佳景探訪
犬山城下町
愛知県犬山市には国宝に指定された犬山城天守閣が建っている。市街地には今も古い町並みが残り、城下町の風情を漂わせている。夏の暑さの残る九月初旬、犬山城下町を訪ねた。



犬山城下町

犬山城下町

犬山城下町

犬山城下町

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犬山城下町

犬山城下町

犬山城下町

犬山城下町

犬山城下町
犬山城は1537年(天文6年)、織田信長の叔父織田信康によって築城されたという。天守閣が築かれたのはいつのことか、はっきりとはわかっていないようだが、現存する形に整えられたのは江戸時代になって成瀬氏が城主となってからのことらしい。犬山城は犬山市街の北方、木曽川の辺の丘の上にあり、木曽川を背にした立地は「後堅固(うしろけんご)」の城と呼ばれるものだそうだ。犬山城は、その南に広がる城下町も堀で囲んで城郭の中に一体化させた「総構え(そうがまえ)」の城として築かれており、今も町の配置などから当時の「総構え」の名残を見つけることができる。

犬山城入口脇、針綱神社参道入口のある交差点から南へ辿ってゆくと、道沿いには犬山市文化資料館なども建っており、道路も現代的に整備されている。この付近は、往時は犬山城の「丸の内」の範囲だったようだ。「犬山藩校 敬道館跡」と題した案内パネルも道沿いに見つけることができる。「敬道館」は1840年(天保11年)に八代藩主成瀬正住が建てたものだそうだ。パネルには簡単な解説が記されている。興味のある人は目を通しておくといい。

「敬道館跡」の南側、通りの東側に「大手門いこいの広場」と名付けられた小公園がある。その名が示すように、かつてはこの辺りに城の大手門があったのだろう。この広場脇、通りに面して1740年(元文5年)に描かれたという絵図と2000年(平成12年)に撮影された航空写真を並べて「総構え」の特徴を説明したパネルが設置されている。現代の航空写真の中にかつての「総構え」の輪郭や町の配置が窺えて興味深い。城下町散策の際にはぜひ目を通しておきたい。

「大手門いこいの広場」前から数十メートル南へ辿ると信号機の設けられた交差点がある。この交差点から南へ、通り沿いの町並みの趣が変わる。この交差点の辺りがかつての丸の内と城下との境だったのだろう。交差点から南へ延びる通りは「本町通り」と呼ばれ、今は針綱神社参道入口交差点からの道の延長だが、往時は犬山城大手門から南へ真っ直ぐに城下町の中心を貫いて延びる道だった。通りに沿って「上」、「中」、「下」の「本町」が並び、城下を賑やかにするために呉服屋や酒屋などが集められたのだそうだ。要するに城下町のメインストリートだったわけだ。

「本町通り」には今も町屋や山車蔵などの古い建物が建ち並んで興趣に富んだ景観を見せており、観光地としての犬山城下町の中心を成すところだ。風情ある家並みの中、往時の城下町に賑わいを想像しながら歩くのはなかなか楽しい。土産物店などを覗いて犬山土産を探しながらの散策も良いものだし、古い建物を利用したカフェなどで一休みするのも楽しい。建ち並ぶ家々の中には有形文化財に指定された貴重な建築物も少なくないようで、そうしたものに興味のある人にはさらに見応えのあるものだろう。

「本町通り」を歩くだけでも充分に楽しいが、横に延びる道へ逸れてみても楽しい。城下町は縦横に抜ける路地によって区切られ、「上本町」、「中本町」、「下本町」の他、「練屋町」、「鍛冶屋町」、「魚屋町」、「寺内町」などといった名がある。町名の由来を記した案内板も随所に設置されており、それらを見てゆくのも楽しい。例えば「鍛冶屋町」は天正から慶長の頃(1573〜1615年)に職人街として発達したのだという。刀鍛冶や農鍛冶が三十数軒あり、そこから「鍛冶屋町」の名が起こったのだそうだ。あるいは「魚屋町」、江戸時代、木曽川を筏で下って犬山城下に着いた人々が魚の商いを始めたのが町の由来という。そして「寺内町」、その名から容易に推測できるが、寺院を集めた地域だ。城下町の東の外れに位置しているのは城下の防備上の意味もあり、また墓地のある寺院が町中に散在することが嫌われたために端に集められたという側面もあるらしい。

