佳景探訪
本郷給水所公苑
東京都文京区本郷に本郷給水所公苑という施設がある。東京都水道局の本郷給水所の上部に造られた庭園で、バラ園などが設けられている。バラの季節の五月下旬、本郷給水所公苑を訪ねた。



本郷給水所公苑
本郷給水所公苑は東京都水道局本郷給水所の施設上部に人工地盤を設けて造られている。ほぼ長方形をした敷地で、和風庭園と洋風庭園から構成され、和風庭園の脇には神田上水の遺構が復元されている。周辺はビルの建ち並ぶ市街地だが、公苑内は木々が茂り、小川が流れ、穏やかな空間を成している。その緑濃い佇まいは人工地盤の上に造られていることを忘れてしまうほどだ。


本郷給水所公苑/和風庭園

本郷給水所公苑/洋風庭園
本郷給水所公苑南側の三分の二ほどを占めるのは和風庭園だ。緩やかに曲がりながら流れる小川が造られ、池があり、木々が茂り、四阿が設けられ、木々を縫うように散策路が辿る。一角には“沼”も造られており、その“沼”を上部から見学できるように木道も設けられている。木々に包まれて“沼”を覗き込んでいると、市街地の中の人工地盤の上に造られた施設であることを忘れ、武蔵野の田園地帯に迷い込んでしまったかのような錯覚さえ覚える。


本郷給水所公苑/洋風庭園

本郷給水所公苑/洋風庭園

本郷給水所公苑/洋風庭園
本郷給水所公苑北側は洋風庭園だ。シンメトリックな幾何学的デザインで造られたフランス式庭園で、南北にパーゴラが設けられ、花壇にはバラが植えられている。洋風庭園には高い木々が植栽されていないため、周辺の建物が視界に入ってしまうが、明るく開放感があるのはいい。パーゴラの下のベンチでのんびりとくつろいでいるのは近所の人だろうか。バラを目当てにか、散策を楽しむ人の姿もあった。

洋風庭園の西側の一角には滑り台やブランコ、砂場などを設けてあり、近所に暮らす子どもたちの遊び場としての役割も果たしている。遊具脇には藤棚もあり、花期には美しい姿を見せてくれることだろう。

今回訪れたのはバラの花の季節、花壇やパーゴラで美しくバラが咲き誇っている。バラは320株、44種が植えられているという。「バラ園」としての規模は決して大きなものではないが、白いパーゴラに絡むバラや随所に置かれた野外彫刻作品とともに眺めるバラの花は美しく、苑内は端正に整えられており、散策は楽しい。“バラの名所”としてお勧めできるほどではないが、東京都内の「バラ園」のひとつとして、バラの好きな人なら訪れてみる価値はあるだろう。


本郷給水所公苑内の野外彫刻「カルメン」本郷給水所公苑内の野外彫刻「母子像」

本郷給水所公苑内の野外彫刻「道標・鳩」
本郷給水所公苑内には種々の野外彫刻作品が展示されている。特に洋風庭園の方は彫刻作品が修景としての役割を果たし、なかなか良い興趣がある。バラ園の中心に印象的に立つ彫刻には「カルメン」の名がある。「カルメン」の西側には「地球儀」、遊具のある広場脇には「母子像」が置かれている。好きな人ならひとつひとつを丹念に見てゆくのも楽しいだろう。

和風庭園には随所に鳩の彫刻が印象的に置かれている。案内図には「道標 鳩」と記されている。これは昭和期から平成期にかけて活動した彫刻家、柳原義達の作品だ。柳原義達は1910年(明治43年)、神戸に生まれ、1936年(昭和11年)に東京美術学校(後の東京芸術大学)彫刻科を卒業、その後朝倉文夫に師事し、数々の賞を受賞、近代日本に於ける代表的彫刻家のひとりとされる。この「道標 鳩」は柳原義達の代表作のひとつで、日本各地に設置されている。本郷給水所公苑に設置されたのは1990年(平成2年)、柳原義達が80歳のときだったようだ。柳原義達は2004年(平成16年)、94歳で亡くなっている。


