佳景探訪
大王わさび農場
長野県安曇野市は観光地として人気の高いところだ。その中でも特に多くの観光客を集めるのが「大王わさび農場」だ。安曇野の原風景を残す農場内は散策も楽しく、四季折々に美しい風景を楽しむことができる。秋の訪れを感じる九月の初旬、大王わさび農場を訪ねた。



大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場

大王わさび農場
長野県安曇野市中心部から数km北東へ辿った田園地帯の中に「大王わさび農場」は設けられている。大王わさび農場は有限会社大王による運営で、安曇野の豊富な湧水を活用してわさびの栽培を行い、その加工品などを販売する施設だが、農場内には散策路が整備され、土産物店やレストランなども置かれている。安曇野の原風景とも言える風景が人気を集め、安曇野の観光地を代表するもののひとつとして認知されている。

この土地はかつては砂利ばかりの土壌に草の生い茂る河岸の荒れ地だったという。大王わさび農場の創業者である深澤勇市氏は、その土地に安曇野の豊富な湧水を利用したわさび畑の開拓を着想する。大正初期のことだそうだ。2年の歳月をかけて土地を取得し、そこへわさび栽培の畑を開拓した。一連の開拓が終わったのは1935年(昭和10年)のことで、土地の取得を開始してから20年の歳月を要した。その6年後の1941年(昭和16年)、深澤勇市氏は55年の生涯を終えている。

その後、さらにわさび畑が拡大され、1976年(昭和51年)には売店が、1982年(昭和57年)にはレストランが、農場内に造られている。推測だが、大王わさび農場が単なる“わさび栽培農場”から“観光地”として認知されるようになったのがこの頃ではないだろうか。1970年代中頃から1980年代にかけての時期、いわゆる“アンノン族”と呼ばれる若い女性たちの(当時としては)新しいスタイルの旅が脚光を浴びた。安曇野は“アンノン族”に人気の観光地のひとつだったから、その中で大王わさび農場も観光地としてのスタンスが確立されていったのかもしれない。

現在の大王わさび農場は名実共に安曇野を代表する観光地のひとつだ。年間120万人ほどの人々が訪れるという。1989年(平成元年)には水車小屋の建つ蓼川(たでがわ)の岸辺が黒澤明監督作品「夢」の舞台となり、さらに2011年(平成23年)4月から六ヶ月間放送されたNHKの連続テレビ小説「おひさま」のロケ地としても蓼川の岸辺が使われ、それらの作品中に登場した風景を求めて訪れる人も少なくないようだ。

大王わさび農場は、当然のことながら敷地の大部分をわさび田が占めている。15haほどの農場面積があるそうで、その広さには圧倒される思いがする。その様子を見学するだけでも訪れる甲斐があると言っていい。訪れたのは九月の上旬、わさび田は直射日光を避けるために黒い寒冷紗で覆われていたが、わさび田脇の小径へ降りれば、寒冷紗の下で育つわさびの様子を間近に見ることができる。その広大なわさび田を支えているのが豊富な湧水だ。一日に12万トンの湧出量があるそうだ。安曇野の湧水は1985年(昭和60年)に当時の環境庁が選定した「名水百選」に「安曇野わさび田湧水群」として名を連ねており、大王わさび農場内の湧水も「安曇野わさび田湧水群」を構成するもののひとつである。

観光地としての大王わさび農場の最大の魅力は、やはり農場内の美しい風景だろう。わさび田が広がる中に木々の茂った堤(あるいは、尾根、というべきか)が横たわり、そこに散策路が辿っている。安曇野と言えば石仏が有名だが、農場内の散策路脇にも何体かの石仏が祀られている。わさび田を跨いで橋が架けられていたりもする。木造の橋は風情ある姿で風景に溶け込んでいる。農場脇を流れる蓼川の岸辺では三基の水車が回って観光客の人気を集める。蓼川の流れそのものも美しく、岸辺に沿った小径の風景も素敵だ。場所によっては視界が開け、農場の風景の向こうに遠く北アルプスの山々を望むこともできる。それらの風景に包まれて農場内を一巡りするのはとても楽しいひとときだ。

農場が造られる以前は荒れ地だったということを考えれば、現在の農場内の風景は“造られた”ものと言っていい。昔からの風景が変わらぬ姿で残っているというわけではない。しかし、たとえ“造られたもの”だとしても、その風景は郷愁に満ちて“古き佳き”安曇野へと訪れる者を誘う。大王わさび農場内の風景は“安曇野の原風景”として語られることが少なくないが、敢えて言い足すなら“安曇野の原風景の象徴”としての意味を持つものなのかもしれない。