古い歴史を持つ犬山の城下町だが、もちろん町の全てが往時のままに残されているわけではない。気ままに城下町の中を歩いていると、いわゆる“昭和レトロ”な風景にも出会う。そうした風景もまた、この町が歩んできた歴史を窺わせて良い風情を漂わせている。犬山城築城から五百年近くの歴史を刻む犬山城下町、その歴史の名残を探しながらの散策がたいへんに楽しい。

今回(2012年9月)犬山を訪れたとき、“観光シーズン”から外れた時期で、さらに平日に訪れたこともあってか、犬山城下町に観光客の姿はほとんどなかった。“観光用の顔”ではない、日常の暮らしが静かに息づく犬山の町の佇まいが、とても魅力的だった。
旧磯部邸


犬山城下町/旧磯部邸

犬山城下町/旧磯部邸

犬山城下町/旧磯部邸

犬山城下町/旧磯部邸

犬山城下町/旧磯部邸

犬山城下町/旧磯部邸
「本町通り」沿いに「旧磯部邸」という建物がある。通りに面して建つ主屋は木造二階建て、幕末の慶応年間(1865〜1868年)に建てられたものという。よく見ると屋根が緩やかな曲線を描いて膨らみを持たせてある。これは「起り屋根(むくりやね)」と呼ばれるもので、犬山市内の町屋で唯一現存しているものだそうだ。磯部家は商家で、戦後は茶の販売を営んでいたらしいが、当初は呉服商だったという。

磯部邸の敷地は間口は三間半(約6.3m)、奥行きは八間(約14.4m)と、奥に細長い。江戸時代、商家は間口の広さで税金が決められていたからで、商人たちはこうした、いわゆる“うなぎの寝床”のような家を建てた。要するに今で言う“節税の知恵”だろう。

店の奥には中庭があり、さらにその奥には土蔵や奥座敷などが設けられている。土蔵、奥土蔵、物置は1875年(明治8年)に建てられたもの、奥座敷は大正期に建てられたものという。それぞれの建物は「旧磯部家住宅主屋」、「旧磯部家住宅土蔵」、「旧磯部家住宅奥土蔵」、「旧磯部家住宅奥座敷」、「旧磯部家住宅物置」として国の登録有形文化財に指定されている。

この「旧磯部邸」は内部も無料で自由に見学することができる。内部は江戸時代の建築様式で建てられた商家の様子がよく復元されており、当時の商人の仕事ぶりや暮らしぶりを偲ぶことができる。見学していると、今にも奥から「何かご用ですか」と店の人が出てくるのではないかと思えるほどだ。主屋や土蔵、奥座敷の佇まいや中庭の表情、建物内部の細かな造作など、じっくりと見てゆくと興味が尽きない。こうした建築物に興味のある人はもちろんだが、特に興味がなくても犬山城下町を訪れたときにはぜひ立ち寄り、内部まで見学してゆくのがお勧めだ。




木曽川河岸

木曽川河岸

木曽川河岸

木曽川河岸

木曽川河岸

木曽川河岸
犬山城と犬山城下町の散策を楽しんだ後は、「総構え」の外へ出て、木曽川の岸辺へ足を延ばすのもお勧めだ。犬山城入口から東へ下りて北へ向かえば木曽川の岸辺へ出る。犬山城の東側には名鉄犬山ホテルが建っており、その敷地内には「有楽苑」という日本庭園が整備され、その中に織田信長の実弟織田有楽斎が京都に建てた茶室「如庵」が移築保存されている。「如庵」も国宝に指定されている。興味のある人は見ておくといい。

名鉄犬山ホテル前から東へ、木曽川の岸辺には桜並木の遊歩道が整備されており、木曽川の流れを眺めながらのんびりと散策を楽しむことができる。随所にベンチも置かれ、腰を降ろして川風に吹かれながら一休みするのも悪くない。