本郷給水所公苑/神田上水遺構復元施設

水道歴史館横の舗道のオブジェ水道歴史館横の舗道のオブジェ
和風庭園の東側の一角に「神田上水遺構復元施設」が設けられている。江戸時代に造られた「神田上水」の遺構の一部を復元、展示しているもので、本郷給水所公苑の施設というより、隣接する東京都水道歴史館の屋外展示施設という位置づけのようだ。神田上水は玉川上水が完成する以前の江戸時代初期、江戸の町の暮らしを支えた上水だ。先人たちの暮らしに想いを馳せつつ、訪れたときには見学しておきたい。

本郷給水所公苑の東側には東京都水道歴史館が隣接しているから、興味のある人は併せて見学していくといい。この水道歴史館の横の道路の舗道脇に、水道の歴史のひとこまを描いた絵がタイルになってオブジェのようにいくつか設けられている。「江戸の長屋の台所」や「江戸の水売り」、「江戸の上水井戸」など、なかなか面白い。これも見ておきたい。




本郷給水所公苑

本郷給水所公苑
本郷給水所公苑は水道局の施設の上に人工地盤を設けて造られているが、苑内ではそれを殊更に意識することもない。人工地盤の上とは思えないほどに木々が茂り、小川や池も造られた苑内は立地の特殊性を忘れさせてくれる。周辺の建物を眺めてみたときにだけ、地面より少し高みに立っているという事実に気付く。それが少しおもしろい。

決して規模の大きな施設ではないが、市街地の中にあって緑濃く穏やかな空気感を湛えた苑内はなかなか魅力的で、近くに暮らす人たち、近くに勤める人たちにとって素敵な憩いの場であることだろう。バラの花の好きな人なら、バラの花期を選んで訪ねてみるといい。
参考情報
本郷給水所公苑は夜間は閉鎖される。また年末年始は休苑となるようだ。詳細は文京区サイトの本郷給水所公苑ページ(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通

本郷給水所公苑は文京区本郷二丁目、順天堂大学本郷キャンパスの北側に位置している。JR中央線・総武線の「御茶ノ水駅」や「水道橋駅」、東京メトロ丸ノ内線の「御茶ノ水駅」や「本郷三丁目駅」、都営地下鉄三田線の「水道橋駅」などが近く、いずれも徒歩で7、8分といったところだ。公苑は大きな通りから少し入り込んだところにある。駅前に設置された地図などで確認しておくとよい。

公苑には駐車場はない。周辺には時間貸し駐車場も点在するが、公苑の近くにはあまり無いようだ。車での来訪はあまりお勧めしない。

飲食

平日のお昼時には近隣に勤める人たちが公苑のベンチでランチタイムを過ごす様子も見られる。それを真似てみるのも悪くない。周辺は都内のビル街だが公苑内は意外にのんびりとしており、アウトドアランチも充分に楽しめる。

公苑のすぐ近くにはあまりお店などはないが、大きな通りへ出て、さらに駅近くに行けばさまざまな飲食店がある。

周辺

本郷給水所公苑は東京都水道局の本郷給水所の上部に造られているが、本郷給水所は「東京都水道歴史館」を併設しており、その名が示すように東京都の水道の歴史に関する各種資料が展示されている。併せて見学していくといい。今回訪れたときにはちょうど改装中(2009年6月1日にリニューアルオープンしている)で、見学すできなかったのが残念だった。

本郷給水所公苑から東へ、御茶ノ水駅近くまで行くと湯島聖堂神田明神が近い。西へ辿れば東京ドーム、小石川後楽園だ。北へ、本郷四丁目から五丁目へと足を延ばせば樋口一葉旧居跡などのある古い佇まいの町並みがある。その東側には東京大学キャンパスが広がっている。周辺の散策も併せて楽しむのがお勧めだ。
本郷給水所公苑

本郷給水所公苑

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