農場内にはわさび漬工房やわさび加工場などがあり、作業風景を見学できる他、わさび漬体験などもできるらしい。興味のある人は体験してみるのもいい。レストランやそば処もあるから、散策を楽しんだ後はゆっくりと食事も楽しめる。岩魚(イワナ)の塩焼きを味わうことのできる「いわな茶屋」という施設もある。農場の中心部、レストラン横の広場には巨大なわさびを象ったオブジェが置かれている。遠目に見ると「巨大なエビフライ?」にも見えてしまうが、わさび、である。わさび田を背景に、わさびのオブジェと並んで記念写真を撮るのも楽しい。わさび田を見学し、その周囲に広がる美しい風景を堪能し、わさびの加工作業などを見学し、わさびを食材に使った食事を味わう。「わさび」をテーマにした一種の“テーマパーク”として捉えても、あながち間違っていないかもしれない。安曇野の田園風景の中、素敵なひとときを過ごすことのできる大王わさび農場である。
大王神社


大王わさび農場/大王神社

大王わさび農場/大王神社
大王わさび農場の「大王」は、この地方に伝わる魏石鬼八面大王(ぎしきはちめんだいおう)の伝説に由来している。

かつて安曇野は魏石鬼八面大王という怪力無双の首領が治めていたそうだ。時は桓武天皇の時代(780年代〜800年代頃)、陸奥国の蝦夷と、これを服属させようとしていた中央政権との間で戦が起こっていた。信濃は陸奥国平定のための足掛かりの地で、人々は多くの貢物を強いられるなどして中央政権に苦しめられていたという。安曇野を治めていた魏石鬼八面大王は土地の住民を守るため、中央政権軍を率いていた坂上田村麻呂と心ならずも対立、戦となってしまう。果敢に戦った魏石鬼八面大王だったが、やがては追い詰められ、有明山の麓の岩屋にわずかな部下と共にたてこもり、ついにはそこで討ち取られてしまったという。魏石鬼八面大王はあまりに強かったため、生き返ることのないよう、遺体は分断されて埋められた。大王わさび農場の敷地内の一角に、その胴体が埋められたと言われているそうで、農場内の大王神社は魏石鬼八面大王を守護神として祀っているのだという。そうしたことを記した案内板が傍らに設置されている。訪れたときにはぜひ目を通しておきたい。

安曇野の王として土地と人々を守るために朝廷に刃向かった英雄として語られる魏石鬼八面大王だが、一方、全く視点の異なる他の伝承もある。蝦夷征伐に向かう坂上田村麻呂が、途中、安曇野で人々を苦しめる魏石鬼八面大王という鬼を成敗したというのだ。あるいは細部の異なる他説も近隣地域には残されているようで、語る者の立場が違えばエピソード自体の解釈も異なるということだろう。すでに千年以上も昔の出来事で、真実は時の彼方である。

農場内に設けられた岩屋は魏石鬼八面大王が住んでいた有明山麓の宮城(みやしろ)の岩屋を再現したものだそうである。大王わさび農場に訪れた際は、大王神社にお参りし、伝説の彼方の出来事に思いを馳せるのも一興だろう。
水車小屋


大王わさび農場/水車小屋

大王わさび農場/水車小屋
農場入口横、駐車場脇の蓼川(たでがわ)の岸辺で三基の水車が回っている。大王わさび農場の中でも特に観光客の人気を集めるものの一つだ。岸辺に建つ三棟の水車小屋はそれぞれ少しずつ形が違う。昔からここにあったものだろうか。詳しくはわからないが、大王わさび農場の“生い立ち”を考え合わせれば、おそらく安曇野の地に点在していた水車小屋を集めて移築復元したものなのだろう。かつてはさまざまな作業の動力源として使われていた水車だが、現在は観光用に回されているだけで何かの動力に使われているわけではないとのことだ。

この水車小屋の建つ川岸の風景は、1990年(平成2年)に公開された黒澤明監督作品の映画「夢」のロケ地に使われたことで広く知られている。「夢」はタイトルの通り“夢”を元にした小編ストーリー八話から構成された、いわゆるオムニバス形式の作品で、その第八話「水車のある村」に、この大王わさび農場蓼川の岸辺の風景が登場する。幻想的で美しい映像が話題となり、映画の公開以来、その風景を求めて訪れる人が絶えないという。

