佳景探訪
東京都庭園美術館
東京都港区白金台の東京都庭園美術館は1933年(昭和8年) に朝香宮邸として建てられた建物を美術館としたものだ。建物の前には庭園が広がり、美術鑑賞と共に庭園散策も楽しむこともできる。秋晴れの十一月初め、東京都庭園美術館を訪ねた。



東京都庭園美術館

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朝香宮(あさかのみや)家は久邇宮朝彦(くにのみやあさひこ)親王の第八王子、鳩彦(やすひこ)王が1906年(明治39年)に創設された宮家だ。「朝香」の名は明治天皇から賜ったものという。鳩彦王は1887年(明治20年)生まれ、1910年(明治43年)には明治天皇第八皇女允子(のぶこ)内親王と結婚、1922年(大正11年)から1925年(大正14年)までフランスで過ごされている。白金台の新邸竣工後はこの地に住まわれたが、戦後の1947年(昭和22年)、皇籍を離脱、住居を熱海に移し、好きなゴルフを楽しみつつ晩年の日々を送られたという。1981年(昭和56年)、94歳で逝去されている。

東京都庭園美術館の建物は、その朝香宮家本邸として1933年(昭和8年)に建てられたものだ。宮内省内匠寮工務課による設計だが、フランス人デザイナー、アンリ・ラパンが内装を担当、アール・デコ様式の名建築として知られている。朝香宮がフランスに滞在されていた頃はアール・デコの最盛期で、1925年(大正14年)にパリで開催された現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ博覧会、「アール・デコ」という名称は「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」の略称から生まれたものだ)を朝香宮もご覧になり、大いに感銘を受けられたという。白金台に新邸を建てる際、アンリ・ラパンに協力を依頼されたのは朝香宮ご自身だったというから、朝香宮ご夫妻のアール・デコへの熱意がよくわかる。

建物の外観は直線を基調とした幾何学的な意匠で、いかにもアール・デコ様式を思わせるものだが、細部にさまざまな工夫が施され、アール・デコ本来の大衆性の中に宮家邸に相応しい格調高さを醸し出している。アンリ・ラパンが手掛けた内装も見応え充分で、細部まで丁寧に見て行くのが楽しい。また正面玄関のガラスレリーフの扉や大客室と大食堂のシャンデリアなどはルネ・ラリックが制作したものといい、これもぜひ見ておきたい。

館内を見ることができるのは基本的に展覧会開催時だ(展覧会開催時以外に建物だけを公開する日も不定期に設けられるらしい)。展覧会開催時には館内に美術品が展示されているわけだが、それらとともに建物の内装もじっくりと鑑賞してゆくのがお薦めだ。


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庭園は「芝生広場」、「日本庭園」、「西洋庭園」の三つから構成された形だ。木々に包まれた庭園は緑濃く、目黒駅の近くでありながら街の喧噪を隔てて静かな佇まいを見せるのが嬉しい。園内にはさまざまな樹木が植栽され、春の桜や秋の紅葉以外にも季節毎の花々が楽しめる。
東京都庭園美術館

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「芝生広場」は旧朝香宮邸の建物のすぐ南側に位置し、広場から建物を見ることができるのがいい。広場には散策を楽しむ人に交じってシートを広げてくつろぐ人の姿もあり、それぞれにゆったりとした時間を過ごしている様子だ。

また広場には安田侃(やすだかん)制作(2000年)の「風」をはじめ、ウォルター・ロータン(Walter Rotan)制作(1939年)の「キリン(Giraffe)」、オシップ・ザッキン(Ossip Zadkine)制作(1963年)の「住まい(La Demeure)」など、野外彫刻作品が展示されている。訪れた際にはこれらの彫刻作品も見ておきたい。
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「日本庭園」は中心に池を配し、その周囲を散策路が巡る。池には鯉が泳ぎ、小さな橋が架かる。小規模ながらいわゆる回遊式庭園として造られており、散策路を辿ればさまざまに表情を変える庭園の美しさを楽しむことができる。北側の岸辺には1938年(昭和13年)に建てられたという茶室「光華」があり、木々に包まれて良い風情を醸している。

