佳景探訪
青梅/映画看板のある町
東京都青梅市、青梅駅の南東側に古い映画看板で飾られた町並みがある。歴史ある町並みと古い時代の映画看板が“昭和レトロ”な雰囲気を醸しだし、そうした風景を楽しみに訪れる人も少なくない。“昭和レトロ”な青梅の町を訪ねた。
青梅の街路を飾っていた映画看板を描かれていた、看板絵師の久保板観氏は2018年(平成30年)2月、77歳で亡くなられた。これらの映画看板は数年ごとに“新作”に取り替えられ、色褪せたものの修復なども行われてきたが、久保板観氏が亡くなられて継続が困難になった。老朽化した看板の落下などの懸念もあり、市は映画看板の撤去を決断、2018年(平成30年)秋、すべての映画看板が撤去された。本頁は青梅の住江町商店街が映画看板に彩られていた頃の記録として、このまま公開しておきたい。久保板観氏は亡くなる直前まで創作意欲を持ち続けていらっしゃったという。この場を借りて弔意を表しておきたい。



青梅/映画看板のある町

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青梅/映画看板のある町

青梅/映画看板のある町

青梅/映画看板のある町

青梅/映画看板のある町
JR青梅線青梅駅から南へ100メートルほど進むと旧青梅街道だ。駅周辺には店舗が建ち並んで繁華な佇まいを見せる。街道沿いには古い時代の名残を感じさせる建物が建ち並び、歴史ある町であることを物語る。駅前の交差点から街道を少し東へ辿ると住江町だ。街道沿いの建物に昭和30年代を彷彿とさせるような映画看板が数多く掲げられているのが否応なく目に入る。看板の題材に選ばれている映画は往年の名作と言われるものばかりだ。「ローマの休日」、「俺たちに明日はない」、「ヘッドライト」といった洋画の名作、あるいは「丹下佐膳」、「少年探偵団」、「悲しき口笛」といった邦画の名作まで、昭和30年代頃のものを中心にさまざまな映画の看板がある。風情ある町並みと手描きの映画看板とが相俟って、何ともいえない“昭和レトロ”な雰囲気を醸し出している。この映画看板のある町並みはすっかり有名になり、“青梅宿映画看板街道”などとも呼ばれ、この風景を楽しみに訪れる人も少なくない。

青梅の町に、今は映画館はない。昭和40年代までは3館の映画館があったということだが、1973年(昭和48年)にはすべてが閉館してしまったという。今は映画館のない青梅の町に、往時の雰囲気を彷彿とさせる手描きの映画看板が数多く掲げられて“昭和”の香りを漂わせている。これらの映画看板はかつて青梅に映画館があったころに映画看板を手掛けていた看板絵師、久保板観氏自身の手によるものだ。1993年(平成5年)に開催された「青梅宿アートフェスティバル」で約20年ぶりに映画看板を手掛けたのがきっかけだったという。以来、町興しの一環として氏の描く映画看板が町を飾り続け、さらに明星大学青梅校の学生たちも手伝い、現在のような“映画看板街道”ができあがった。

こうした映画看板はかつては映画宣伝用の消耗品だったが、時を経て“アート”として再認識されるようになったということだろう。往時を知る人たちには懐かしく思えるものだが、若い世代の人たちには新鮮なアート作品に見えるのに違いない。忘れ去られそうになっていた手描きの映画看板を、久保板観氏が約20年ぶりに描いた頃、奇しくも“シネマコンプレックス”と呼ばれる新しい形態の映画館が日本に登場した。今の“シネコン”は全席指定席で、座席も広い。昔の映画館は暗い中で空席を探したり、人気のある映画では立ち見で鑑賞したりしたものだ。どちらがいいかと言われれば今の“シネコン”の方が遙かに快適だが、かつての映画館には何か熱気のようなものが渦巻いていたように思うのは、懐旧の想いによる錯覚だろうか。そんなことも思いながら、映画看板のある町並みを歩く。

