東京都青梅市、青梅駅の南方、多摩川の右岸に「釜の淵公園」という公園がある。大きく蛇行する多摩川の岸辺に造られた公園で、夏は川遊びの人たちで賑わう。夏の盛りの七月下旬、釜の淵公園を訪ねた。
釜の淵公園の河原で川遊びやバーベキューを楽しむ際には、しっかりとマナーを守ろう。

●ゴミは持ち帰る
釜の淵公園にはゴミ箱が設置されていない。ゴミは持ち帰りが原則。持ち込んだ物はすべて持ち帰ろう。

●直火は禁止
地面の上で直接火を焚くのは禁止だ。バーベキューや焚き火を楽しむ際にはコンロや焚き火台などの器具を持参しよう。余った炭などもすべて持ち帰ろう。

マナー違反行為は地元の方々に多大なご迷惑をかける。放置されたゴミを拾い集め片付けるのは、地元のボランティアの方々だ。来たときより綺麗にして帰ることを心がけて利用しよう。
釜の淵公園
釜の淵公園
釜の淵公園
青梅市街中心部の南方、多摩川が大きく北側に蛇行するところがある。半円を描くように蛇行する形状は地図で見るとギリシャ文字のオメガ(Ω)を思わせる。多摩川の流れが岩盤に阻まれて蛇行を余儀なくされ、このような形になったものという。その蛇行する多摩川の描く半円の内側に当たる右岸側が、青梅市立の公園として整備されている。「釜の淵公園」という。

川の流れが岩盤にぶつかって流れの向きを変えるとき、渦巻く流れによって川底が深く抉られ、いわゆる“淵”を形作る。ここでは「Ω」の文字の左下部分、市営プールの対岸に当たる部分に“淵”が生じ、この淵を昔から人々は“釜ヶ淵”と呼んだという。まるで“釜”を思わせるような、丸く深い淵だったということだろう。今の多摩川は昔ほどの水量はないが、かつて人々が“釜ヶ淵”と呼んだ淵は今も深く河岸の崖を抉っている。

その「釜ヶ淵」を冠して「釜の淵公園」と名付けられたのだろう。1967年(昭和42年)に開園したものという。公園の中心部は蛇行する多摩川に囲まれた右岸部分だが、西側対岸の市民プールや市民館なども公園の一部のようだ。中心部分を成す右岸側は雑木林や広場などから成り、東側の河岸には青梅市郷土博物館や国指定重要文化財である「旧宮崎家住宅」などが建っている。
追記 多摩川左岸部に設けられた市営プール「釜の淵公園水泳場」は平成23年度(2011年度)から休場している。
釜の淵公園
釜の淵公園
釜の淵公園
釜の淵公園を象徴し、そして最も魅力的なものは、多摩川の流れとその岸辺の河原だと言っていい。特に北側から東側にかけての河原は初夏から夏にかけて川遊びの人たちで賑わうところだ。河原は広く、小さな中州もあり、川の中ほどには島のように大岩が浮かび、小さな子どものいる家族連れや若者のグループなど、それぞれに川遊びを楽しんでいる。ほとんどの人たちはバーベキューをしながらここで半日を過ごしているようだ。河原の対岸、すなわち多摩川左岸は崖になっており、崖上に木々が茂り、それを背景に見る多摩川の流れは景観としても美しく、川遊びを楽しむ人たちの姿もまた“夏”という季節を感じさせて見ているだけで楽しい。岸辺の木陰に腰を下ろし、のんびりと多摩川の流れを眺めていると日常の喧噪を忘れて時の経つのを忘れる。

河岸に沿った遊歩道も整備されており、桜並木の遊歩道は春の花見の名所としても知られている。広場は小さなものだがカツラやメタセコイアなどの樹木が枝を広げ、のんびりとした空間を成している。広場の西側は樹林地で、林の中を遊歩道が辿っている。“釜の淵”の上辺りは当然のことながら崖上の高所となっており、散策路を辿って崖上に行くことができる。崖の際に展望所のように造られた部分があるが、危険防止のためか、立ち入り禁止になっていた。それでも崖上からの眺めを堪能することはでき、なかなか迫力のある景色が楽しめる。多摩川の流れを眺めながらのんびりと園内を散策するのも楽しいひとときだ。
釜の淵公園
釜の淵公園
公園西側には柳淵(りゅうえん)橋が架かり、市民プールなどのある西側対岸へ繋いでいる。柳淵橋の上流側左岸、市民プール横の河原にも川遊びを楽しむ人たちの姿がある。この辺りの河原は昔から川遊びの場所として地域の人々に親しまれていたという。目の前には“釜の淵”と、岩肌を露出した崖が迫り、その上は木々が茂って緑濃く、それを青い夏空が覆っている。美しい景色だ。

柳淵橋の上流側、右岸の崖下では多摩川の流れが速くなっている。ここで、カヌーを操る人たちのグループがあった。一人ずつ急流に乗って下り、緩やかな流れの部分で上流側へと戻ってくるのを何度も繰り返している。こうしたものにあまり詳しくはないが、見ていると興味深く面白い。
釜の淵公園
釜の淵公園
釜の淵公園
公園東側では鮎美(あゆみ)橋が多摩川を跨ぎ、公園と対岸の住宅地を繋いでいる。美しい名の橋だが、橋そのものの姿も美しい。そしてまた鮎美橋から見る多摩川の姿もたいへんに美しい。特に上流側に目を向けると左岸側の崖とその上に茂る木々の緑、右岸側の河原とそこで川遊びを楽しむ人たちの姿が一望でき、その中を大きな弧を描いて流れてゆく多摩川の姿はなかなか見事な景観だ。