名鉄犬山ホテル前から木曽川の河岸を500メートルほど東へ辿ると犬山橋が木曽川を跨いで県道27号線(春日井各務原線)を渡している。そのすぐ横では名鉄犬山線が木曽川を渡っている。今は二本の橋が並んで木曽川を渡っているが、かつては現在の名鉄犬山線の通る橋梁が一本だけで、これを電車と自動車と歩行者とが併用していた。橋はもちろん必要最小限の幅しかなく、上り下りの電車と車が、それこそギリギリのところを走っていたそうだ。それほど昔の話ではない。自動車と歩行者用の新しい橋が完成したのは2000年(平成12年)3月のことで、併用時代の写真や映像も数多く残っている。興味のある人はWEB上を探してみるといい。

今回訪れたのは2012年、すでに併用時代の名残を探すのも難しく、名鉄犬山線専用となった橋梁を見てみると「これを電車と自動車と歩行者が併用していたのか」と驚くばかりだ。橋は下路曲弦ワーレントラスと呼ばれる構造のもので、鉄骨を組んだアーチが三連に並ぶ様子がなかなか美しい。

新しい犬山橋は片側二車線の車道に広く取られた中央分離帯と歩道を備えている。“新”犬山橋の歩道を木曽川の中ほどまで進んで西を見ると、悠々と流れる木曽川の南岸に犬山城の姿が見える。犬山城は河岸の丘の上、こんもりと木々の茂った上に建っている。なかなか見事な景観である。犬山観光に訪れたときには、ぜひここから見る木曽川と犬山城の姿も楽しんでおきたい。

今回、名鉄犬山ホテルに宿泊したこともあって、朝食前の早朝に木曽川河岸の散策を楽しんだ。シーズンオフの平日の早朝、木曽川の辺には散歩する地元の人の姿がちらほらとあるくらいで、とても静かなひとときだった。犬山橋の袂には鵜飼い観覧船の発着所があるが、これも人の姿はなく、川の流れに舟が静かに揺れるばかりで、なかなか風情のある景観を見せていた。観光客で賑わう中に身を置くのも楽しいものだが、こうして日常の喧噪がやってくる前の時刻に観光地が見せる表情というのも良いものだ。早朝の木曽川、お勧めである。
参考情報
犬山城下町散策の際は、まず犬山城入口脇にある「犬山城前観光案内所」に立ち寄り、観光案内のリーフレットや町歩き用のイラストマップなどをもらっておくことをお勧めする。

交通

犬山市へは名古屋や岐阜から名鉄犬山線/各務原線を利用するといい。名鉄犬山駅から「本町」交差点まで数百メートル、徒歩で10分ほどか。名鉄犬山遊園駅からは少し距離があるが、木曽川河岸の散策を楽しみつつ城下町へと向かうのも悪くない。

名古屋方面から車で来訪する場合、国道41号線から県道27号線へと逸れて北上すればいい。岐阜方面から訪れる場合は国道21号線から県道27号線へと逸れて南下し、犬山橋を渡ると犬山市だ。

遠方から車で訪れる人は東名高速道路、名神高速道路の小牧ICから国道41号線へと降りて北上するといい。中央自動車道を利用して長野方面から訪れる場合には小牧東ICから県道16号線などを利用して犬山市街を目指してもいい。北陸方面から東海北陸自動車道を利用するなら、岐阜各務原ICから国道21号線を東進、鵜沼から県道27号線を南下すると近い。

駐車場は犬山城の南側に設けられた観光駐車場を利用すると便利だ。駐車台数にも比較的余裕がある。2012年9月に訪れたとき、駐車料金は一回500円だった。

飲食

名鉄犬山駅周辺を中心に市街地にはさまざまな飲食店が点在している。好みのお店を見つけて食事を楽しむといい。

周辺

犬山を訪れたなら国宝の犬山城は訪ねておきたい。また犬山城の東側に建つ名鉄犬山ホテルの敷地内には「有楽苑」という庭園が設けられ、これも国宝に指定された茶室「如庵」が移築されている。興味のある人は立ち寄っておくといい。犬山に宿泊する人は木曽川の鵜飼いも見ておきたいところだ。家族連れであれば名鉄犬山遊園駅の東側にある日本モンキーパークなどもいい。

犬山橋で木曽川を渡れば岐阜県各務原市、鵜沼は中山道の宿場だったところだ。鵜沼宿の面影を探しながらの町散策も楽しいに違いない。

市街地を離れて犬山市郊外まで足を延ばし、博物館明治村やリトルワールドなどを訪ねるのもいい。
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