神奈川県茅ヶ崎市の最北部、藤沢市との市境に沿って流れる小出川の河畔は彼岸花の群生地として知られる。彼岸花に彩られた初秋の田園風景が美しい。彼岸花が見頃の九月下旬、小出川を訪ねた。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
神奈川県茅ヶ崎市の最北部、藤沢市との市境に沿って小出川という川が流れている。藤沢市の遠藤地区から南へ流れ、大黒橋を過ぎて西寄りに流路を変え、そこからは藤沢市と茅ヶ崎市との市境に沿ってゆく。緩やかに曲がって再び南寄りに流れの向きが変わると右岸は寒川町、小出川が茅ヶ崎市と寒川町との境となっている。

右岸が寒川町となってすぐ、追出(おんだし)橋という橋が小出川を跨いでいる。大黒橋から追出橋までの約3kmほどの区間、小出川の河岸には彼岸花が群生し、9月の下旬になると見事な景観を見せる。その区間のほぼ中央部にもともと彼岸花が自生しており、それを活かしてさらに植生し、現在のような群生地となったものらしい。小出川の河畔は水田の広がる長閑な田園地帯で、その中に咲き誇る彼岸花は圧巻の美しさだ。「小出川彼岸花」として広く知られ、観賞に訪れる人もたいへんに多い。花の盛りの時期には「小出川彼岸花まつり」も開催されて賑わっている。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出川彼岸花
大黒橋の袂には「小出川彼岸花団体協議会」の名で「小出川彼岸花」と大きく記した横断幕が掲げられている。大黒橋近くの「刈込」バス停を利用してバスで訪れ、大黒橋から小出川散策へ出発する人たちの姿も多いようだ。家族連れ、女性のグループ、ご夫婦らしい年配の二人連れ、大きなカメラと三脚を抱えた男性等々、さまざまな人たちが小出川の彼岸花を目当てに訪れている。

大黒橋から下流側へ向かうと、しばらくは小出川の河畔は緩やかな傾斜の丘陵地に畑地の広がる長閑な風景だ。大黒橋の袂には道祖神も祀られており、道祖神の塚と彼岸花の組み合わせが風趣に富んだ姿を見せる。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出川そのものは大きな溝のような様相で、風情のある景観とは言い難いが、小出川と川沿いの道との間に彼岸花が並んで季節の色彩を添えてくれている。小出川は緩やかな曲線を描いて流れ、彼岸花の帯も優美な弧を描く。青く澄んだ秋空や背後に見える木々とのコントラストも美しい。彼岸花はほとんどが紅い花だが、ところどころに白い彼岸花も混じっている。道脇の畑地の隅にはコスモスが咲いているところもあり、初秋の景観にさらに彩りを添える。

途中、河岸の畑地を利用して無料休憩所が設けられていた。柿の林の畑に手作り感覚溢れる木製のベンチが並べられている。九月も下旬とは言え、まだまだ日差しは強く、木陰の休憩所が嬉しい。ベンチに腰を降ろして上を見上げると、柿の実がそろそろ色付き始めていた。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出橋を過ぎてさらに下流側へと辿ると、右岸は藤沢市遠藤地区から藤沢市打戻地区となる。打戻地区になると小出川の河畔が開け、水田が広がるようになる。水田には稲穂が黄金に実って刈り取りを待っている。秋空の下、日差しを浴びる稲穂と彼岸花が美しい初秋の風景を描く。

小出川沿いの道は堤防上の未舗装の小径だ。小径は狭く、人一人がようやく歩けるほどの幅しかない。そこを彼岸花観賞に訪れた人たちが行き交うので、すれ違いのときには場所を見つけて譲り合わなくてはならない。その小径の両脇に彼岸花が帯を描き、場所によっては小出川の両岸に4列の彼岸花の帯が延びる。澄んだ秋空の下、黄金の絨毯となった田圃を縫うように曲線を描く彼岸花の紅い帯が何とも美しい。美しく広がる田園風景の向こう、西には遠く大山のシルエットが見えている。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出川彼岸花
河畔の水田の中にはまさに稲刈り作業中の田圃もあった。稲刈りの作業の光景と彼岸花との取り合わせも、この季節を象徴する風景だろう。

小出川が緩やかに左へ曲がって、やがて新道橋、小出川左岸には茅ヶ崎里山公園が近い。茅ヶ崎里山公園にも少し立ち寄って行こう。公園内の谷戸に入り込むように残った民有地の農道脇にも彼岸花が紅い帯を成し、里山の風景を彩っている。