鮎美橋下流側では両岸に河原が広がっているが、そこでは鮎釣りの人たちの姿がある。その中に菅笠(すげがさ)を被った人の姿があった。膝上の深さまで川に入り、釣り竿を構えるその姿がなんとも良い風情だ。

鮎美橋から少し南には「旧宮崎家住宅」が移築されている。住宅の周囲も古い時代の山里の農家を彷彿とさせる造りになっている。「旧宮崎家住宅」に隣接して南側には青梅市郷土博物館が建っている。興味のある人は見学していくといい。
旧宮崎家住宅
釜の淵公園内に建つ「旧宮崎家住宅」は国の重要文化財の指定を受けている。もちろん移築されたもので、本来は青梅市街の北方の山間、かつての北小曾木村、現在の青梅市成木八丁目辺りにあったものという。1977年(昭和52年)に元々の持ち主だった宮崎氏から青梅市に寄贈され、1979年(昭和54年)に現在地に移築復元されたものだ。建てられたのは19世紀初頭の頃だろうという。建物は当時の一般的な農家の造りで、囲炉裏と広間が一体化した“広間型”と呼ばれる構造が特徴的なのだそうだ。

「旧宮崎家住宅」は自由に見学することができる。訪れたとき、管理を任されているらしい、高齢の女性に迎えていただいた。少し話を伺うことができた。「もともとは青梅駅から北に山ふたつほど越えたところに建っていたんですよ」と教えていただいた。建物の中には民具類が展示され、囲炉裏には火が入れられ、往時の暮らしを想像させてくれる。庭先に佇むお地蔵様も良い風情だ。少し薄暗い古民家の中で古い時代の農家の暮らしに思いを馳せるのも楽しいひとときだ。
旧宮崎家住宅
旧宮崎家住宅
釜の淵公園
釜の淵公園
釜の淵公園は、夏の川遊びや涼を求めての散策が最も魅力的だが、春は桜の名所としても知られる。「旧宮崎家住宅」の周辺には紫陽花やモミジも植栽されている。初秋には彼岸花も見ることができるようだ。初夏の新緑や晩秋の紅葉ももちろん美しいに違いない。四季折々にその表情を見てみたい公園だ。
参考情報
本欄の内容は釜の淵公園関連ページ共通です
夏の釜の淵公園は川遊びの人たちで賑わい、泳いでいる人も少なくないが、公園にはシャワーや更衣室などの設備は無い。相応の準備をして出かけよう。

交通
釜の淵公園はJR青梅線青梅駅から徒歩で20分ほどだろうか。公園は多摩川の右岸側だから、青梅市街地からは橋を渡らなくてはならない。公園の東側に「鮎美橋」、西側には「柳淵橋」が架かっている。どちらも主要道から脇道に入り込まなくてはならないので初めて訪れる人には少しばかりわかりにくいかもしれない。

車で来訪する場合には多摩川南側を通る国道414号(吉野街道)から「かんぽの宿青梅」を目指して多摩川側に入り込んでゆくと、「かんぽの宿青梅」の奥に公園用駐車場が設けられている。無料駐車場だが駐車スペースが数台分と少なく、休日などには満車状態が続く。青梅市街側からなら、釜の淵公園の西側、多摩川の左岸に有料駐車場が設けられている。こちらもそれほど大きな駐車場ではないが、「かんぽの宿青梅」横の駐車場より余裕がある。すぐ横が柳淵橋だから公園に向かうのも便利だ。あるいは青梅駅周辺に点在する民間の有料駐車場を利用してもいい。

飲食
公園内には飲食店や売店などはない。のんびりとお昼時を公園で過ごすのならお弁当持参がいい。川風に吹かれながらのランチタイムはとても気分がいい。青梅駅周辺には飲食店が点在しているから、お弁当持参でない場合はそれらを利用するといい。

行楽シーズンになると河原でバーベキューを楽しむ人の姿も多い。ただし釜の淵公園の河原は「バーベキュー場」として整備されているわけではなく、用具の貸出や食材の販売はもちろん、バーベキュー用の設備なども一切無い。青梅市でも特に管理していないようで、要するに“禁止されてはいない”という程度のようだ。バーベキューを楽しむ人たちは皆、それぞれに用具と食材を持ち込んで楽しんでいる。釜の淵公園でバーベキューを楽しむときには用具や食材をすべて準備しておこう。「直火は禁止」ということになっているので、相応の器具が必要だ。そしてもちろんきちんと後始末を行うなど、マナーをしっかり守ろう。利用者のマナーが良くないと釜の淵公園でのバーベキューが禁止されてしまうかもしれない。

周辺
青梅駅周辺にはたいへんに見所が多い。駅前から青梅街道を西へ辿ると道脇には旧稲葉家住宅などが建ち、古い宿場町の雰囲気を堪能できる。また“青梅”の地名の由来となった梅の木があるという金剛寺など、寺社も多い。駅の東南側、住江町には「昭和レトロ商品博物館」や「赤塚不二夫会館」などがあり、町全体が“昭和レトロ”な佇まいで、散策は楽しい。青梅駅北側は丘陵地で、ハイキングコースも整備されているようだ。
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