねた。
田園調布せせらぎ公園
東急線多摩川駅から東へ出ると緑濃い公園が横たわっている。田園調布せせらぎ公園という。
田園調布せせらぎ公園
田園調布せせらぎ公園
田園調布せせらぎ公園
田園調布せせらぎ公園
ここにはかつて多摩川園という小さな遊園地があった。多摩川園は東急の前身企業によって造られ、1925年(大正14年)に開園、メリーゴーラウンドやお化け屋敷などの遊戯施設を設けて人気を集めたという。戦前戦後には経営主体が変わり、それに伴って遊園地の性格そのものも変わった時期があったようだが、やがて東急の経営となり、高度成長期には観覧車や小規模のジェットコースター、サル山なども設置され、多くの来園者を迎えて賑わったらしい。しかし、1970年代以降になるとその人気にも翳りが見え始め、来園者数は減少の一途を辿る。世相も変わり、レジャーが多様化し、こうした小規模の遊園地は集客力を失っていったのだ。多摩川園がその歴史を閉じたのは1979年(昭和54年)のことだ。閉園の際には多摩川園の閉園を惜しむ来園者で大いに賑わったという。

多摩川園が閉園した後、跡地は東急経営による多摩川ラケットクラブというテニスクラブに生まれ変わった。田園調布という土地柄もあって、なかなかの高級テニスクラブだったそうだ。しかしこれもバブル崩壊と共に経営が行き詰まり、2000年(平成12年)に閉鎖されてしまう。その跡地を、紆余曲折の末に大田区が取得、公園として整備して開園したのが現在の「田園調布せせらぎ公園」だ。「田園調布せせらぎ公園」の名は2004年(平成16年)に大田区が公募によって決定、公園が正式に開園したのは2008年(平成20年)のことだ。

ちなみに東急線の多摩川駅は東急の前身企業のひとつである目黒蒲田電鉄の開通と共に1923年(大正12年)に開業、1926年(大正15年)に「丸子多摩川駅」に改称、さらに多摩川園開園から6年後の1931年(昭和6年)に「多摩川園前駅」に改称されている。1977年(昭和52年)には駅名が「多摩川園駅」に改称されたが、長く駅名の由来となっていた多摩川園はそれから間もない1979年(昭和54年)に閉園、やがて2000年(平成12年)、開業時の駅名と同じ「多摩川駅」へと改称されている。駅名の変遷にも歴史の流れというものが感じられて興味深い。
田園調布せせらぎ公園
田園調布せせらぎ公園
田園調布せせらぎ公園
「田園調布せせらぎ公園」は大田区田園調布一丁目に位置しており、そのため公園の名に「田園調布」と冠されたのだろう。公園は東急多摩川駅の東側に、南北にやや長く、ほぼ長方形の形で広がり、3haほどの面積を有している。駅に近い公園の西側部分は低地、東側部分は一段高くなった台地で、その両者の間に崖線が延びている。その崖線から湧水があり、「せせらぎ公園」の名の通り、自然の小川を形作っている。地形的に見ても多摩川駅周辺の土地は昔から低湿地だったのだろう。

その崖線部を中心に園内には木々が鬱蒼と茂り、なかなか緑濃い様相を見せる。公園北端近くと南端近くにそれぞれ崖線からの湧水を集めた湧水池があり、それらの湧水が自然の流れを作り、公園内に小さな池を形作っている。最も大きな池(それでも小さなものだが)の脇には小さな滝があるが、これは人工的に造られたもののようだ。これらの小川や池の周囲は鬱蒼と木々が茂っている。その緑濃い様相は郊外の“里山公園”のようでもあり、ここが大田区内、しかも田園調布一丁目という町の中だということを忘れる。公園が整備される以前、ここも民間の宅地開発の計画もあったようだが、こうして緑溢れる空間が残されたことは貴重なことだろうし、付近に暮らす人たちにとっても嬉しいことだったに違いない。
田園調布せせらぎ公園
田園調布せせらぎ公園
公園内には中央部崖線下を南北に散策路が延び、そこから崖を登る小径が東側台地へと辿っている。公園の随所に長方形の輪郭を持った広場があるが、これはテニスクラブ時代の名残、テニスコート跡なのだろう。多摩川駅横に設けられた表門から園内に入ると、横手には公園事務所や休憩所を兼ねた集会所の施設があるが、これもテニスクラブ時代のクラブハウスを利用したものらしい。滝のある池の横や東側の広場横などには四阿も設置され、その佇まいも緑濃い景観に似合って良い風情だ。

「田園調布せせらぎ公園」は基本的に田園調布の町に暮らす人たちのための、日常的な憩いの場としての役割を持った公園だと言えるだろう。現在の公園には“行楽地”的性格は皆無だが、東急沿線の、特に都会の中で暮らす人たちにとっては自然に触れることのできる身近な公園であるかもしれない。のんびりと園内を巡りながら、多摩川園時代の子どもたちのはしゃぐ声や、多摩川ラケットクラブ時代に響いていたであろうボールの音などを思い浮かべてみるのも一興かもしれない。それらの賑わいを時の向こうに置き去りにして、今はただ緑の木々が静かに風に吹かれるばかりだ。
参考情報
本欄の内容は田園調布せせらぎ公園関連ページ共通です
田園調布せせらぎ公園は昼間のみの開園で夜間は完全閉鎖される。開園時間や閉園日等については大田区サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
田園調布せせらぎ公園は東急東横線、東急多摩川線の多摩川駅が至近だ。と言うより、駅前に位置していると言った方が正しい。駅の改札から南へ出れば、目の前が田園調布せせらぎ公園だ。

来園者用の駐車場が20台分用意されているということだが、駐車場入口の場所がわかりづらく、周辺の道路も狭く入り組んでいる。土地勘の無い人は車での来園は避けた方が無難だろう。公園から東や南に数百メートル離れれば民間駐車場が点在するようだが、小規模のものがほとんどのようだ。

飲食
公園にはレストランや売店は設けられていない。多摩川駅近くには飲食店があるが、数は少ない。南に数百メートル離れた中原街道まで行けばファミリーレストランなども建っているようだ。

緑に溢れた静かな公園だからお弁当を持参してのアウトドアランチもお勧めだ。多摩川駅にコンビニエンスストアがあるから利用してもいい。公園内、駅近くに設けられた集会室が休憩所を兼ねており、そこにはドリンク類の自動販売機が置かれている。公園東側の広場脇にもドリンク類の自動販売機が置かれている。

周辺
田園調布せせらぎ公園と東急の線路を挟んだ西側には多摩川河岸の丘陵地に多摩川台公園がある。園内には古墳が残され、また桜や紫陽花の名所としても知られている。その南側には浅間神社が鎮座している。中原街道を渡って南へ進めば旧六郷用水に沿った散策路が延びている。散策の足を延ばしてみるのもお勧めだ。町歩きの好きな人なら田園調布から自由が丘へと歩いてみるのもいい。
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