歩いていると映画看板ばかりに目がいってしまうが、町並みの佇まいそのものに良い風情があって散策は楽しい。殊更に“昭和レトロ”な雰囲気を醸し出すように演出されているのは、“昭和レトロ”をキーワードに町興しが行われているからだろう。そうした“演出”にもあざとさがなく、“小技が効いている”ように思えるのがいい。奇妙な形のオブジェのような電話ボックスや木造のバス停なども素敵だ。街道沿いの一角には「昭和レトロ商品博物館」や「赤塚不二夫会館」、「昭和幻燈館」などが建っている。立ち寄ってみるのも楽しい。「昭和レトロ商品博物館」の向かい側から北に「キネマ通り」という名の細い道が北へ延びている。この通りの佇まいもいい。住江町バス停の横手には八坂神社があり、訪れたとき、ちょうど例祭が執り行われており、子どもたちの御神輿が町を練り歩くなどして賑わっていた。展示された数多くの映画看板を鑑賞しながら、町の佇まいそのものを楽しみながらの散策がお勧めだ。

「昭和レトロ商品博物館」は、昭和の生活を彩った様々な商品のパッケージを収集展示したものだ。“昭和B級文化研究家”の串間努氏の収集品を軸に、1999年(平成11年)に開館、同氏が名誉館長を務めておられる。収集展示の対象となっている商品は日用雑貨から菓子、清涼飲料、薬、文具など、生活の場面では消耗品として消費されてきたものばかりだ。展示品のほとんどは串間氏の収集品のようだが、他の方の所蔵品もあるようだ。かつて生活の場に確かに在り、やがて知らぬ間に姿を消していった商品たち、それらがまるで宝物のようにガラスケースの中に並ぶ。当時を知る人たちにとっては過ぎた時代への郷愁の拠り所としての、まさに“宝物”であるかもしれない。

「昭和レトロ商品博物館」の2階は「雪おんなの部屋」というスペースになっている。この「雪おんな」は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の著書「怪談(Kwaidan)」の中に語られる「雪おんな」のことだ。“雪女”の伝説は日本各地に存在しているが、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が記した「雪おんな」は、その舞台が青梅であるという。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は序文にて「武蔵の国、西多摩郡、調布村の百姓が語ってくれた古い言い伝え」と記しており、「武蔵の国、西多摩郡、調布村」が、すなわち現在の青梅市中部の多摩川河畔の地域に相当するのだという。「雪おんなの部屋」では語り部による青梅弁の「雪おんな」を聴くこともできるらしい。興味のある人は聴いてみるといい。
昭和レトロ商品博物館

昭和レトロ商品博物館昭和レトロ商品博物館

昭和レトロ商品博物館

猫かいぐり公園

猫かいぐり公園

猫かいぐり公園
「キネマ通り」の中ほど、通りの東側に不思議な空間がある。「猫かいぐり公園」の名がある。「公園」なのか。ちょうど家一軒が建っていたほどのスペースが小公園のように整備され、そこにはさまざまな猫のオブジェが置かれている。“公園”を囲む板塀にもさまざまにポーズをとる猫がいる。ドカンを利用して作られたオブジェもある。トーテムポール風のオブジェもある。隅の一角には小さなテーブルと屋根が設けられ、「マネキネコ屋」の看板が掲げられている。どの猫も絵本の世界から抜け出てきたような猫だ。いったいここは何なのか。「公園」とあるが、確かに“公(おおやけ)”に解放されているようだけれども、公設のものなのか、私設のものなのか、さっぱりわからない。初めて訪れたときにはまったく絵本や童話の世界に迷い込んだような感覚さえあった。

後日調べてみると、どうやらこの近くに店舗を構える雑貨屋「ガチャ萬商會」が「猫かいぐり公園」の“仕掛け人”らしい。「ガチャ萬商會」は陶芸作品やアクセサリー、猫のぬいぐるみなど、さまざまな雑貨を扱っている。この「ガチャ萬商會」は青梅のアート発信基地としての役割も担っているようで、街道沿いにあった不思議な形の電話ボックスやバス停なども、「ガチャ萬商會」によるものらしい。「猫かいぐり公園」もその一環で、中に置かれた猫のオブジェは地元作家の作品のようだ。猫のオブジェは少しずつ増えているらしく、「猫かいぐり公園」そのものが日々変化しているようだ。「ガチャ萬商會」のお店も含めて、青梅散策の際には絶対のお立ち寄りスポットである。
追記 「猫かいぐり公園」はすでに無い。Googleストリートビューで確認すると、2017年5月現在、更地となっているようである。道路拡張の計画があるのかもしれない。