茅ヶ崎里山公園内の「里の家」は「小出川彼岸花まつり」の会場のひとつにもなっており、茅ヶ崎里山公園を拠点に小出川散策に足を延ばす人も少なくない。公園内では「小出川彼岸花まつり」に合わせてさまざまなイベントを行っているらしく、家族連れなどで賑わっているようだった。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出川彼岸花
新道橋からさらに小出川を下流側へと辿ろう。新道橋の下流側左岸、堤防脇が少し広くなっている。小出川の左岸側を平行して流れる用水路との間隔が広くなっているのだ。小出川と用水路とに挟まれた、そのスペースにも彼岸花が植栽されている。場所によっては疎らであったり、人が行き交うからか、中央部が空いていたりもするが、中には一面びっしりと彼岸花の咲き誇るところもある。見事な景観だ。

左岸側が広くなった区間は新道橋から700mほど真っ直ぐに続き、その後、正面に丘陵地の木立を見ながら小出川は大きく弧を描いて左に曲がり、南へと流路を変える。曲がった後は再び真っ直ぐに流れて行く。曲がってゆく辺りから河岸の彼岸花は少なくなるようだ。彼岸花は少なくなるが、左岸側には長閑な田園風景が広がり、黄金に輝く水田地帯の風景が美しい。さらに進めば右岸側は寒川町大蔵(おおぞう)地区、右岸側も水田地帯になり、青く澄み渡った秋空の下、広々とした視界の中で爽快な散策が楽しめる。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
左岸側では稲刈り作業中の田圃も多かった。その上を悠然と飛翔して行くダイサギの姿にも出会った。右岸側の田圃の畦道を、虫取り網と虫かごを持った二人連れが歩いている。おじいちゃんとお孫さんだろうか。そのような光景を楽しみながら歩いて行くと、やがて追出(おんだし)橋、追出橋は小出川を跨いで寒川町大蔵地区と茅ヶ崎市芹沢地区とを繋ぐ。「小出川彼岸花」の区間もこの辺りで終点だが、追出橋の南西側にある寒川町の青少年広場が「小出川彼岸花まつり」の会場のひとつになっている。追出橋からJR相模線寒川駅まで2.5kmほどだ。
小出川彼岸花
小出川彼岸花
小出川彼岸花
大黒橋から追出橋まで約3km、小出川の彼岸花と周辺の田園風景を存分に堪能するなら、その全ての区間を歩き通すのがお勧めだが、相応の時間と体力を要する。時間と体力に余裕の無い人はその中央部、小出橋から新道橋にかけての辺りだけでも充分に彼岸花の咲く風景を堪能できるだろう。観賞に訪れる人の姿の多いのもこの辺りの区間だ。

彼岸花が盛りを迎える9月下旬には「小出川彼岸花まつり」が開催される。2014年度(平成26年度)の「第7回 小出川彼岸花まつり」では藤沢市遠藤地区、藤沢市打戻地区、茅ヶ崎市、寒川町のそれぞれに会場が設営され、模擬店なども出て賑わっていたようだ。そうした賑わいの好きな人は「小出川彼岸花まつり」に合わせて訪ねてみるといい。

初秋の青空の下、黄金に輝く水田の風景とその中を紅い帯となって延びる彼岸花が織り成す、“彼岸花の咲く田園風景”というものの美しさを存分に堪能できる、「小出川彼岸花」である。
参考情報
交通
小出川の彼岸花群生地は鉄道の駅から距離があり、バスを利用しなくてはならない。遠藤地区へは小田急江ノ島線湘南台駅から「慶応大学」行きで「慶應大学」バス停下車、JR東海道線辻堂駅から「慶応大学」行きで「刈込」バス停下車、JR東海道線茅ヶ崎駅から「湘南台駅」行きで「遠藤松原」バス停下車等、茅ヶ崎里山公園へは小田急江ノ島線湘南台駅から「文教大学」行きで「芹沢入口」バス停下車、JR東海道線茅ヶ崎駅から「文教大学」行きで「芹沢入口」バス停下車など。詳細は藤沢市や茅ヶ崎市の光崎サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)などを参照されたい。

車で訪れる場合は慶應大学湘南藤沢キャンパスや茅ヶ崎里山公園を目指せばわかりやすいが、土地勘の無い人は予めよく地図を確認しておくか、ナビを利用することをお勧めする。

駐車場は茅ヶ崎里山公園の駐車場を利用するか、来訪者用の臨時駐車場を利用すればいい。ただし、「彼岸花まつり」開催時には茅ヶ崎里山公園の駐車場はたいへんに混雑し、満車状態が続く。臨時駐車場も場所がわかりにくいので余裕を持って出かけた方がいい。

飲食
周辺は田園地帯で、飲食店はほとんどない。お弁当を持参して茅ヶ崎里山公園でアウトドアランチを楽しむのもいい。お弁当持参でない人は駅周辺に戻ってお店を探すのが賢明だろう。

周辺
県立茅ヶ崎里山公園は里山の風景を残した規模の大きな公園だ。余裕があれば散策を楽しむのもお勧めだ。

小出川の大黒橋から上流部は河岸に紫陽花が植えられており、6月には美しい景観を楽しむことができる。紫陽花の花期には出かけてみたい。
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