湧水の豊富な安曇野、川の流れを動力に活用した水車は昔は数多くあったのだろう。今では日常の暮らしの中に水車を見ることはほぼ無くなってしまった。これもまた“安曇野の原風景”のひとつなのだろう。自らの中に水車小屋の記憶を持たなくても、その風景には不思議な郷愁を感じてしまう。美しく懐かしい風景である。
「おひさま」ロケ地


大王わさび農場/「おひさま」ロケ地
蓼川の岸辺はNHK連続テレビ小説(いわゆる“朝の連ドラ”)「おひさま」のロケ地としても知られている。「おひさま」は連続テレビ小説第84シリーズ、連続テレビ小説50周年記念作品として2011年(平成23年)4月4日から同年10月1日まで放送されたものだ。主人公須藤陽子(後に丸山陽子)の昭和初期から現代までの半生を描いた架空の物語で、安曇野と松本が舞台となった。主人公陽子は井上真央が(幼少期は八木優希)が演じ、若尾文子演じる晩年期の陽子が自らの半生を語る構成のドラマだった。

その劇中、戦争や松本の火事を経て、陽子は夫和成と共に安曇野に蕎麦店「百白花」を開店するのだが、その「百白花」が建っていたのが、蓼川の岸辺、水車小屋のやや上流部の辺りである。実際に「百白花」の建物が岸辺に建てられ、撮影が行われたという。撮影が終わった後も「百白花」の建物の保存を望む声もあったらしいが、あくまで撮影用のセットだったこともあり、惜しまれつつも撤去されて今はその名残もない。その跡地近く、駐車場脇には「おひさま」の舞台であることを示した案内標柱が立てられている。北アルプスの山々を望む田園風景の中、ひとときドラマのワンシーンを懐かしんでみたい。




安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート

安曇野气船クリアボート
水車小屋の建つ蓼川の岸辺に立てば、蓼川の川面を観光客を乗せたボートが行き交っているのが見える。これは「クリアボート体験」と名付けられた“体験型アクティビティ”で、大王わさび農場ではなく、安曇野气船という会社によって運営されている。舟底に当たる足元が透明になっていて川の中がよく見える構造になっているので“クリアボート”であり、観光客もオールを持って係員と共に漕ぎ手を担うという趣向であることから“体験”ということのようだ。“ボートを漕ぐ”という体験の楽しさに加え、水車小屋を川面から見ることができる魅力も手伝ってか、なかなか人気があるようだ。大王わさび農場駐車場脇の蓼川岸辺に乗り場が設けられており、経営主体は違うが、大王わさび農場といわば“ワンセット”になって観光客の人気を集めていると言っていい。

クリアボート体験は予約は不可とのことで、当日乗船場に行って料金を支払って利用する。乗り場に並んで待ち、待ち人数が数人になったところで、そのグループで一艘のボートに乗り込む形だ。もちろん乗船時はライフジャケットを着用する。今回利用したときはちょうど他に待つ人たちのないタイミングで、自分たちだけの、実質“貸し切り”のような状態だった。ボートに乗り込む人数が少ないと、「一人当たりの漕ぐ負担が少し増えますが、いいですか」とのことだったが、同乗する係員のサポートがしっかりしており、漕ぐのに苦労するほどではなかった。クリアボート体験には距離(時間)の長短によって二つのコースが設定されていた(料金も異なる)が、今回は短い方を選んで体験してみた。

乗り場からボートを漕いでいったん蓼川の上流部へ遡り、そこから川の流れに任せて川を下る。水車小屋の前を通り過ぎて少し行ったところで、再びボートを漕ぎ、乗船場へ戻るという構成だ。ボートに乗っている間、安曇野という土地のことについて、あるいは蓼川や水車小屋について、同乗する係員がさまざまな説明をしてくれるのも楽しい。

蓼川(たでがわ)は安曇野の豊富な湧水を集めて流れる川だ。今回訪れた時は幸い天候にも恵まれ、蓼川の澄んだ流れは空の青を映して美しかった。やはり天候によって景観の印象は大きく違うらしい。水辺というのは気持ちの良いものだが、ボートに乗って水面近くから見る川の流れや岸辺の景観というものは格別の魅力がある。九月初旬の残暑の中、川面の涼やかさも嬉しい。川の中を覗き見れば光を弾いて揺らめく水面の下、流れに漂うように揺れる水草の様子も美しく、その中を泳ぎ去る小魚の姿を見つけることもできる。岸辺に近い草の上には羽の黒いカワトンボの姿もあった。

