東京都府中市の都立府中の森公園は広場や樹林地、さらに各種運動場も設置した充実した公園だ。園内には日本庭園も設けられ、その一角には梅林がある。ようやく梅が見頃を迎えた三月初め、府中の森公園を訪ねた。
府中の森公園の南東側の角、公園南口から入ってすぐのところには日本庭園が設けられている。本格的に造園された庭園ではないが、小さいながらも池を置き、四阿なども設けて和風の空間が演出された一角となっている。その日本庭園には梅林があり、早春には美しい景観を見せてくれる。今年(2015年)は早春に寒さが続いて梅の開花は遅く、府中の森公園の梅林もようやく三月になって見頃を迎えたようだった。
府中の森公園の梅林には紅白の梅が植えられているが、どちらかと言えば白梅の方が多いように見える。早春の青空の下、日差しを浴びて咲く白梅は見事な美しさだ。その中に混じって咲く紅梅の鮮やかな色彩が風景にアクセントを添える。少し離れて“梅の咲く風景”を楽しむのもよく、梅林の中を歩きながら間近に梅の花を愛でるのも楽しい。咲き誇る梅の花もいいが、ほころびかけた蕾も興趣に富んでいる。梅の花はやはり咲き始める頃がもっとも美しいように思える。梅林の中を歩いていると、見る角度によって日差しの向きも変わり、梅林の表情もさまざまに変わって飽きない。
梅林の中を巡って堪能した後は園路脇に設けられたベンチや四阿に腰を下ろし、のんびりと梅を眺めながら時を過ごすのもお勧めだ。穏やかな日差しの下、春の訪れを実感しながら、ひととき日々の喧噪を忘れるのもよいものだ。
梅林北側の池では、池の中の小島に育つ松に「雪吊り」が施されていた。小さな松の木で、「雪吊り」もコンパクトなものだが、それがかえって可愛らしい印象で、その端正な円錐形が美しい。「雪吊り」の風景も初冬から早春にかけて日本庭園を演出する風物のひとつだろう。
梅林西側の池の周囲を巡ると、園路脇に馬酔木の花や開花を待つ木瓜の花なども見つけることができた。ほころびかけた木瓜の蕾の赤く丸い姿が可愛らしい。池にはマガモの姿がある。それほど珍しい鳥というわけではないが、その愛嬌のある姿を見ているのは楽しい。
日本庭園を離れ、公園を一巡りしてみると、ところどころで春の兆しに出会う。樹林地はまだ冬枯れの風景だが、園路脇には沈丁花やクロッカスの花を見つけることができる。そんな小さな発見を探しての公園散策も楽しい。
府中の森公園の梅林はそれほど規模の大きなものではなく、“観梅の名所”と呼ぶには少し物足りないが、気軽に訪れることのできる公園内で楽しめる梅林として充分に魅力的なものだと言っていい。早春の日、穏やかなひとときを過ごすことのできる、府中の森公園である。
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電車での来訪であれば京王線東府中駅が近く、駅から北方へ10分ほど歩けば公園に着く。JR中央線を使う場合は武蔵小金井駅からバス路線を利用しなくてはならない。
車で訪れる場合は国道20号の「東府中」交差点や「緑町二丁目」交差点から北へ入り込むのがわかりやすいだろう。遠方の人は中央自動車道の国立府中ICから国道20号を東進、あるいは調布ICから国道20号を西進すればいい。
駐車場は有料で100台分を越えるスペースが用意されているが、お花見の時期や行楽シーズンの休日には足りなくなりそうだ。駐車場入口は公園東側の「平和通り」に設けられている。
公園中央部、駐車場横のサービスセンター脇に売店があり、カレーや牛丼、ラーメン、焼きそば、うどん、エビピラフ、おでんなどといった軽食とドリンク類を販売しているので、簡単な食事には困らない。また公園北端部に建つ府中市美術館にもカフェが併設され、軽食やデザート類、ドリンクなどを扱っている。テラス席もあり、公園の木々を眺めながらのんびりと食事をすることもできる。公園南側に隣接する府中の森芸術劇場の中にもレストランがあるから、これを利用するのもいい。
木々の茂った公園だから、お弁当を持参して木陰にシートを広げてのランチタイムもお勧めだ。公園周辺は住宅街で、コンビニなども駅近くへ行かないとないようだ。お弁当やおにぎりを買って公園へ来ようというときには、途中で立ち寄っておいた方がいい。
公園の南側には府中の森芸術劇場が隣接し、北には府中市美術館が建っている。例えば芸術劇場での音楽や舞台の観賞のついでに時間に余裕を持って訪れ、美術館や公園内の彫刻作品を観賞しながらの散策を楽しむというのもなかなか素敵な時間の過ごし方であるかもしれない。
また公園北側から東へ辿れば新小金井街道の東側に浅間山公園がある。浅間山公園も東京都立の公園で、浅間神社の鎮座する丘を中心にした自然溢れる公園だ。併せて訪ねてみるといい。
府中の森公園(東京都公園協会)
府中市美術館
府中の森芸術劇場
府中の森公園
桜咲く府中の森公園
浅間山公園