横浜線沿線散歩公園探訪
横浜市港北区菊名
菊名池公園
Visited in May 2011
菊名池公園
横浜市港北区の南東端近く、東急東横線妙蓮寺駅の北西側に「菊名池公園」という公園がある。JR横浜線と東急東横線に「菊名」という駅があるから、その“菊名”を冠する名の公園であれば「菊名駅」の近くなのかと思いがちだが、残念ながら「菊名駅」からは少しばかり距離があり、最寄り駅は妙蓮寺だ。現在の町名としての「菊名」は1980年(昭和55年)に新設されたもので、菊名駅を中心として南北に、ほぼ東急東横線の東側に広がる町だが、「菊名」という地名は古く、昔はもっと広い範囲が橘樹(たちばな)郡菊名村だった。その菊名村の池だったから“菊名池”なのだろう。
公園は南北に長く、中央部を東西に「水道道」が抜けるために、それによって南北に分断された形だ。水道道の南側部分はプールで、“公園”的佇まいを見せるのは北側の部分だ。水道道に面した部分には広場が設けられ、その北側に現在の“菊名池”が横たわっている。池は古い時代に農耕用の溜池として造られたものらしいが、かつてはもっと大きく、現在の公園のほぼ全範囲を池が占めていたようだ。現在の状態になったのは1960年代以降のことのようで、それ以前の“大きかった”菊名池には貸しボート屋などもあって行楽地として賑わっていたらしい。

菊名池公園の広場
広場は木立に囲まれ、脇には水路が流れ、交通量の多い道路に面していながらも静かな空気感を保っている印象だ。小さな子どもを連れた若いお母さんたちの姿が多く、普段はそうした近所の人たちの憩いの場としての役割を担っているのだろう。

広場の隅に「菊名池及びその周辺のうつりかわり」と題して二枚の地形図を載せた案内板が設置されている。二枚の地形図のひとつは1995年(平成7年)現在のもの、もう一枚は1928年(昭和3年)のものだ。1928年(昭和3年)の地形図を見ると、すでに横浜線の線路も東急線の線路も存在している(横浜線は1908年に「横浜鉄道」として開業したのが始まり、東急東横線は1926年に東京横浜電鉄が丸子多摩川駅(現在の多摩川駅)と神奈川駅の間で開業した)が、周辺はのどかな農村地帯だった様子が窺える。その地形図に、現在の菊名池公園とほぼ同じ形をした菊名池が描かれている。公園を分断する形で東西に抜ける水道道と東急線の線路の西側を南北に抜ける道路との交差点には「菊名橋交差点」の名があるのだが、かつては“菊名橋”が菊名池を跨いで水道道が通っていたらしく、現在もその土台部分が残っている。

菊名池
広場の北側には“現在の”菊名池が横たわっている。池の南側から東側、北側にかけて岸辺には散策路が整備されている。池は周囲を木々に囲まれており、駅近くの住宅街の中という立地だが、風景としてもなかなか良い風情を醸している。のんびりと池の辺を散策するのも楽しく、木陰に設置されたベンチに腰を降ろして一休みするのもいい。駅前でテイクアウトのランチを調達し、池を眺めながらのランチタイムを楽しむのもお薦めだ。池にはカワセミもよく飛来するというので、それを目当てに岸辺の散策路にカメラの三脚を構える人の姿も少なくないという。今回訪れたときも、そうした人の姿があったが、なかなかカワセミは現れないようだった。
菊名池公園プール
菊名池公園南側部分を占めるプールは子どもたちのためのもので、“流れるプール”や幼児用プールなどが設置されているようだ。プールはもちろん夏期のみの営業で、訪れたときは人の姿の無いプールが静かに夏を待っていた。シーズンオフのプールというものもそれなりに興趣のあるもので、プールの輪郭の描く造形や、プールを跨いで設置された赤い橋、プールの辺に植栽された柳の樹形などが織りなす“風景”が面白い。今は閑散としたプールも、暑い季節がやってくれば家族連れで大いに賑わうのだろう。その様子を想像しながら、誰もいないプールを眺めてみる。
菊名池弁財天
プールの南側の外縁部に菊名池弁財天を祀る祠がある。現在ではプールに押しやられるように道路沿いの狭い敷地に立つ弁財天だが、かつては大きな菊名池の辺に祀られていたのだろう。弁財天は水の神でもあり、農耕用の溜池などには必ず祀られていたものだ。そしてまた弁財天は芸能の神でもあり、通常は手に琵琶を持っておられる。しかし菊名池弁財天は琵琶ではなく、右手には剣を、左手には宝玉を持っておられるという。剣は魔除け、厄除け、宝珠は招福の意味があるらしい。この菊名池弁財天は新羽町西方寺の恵比寿様や大豆戸町正覚院の大黒様、日吉本町金蔵寺の寿老人などと共に「港北七福神」を成している。かつては港北七福神巡りもずいぶん盛んに行われていたようだ。
かつては大きかった菊名池も世相の移り変わりによって姿を変え、現在は半分以上をプール施設が占め、公園内に残された菊名池は昔に比べれば小さくなってしまった。しかし規模が小さくなったとしても、駅近くの住宅街の中に木々に囲まれて横たわる池の風情はたいへんに貴重で、素敵なものだ。地元の人たちにとっては素晴らしい憩いの場であることだろう。

妙蓮寺駅と菊名池公園との間には商店街があるが、この商店街の佇まいも楽しい。駅近くの店でテイクアウトのランチを買って公園でランチタイムを過ごすのも楽しい。あるいは商店街に軒を並べる飲食店のどれかを選んで食事を楽しむのも悪くない。菊名池公園そのものは行楽地的性格はほとんど無いと言っていいが、公園巡りが趣味の人や街歩きが趣味の人ならなかなか楽しめるに違いない。
菊名池公園