日南海岸風景
榎原
榎原
目井津の町を過ぎて海岸を離れた国道220号はやがて「榎原」という地区を抜ける。榎原は「えのきはら」ではなく、「よわら」と読む。国道220号とJR日南線は寄り添うように榎原地区の中を東西に走り、東は日南市街方面へ、西は串間市へと繋いでいる。現在の「榎原」は日南市南郷町西部を占める地区だが、もともとは榎原村として知られたところで、現在の日南市大窪地区なども含む広い範囲に広がっていた。榎原村は1956年(昭和31年)4月1日に日南市と南郷町に分村合併し、その両者も2009年(平成21年)3月30日、南那珂郡北郷町も加えた一市二町で合併、”新”日南市となった。旧南那珂郡南郷町時代から現在の”新”日南市南郷町になっても「榎原」の名は地区の名として残っているわけだが、昔を知る人々は今でもかつての「榎原村」のイメージで「榎原」の名を使う。
榎原
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榎原地区の中心は、すなわちかつての榎原村の中心は、JR日南線の榎原駅から榎原神社にかけての辺りだと言っていいだろう。南に入れば榎原駅という交差点の北側に大きな鳥居が建ち、榎原神社を指し示す標識があるのだが、それに従って北へ折れて緩やかに坂道を登ると、榎原中学校と榎原小学校が向かい合うところに出る。三叉路になっており、国道から登ってきた道が県道54号に合流する。県道54号は北へ山間を抜けると日南市萩之嶺の「仏坂」と呼ばれる地区へと抜け出る。その三叉路から西へ真っ直ぐに道が延び、道の最も奥まった部分に榎原神社の鳥居が建っている。要するに参道なのだろう。道の両脇には家々が建ち並んでいる。今では鄙びた田舎の集落といった佇まいだが、家々の密集する様子が周辺ののどかな田園風景とは少し違った風情を漂わせている。

榎原のこの辺りの集落は、かつて榎原神社の門前町としてかなり栄えていたのだという。戦後間もなくの頃まで、榎原神社は周辺の広い地域から参詣者が訪れ、門前町もなかなかの賑わいを見せた。あまり娯楽もなく、交通も便利ではなかった時代だったからか、榎原神社の例祭のときなどには大勢の参詣者が泊まりがけで訪れ、門前の旅館では祭りの間中、夜通し宴会が催されて賑わったものらしい。当時を知る人の話に依れば、それはもうたいへんな賑わいだったそうで、旅館の部屋はすべて満杯状態で、見知らぬ者同士が酒を酌み交わし、酔いが回れば座敷に雑魚寝で夜を過ごしたという。どこの誰が宿泊しているのか、おそらく旅館の方でも把握していなかったのではないかと、当時を知る人は言う。「(旅館は)銭をとっちょったっちゃろかい、とっちょらんかったっちゃねどかい(旅館は宿泊料を取っていたのだろうか、取っていなかったのではないだろうか)」と、当時を知る人たちは懐かしがる。いちいち宿泊料を徴収する余裕すらないほどに人々が溢れて賑わったものだそうである。
榎原 榎原
榎原
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榎原は山々の重なる自然溢れるところだ。その山々に抱かれるようにしてわずかな平地に集落が点在する。特に国道と日南線が寄り添う榎原川とその小さな支流の河畔には水田の広がるのどかな風景が広がっている。国道を車で行き過ぎるとなかなかそうした風景にも気づかないが、国道から脇道に逸れるとひっそりと静かな佇まいの集落に出会ったりする。観光目的で訪れた人には榎原神社の他にこれといってお勧めできるような「名所」はないが、緑濃い田園風景の中をのんびりと散策してみるのも楽しく、都会暮らしの人などには郷愁を誘われるような風情が魅力を感じさせるかもしれない。
榎原
INFORMATION
榎原
【所】日南市南郷町
【問】日南市観光協会
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ページ内の写真は2004年夏に撮影したものです。本文は2009年8月に改稿しました。