蓼川の左岸川には細く低い堤の向こうに別の流れがある。一見すると一本の川が中州に隔てられているようにも見えるが、堤の向こうの川は万水川(よろずいがわ)という別の川である。蓼川と万水川は水車小屋のやや下流で合流し、合流点の様子はわさび田脇の堤の上からも見ることができる。これほど低く細い堤で隔てられて二本の川が並んで流れる景観はなかなか他で見ることができないのではないか。

そして何と言っても川面から見る水車小屋の景観の素晴らしさだ。三棟の水車小屋が並ぶ風景も岸辺から見るのと川面に浮かぶボートの上から見るのとではまったく印象が違う。澄んだ水が流れる川の辺に緑の木々に包まれて建つ水車小屋の姿を川面から見る景色は夢想的な美しさだと言っていい。ボートは水車小屋から離れたところを下り、遡るときには水車小屋に近いところを通り、さまざまな表情を楽しめるのも嬉しい。川の流れを受けて回り続ける水車を間近に見ることができるのは、川に浮かぶボートならではの体験だ。

今回は機会を作って平日に訪れたので観光客も少なかったようだが、行楽シーズンの休日には訪れる人も多く、「クリアボート体験」も順番待ちを強いられることが少なくないようだ。しかし、しばらく待っても体験してみる価値がある。お勧めである。




大王わさび農場周辺の田園風景

大王わさび農場周辺の田園風景
大王わさび農場の西、万水川の河畔から西にかけては、長閑な田園風景が広がり、見渡す限りに水田が横たわっている。訪れたのは九月上旬、水田の稲は黄金に実り、刈り取りの時期を待っている。穂高駅から大王わさび農場まで3km近い距離があるが、道祖神の姿を探しながら、田園風景を楽しみつつ、のんびりと歩いてみるのも良いものだろう。
参考情報
大王わさび農場は入場料などは必要ない。自由にわさび田の見学や農場内の散策を楽しむことができる。その他、詳細については大王わさび農場公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

安曇野气船のクリアボート体験について、開催期間や開催時間などの詳細は安曇野气船公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通

大王わさび農場の最寄り駅はJR大糸線穂高駅だが、駅からは3km近く離れており、徒歩で訪れるには少しばかり距離がある。田園風景の中を歩いてゆくのも悪くないが、脚力に自信の無い人や時間に余裕の無い人は駅からタクシーやレンタサイクルなどを利用するのも一案だろう。

大王わさび農場には広い無料駐車場が用意されており、車で訪れるのが便利だ。自家用車用の駐車場は約350台分の駐車スペースがあるようだ。

遠方から訪れる人は長野自動車道を利用するといい。長野自動車道安曇野ICを下りて直進、そのまま県道310号線を北上し、「重柳」交差点を右折、「安曇野アートライン」を道なりに北上し、「御法田」交差点を右折すれば大王わさび農場だ。安曇野ICから10分ほどか。

国道19号線や国道147号線を利用する場合も、県道310号線の「重柳」交差点を経由するのがわかりやすいだろう。

飲食

大王わさび農場にはレストランやそば処があり、食事は可能だ。わさびを使ったメニューを味わうのがお勧めだ。

大王わさび農場の周辺は田園地帯で飲食店は少ないが、「御法田」交差点と「重柳」交差点との間に蕎麦店などが点在している。その他、市内各所に蕎麦店が点在しているので、有名な蕎麦店を訪ねてみるのも楽しい。

周辺

大王わさび農場から穂高駅にかけての地域は田園地帯だ。散策の足を延ばしてみるのもお勧めだ。田園地帯を辿る道の脇には数多くの道祖神が点在している。「道祖神めぐり」も安曇野観光の定番と言っていい。穂高駅近くの穂高神社や碌山美術館にも立ち寄っておきたい。

大王わさび農場から「重柳」交差点まで南下し、県道310号線を西へ少し辿ると、道の北側に「安曇野の里」という施設がある。お土産販売所の「プラザ安曇野」、田淵行男記念館、公営の宿泊施設「ビレッジ安曇野」、あづみのガラス工房などが集まった複合施設だ。また「安曇野の里」から県道310号線を西へ300メートルほど行くと道の南側、万水川の辺に「安曇野わさび田湧水群 憩いの池」がある。「安曇野わさび田湧水群」を象徴する風景として見ておきたい。

安曇野の平地部には「拾ケ堰」と呼ばれる用水が流れている。疏水に興味のある人ならぜひ見ておきたいものだ。
大王わさび農場

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