池の周囲には種々の木々が植栽されており、梅や楓、百日紅、馬酔木、金木犀といった木々が季節毎に庭園に彩りを添えてくれる。特に楓の木は多く、秋の紅葉などは特に美しいに違いない。
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「西洋庭園」は基本的に木々に囲まれた広場だ。「西洋庭園」として多く思い浮かべる幾何学的デザインの庭園ではない。規模は小さく園内に起伏もないが、考え方としてはイギリス式風景庭園に近いのだろう。庭園の広場は通路と木々によって東西のふたつに分かれ、東側の広場の脇にはバラ花壇も設置されている。西洋庭園ながら桜の木が多く、春には美しい景観を見せてくれることだろう。

庭園内にはアウトドアテーブルが置かれており、空いていれば自由に利用することができるようだ。このテーブルを利用したり、あるいはシートを広げて、のんびりとランチタイムのひとときを過ごす人たちの姿も多い。すぐ横を目黒通りが通っているとは思えないほどに穏やかな空間を成しており、まさに“都会のオアシス”といった雰囲気だ。“庭園”というより有料の公園といったふうで、気軽に使えるのが嬉しい。


東京都庭園美術館

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旧朝香宮邸は1947年(昭和22年)に朝香宮一家が去られた後、一時期外務大臣公邸として使われ、その後は西武鉄道の管理下で国賓の迎賓館として使われたという。1981年(昭和56年)に東京都が買収、1983年(昭和58年)から都立の「東京都庭園美術館」として使われている。

東京都庭園美術館は美術館として使われている旧朝香宮邸の建物そのものが鑑賞の対象となる美術品と言えるだろう。訪れた時はぜひ入館し、アンリ・ラパンが担当したという内装やルネ・ラリックによるシャンデリアなどを見ておきたい。

旧朝香宮邸と企画展示の美術品を鑑賞した後は、日本庭園を散策し、西洋庭園でのんびりとランチタイムを楽しむのがお薦めだ。あるいは入口横に設けられたカフェレストランでティータイムを過ごすのもいい。贅沢な気分でゆったりとしたひとときを過ごせるだろう。
参考情報
本欄の内容は東京都庭園美術館関連ページ共通です
東京都庭園美術館はもちろん入場料が必要だ。美術館への入館料は展覧会によって異なる。庭園のみの入場にも料金が必要だ。美術館の入館料には庭園入場料が含まれている。展覧会準備期間中は入館できないことがあり、また展覧会開催日以外に建物公開日が不定期に設けられるようだ。料金や開園時間など、詳細については東京都庭園美術館公式サイト(「関連するウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通

東京都庭園美術館はJR山手線目黒駅、東急目黒線目黒駅から至近で、徒歩で数分といったところだ。駅から目黒通りを東へ歩き、首都高速2号目黒線をくぐると庭園美術館だ。都営地下鉄三田線白金台駅、東京メトロ南北線白金台駅からも近く、こちらは目黒通りを西へ歩いてやはり徒歩で数分だ。都心ということもあり、電車での来訪が便利だ。

庭園美術館にも有料で駐車場が用意されているようだが原則として3時間以上の駐車はできないとのことだ。目黒駅周辺や目黒通り沿いに民間の時間貸し駐車場が点在しており、車で来訪する際にはそれらを利用するのも良いだろう。

飲食

庭園内での飲食は可能(アルコール類の持ち込みは禁止)とのことで、「芝生広場」や「西洋庭園」の広場ではシートを広げてランチタイムを楽しむ人の姿があった。「西洋庭園」の広場にはアウトドアテーブルが用意されており、空いていればこれも利用できる。木々に囲まれた庭園内でのアウトドアランチは素敵なひとときだろう。

庭園美術館の入口横には「cafe 茶洒 kanetanaka」というカフェレストランがある。軽食も可能だが、お茶や甘味がメインのお店のようで、美術館鑑賞の後のティータイムにお勧めだ。このカフェレストランは有料区域の“外”なので、その旨、留意されたい。

庭園美術館を出れば目黒駅周辺に飲食店も多く、食事には困らない。また庭園美術館前から目黒通りを200mほど東へ進み、「白金台」交差点から北へ延びる「外苑西通り」へ歩を進めれば様々な飲食店が点在している。自分好みのおしゃれなお店を探してみるのも楽しい。

周辺

東京都庭園美術館の北東側には国立科学博物館附属自然教育園が広がっている。庭園美術館の入口から目黒通りを少し東へ進めば自然教育園の入口が設けられている。園内には都心とは思えないほどの自然が残されている。併せて散策を楽しむのがお薦めだ。

目黒通りの「白金台」交差点から北へ延びる「外苑西通り」は美しいイチョウ並木だ。新緑の頃や黄葉の時期の散策が楽しいに違いない。
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