「キネマ通り」を北へ辿り、青梅線の線路を渡ると、橋の袂の線路脇に古そうな建物が建っている。「夏への扉」という名の喫茶店だ。「夏への扉」とは素敵な名だが、SFファンにはお馴染みの、ロバート・A・ハインラインが1957年に発表した小説「夏への扉(The Door into Summer)」に由来しているという。ご主人がSF好きであるらしい。

喫茶店「夏への扉」に使われている建物は、昭和初期には歯科医院として使われていたものらしい。“古い”と言ってしまえばそれまでだが、こうした建物が現役として使われていることになぜか妙に嬉しくなってしまう。通り沿いから見る建物の姿も良い風情だが、線路を隔てて南側から見る姿もいい。外観だけでなく、店内に入るとさらに楽しい。店内の様子、調度品の類まで、“昭和レトロ”な雰囲気でまとめられていて素敵だ。線路側の観音開きの木枠の窓も、ただそれだけで味わい深い。

「夏への扉」は、“昭和レトロ”な雰囲気を味わいに青梅を訪れる人たちの間ではすでに有名なお店のようだ。あくまで“喫茶店”なので食事メニューは豊富なわけではないが、野菜カレーの評判がいいらしい。青梅線の線路を見下ろす窓際の席に座り、のんびりと一休みのひとときを過ごすのはなかなか贅沢な時間の過ごし方のような気がする。ここもお勧めのお立ち寄りスポットである。
夏への扉

夏への扉

夏への扉

青梅/映画看板のある町

青梅/映画看板のある町
青梅の町では“昭和レトロ”をキーワードに町興しを図り(一説によると“昭和レトロ”という言葉を初めて使ったのは青梅の町であるらしい)、町そのものをギャラリーに見立てて演出を施し、訪れる人を懐かしい風景の中に誘う。“昭和”を知る人には懐かしく、知らない人には新鮮な味わいを与えてくれるものに違いない。細かな演出が施された町並みは一度訪れただけでは気付かない魅力も多く、最近ではリピーターも多いようだ。

「猫かいぐり公園」からもわかるように、青梅の町は「昭和の猫町」というテーマの町造りもなされており、散策しているとさまざまなところで猫のオブジェに出会う。それらの「猫」を探しながらの散策も楽しい。

“昭和”の風景に郷愁を感じる世代の人にも、あるいはレトロな味わいに新鮮な魅力を感じる若い人にも、青梅の町は魅力多い町と言えるだろう。毎年晩秋には「青梅宿アートフェスティバル」が開催されて賑わう。フェスティバルに合わせて訪れてみるのも一案かもしれない。
参考情報
交通

電車で来訪する場合はJR青梅線青梅駅を利用するのがいい。映画看板のある町並みは青梅駅南東側の住江町の辺りで、駅から歩いてすぐのところだ。駅舎そのものも“昭和レトロ”な意匠だから電車で訪れるのも楽しい。

車での来訪なら駅周辺に民間の駐車場が点在しているからそれらを利用するといい。駅周辺の駐車場の場所については「青梅市観光協会」サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)に掲載されているので参照されたい。駅周辺の道路は狭い一方通行が少なくないが、「青梅市観光協会」サイトに掲載されている案内マップに一方通行の情報も掲載されているから参考にするといい。

飲食

青梅駅周辺にさまざまな飲食店が点在している。それらのひとつを選んで食事や一休みのひとときを楽しむといい。2008年6月に訪れたときには「夏への扉」で食事をした。古い建物を利用したお店が何とも良い雰囲気で、素敵なひとときを過ごすことができた。

周辺

青梅駅周辺にはたいへんに見所が多い。駅前から青梅街道を西へ辿ると道脇には旧稲葉家住宅などが建ち、古い宿場町の雰囲気を堪能できる。また“青梅”の地名の由来となった梅の木があるという金剛寺など、寺社も多い。

駅前から南へ降りてゆくとすぐに多摩川で、河畔には青梅市立美術館が建つ。大きく蛇行する多摩川に囲まれた対岸は「釜の淵公園」で、春は桜、夏は川遊びなどで賑わう。公園の一角には郷土博物館も建っている。

青梅駅北側は丘陵地で、ハイキングコースも整備されているようだ。東方へ少し離れるが東青梅駅北方には花菖蒲が有名な「吹上しょうぶ公園」やツツジの名所として知られる「塩船観音寺」などがある。それぞれの花の季節なら足を延ばしてみるのもお勧めだ。
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