佳景探訪
鎌北湖
埼玉県毛呂山町の南西部、山々に囲まれて鎌北湖という湖がある。農業用貯水池として造られた人造湖である。緑濃い景観が美しく、身近な行楽地として親しまれている。夏の終わりの八月の末、鎌北湖を訪ねた。



鎌北湖

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鎌北湖

鎌北湖

鎌北湖

鎌北湖
町の中心部から県道186号線を辿った毛呂山町南西部、山々に包まれるようにして鎌北湖という湖がある。農業用貯水池として川を堰き止めて造られた人造湖である。要するに“ため池”だが、“ため池”という言葉から想像する一般的な姿とは違って、大きな堰堤を築いて造られた湖はまさに“ダム湖”の様相だ。周囲約2km、有効水面積3.8ha、有効水深20.5m、貯水量は30万立方メートルだそうである。

鎌北湖は1929年(昭和4年)に着工し、1935年(昭和10年)に完成したものという。1929年(昭和4年)に起きた世界恐慌の影響で不況に陥った農村の振興策として、雇用対策も兼ねた事業だったらしいが、資金難などの問題もあって完成まで6年を要したということのようだ。造られた当時、この辺りが山根村だったことから正式呼称は山根溜池といい、一般には山根貯水池と呼ばれたと、現地に設置された解説パネルに記されている。鎌北湖という呼称は戦後になって毛呂山町観光協会が使用し、それが定着したものらしい。

川を堰き止めて造られた湖であるから、谷筋に延びた湖の輪郭は複雑な形状をしている。堤体上から眺めると右手には西へと延びる谷の奥へと水面が広がり、左手には南へ入り込んだ谷筋が水を湛えている。両者を分ける尾根がまるで島のようにも見える。湖を囲む山々は鬱蒼とした木々に覆われ、山々の稜線は湖の奥へと重畳し、穏やかな水面がその緑を映す。それらが互いに相乗して美しい景観を織り成している。

湖の南岸には用水管理棟の建物が水面にせり出すように建っている。ベージュ色の外壁に赤茶色の屋根を載せた建物はスパニッシュ様式の外観に仕立てたものだろうか。角にはサンルーム風に円筒形の張り出し部を設けているところも洒落ている(推測だが、この張り出し部はもちろん“サンルーム”ではなく、堤体全体の様子がよく観察できるようにと設けられたものではないか)。いつ頃に建てられたものかはよくわからないのだが、おそらく貯水池の設備として同時期に完成したものだろう。その瀟洒な外観は緑濃い景観の中に映えて、鎌北湖の風景のよいアクセントになっていると言っていい。

堤体下にはボート乗り場が設けられ、湖面でのボート遊びも可能のようだ。今回訪れた2013年夏、例年にない渇水で湖面が下がり、ボートの営業は休止中だった。通常の水位であれば行楽シーズンにはボート遊びの人々の姿が見られるのだろう。湖面に浮かぶボートの姿も風情のあるものに違いない。

鎌北湖はへらぶなの釣り場でもあり、入漁券を購入すればへらぶな釣りが楽しめるようだ。訪れたときも湖岸の随所に釣り糸を垂れる人たちの姿があった。そうした釣り人たちの姿もまた、鎌北湖の風景の一部として溶け込んでいる印象だ。

湖岸の道路を辿れば視点が変って鎌北湖の景観の表情も変わる。異なる角度から見る用水管理棟の姿も良い風情がある。堤体の正面に島のように見える尾根には廃業した「山水荘」の建物が残っており、近づくと殺伐とした様子が少しばかり興をそぐが、遠くから眺めればそれほど気になるものでもない。

南岸部に設けられた第一駐車場脇には、何やら社のようなものが建っている。見ると「犬魂碑」とある。埼玉県猟友会によって建立されたものらしい。拝殿の中には犬の像も建てられている。第一駐車場からさらに奥へ進むと「鎌北湖レイクビュー」という宿泊施設が建っている。秩父の大滝温泉から運んだ温泉も好評だそうだ。その施設脇から奥武蔵自然歩道が山々を縫って延びており、訪れるハイカーも少なくないという。

鎌北湖は「乙女の湖」の異名もあるという。谷間に沈む湖の景観は雄大に過ぎず、どこか優美な印象を与えるからだろうか。鎌北湖はやはり堤体上からの眺めが美しく、腰を降ろしてのんびりと湖を眺めていると時の経つのを忘れる。堤体上を通る道路は桜の並木で、春には見事な景観を見せてくれるが、夏は緑濃く葉が茂って木陰を落としてくれるのが嬉しい。秋には紅葉も美しいという。季節毎の表情を見てみたくなる。美しい湖である。


四季彩の丘公園

四季彩の丘公園

四季彩の丘公園

四季彩の丘公園
鎌北湖の東岸には「四季彩の丘公園」という公園が設けられている。公園とは言っても山の斜面に遊歩道を巡らせただけのもので、これといった設備は設けられていない。広場もないし、もちろん遊具類も置かれていない。遊歩道は鎌北湖の第一駐車場奥と「鎌北湖レイクビュー」脇に入口が設けられており、山の斜面を辿ってその両者が繋がっている。途中には小さな谷筋を渡る橋が架けられていたり、高所には展望所も設けられている。

遊歩道はよく整備されているが、もちろん未舗装の小径で、散策する際には歩きやすい靴を履いてゆくことをお勧めする。遊歩道の全区間を歩くと、登って下りて再び登って下りるという形になり、高低差もかなりある。しかも両端以外には麓へ繋がるルートがない。つまり遊歩道を辿れば、行くか戻るか、しかないわけで、“逃げ道”がない。普段歩き慣れていない人や高齢者、小さな子どもには少しばかりハードかもしれない。先を急がず、ゆっくりと巡るのがよいだろう。

それでも木々に包まれての散策は楽しく、辿って行くにつれて見える景色も変わって飽きない。高所に設けられた展望所からは眼下に鎌北湖を見下ろし、その周囲に重畳する山々の雄大な景観を一望する。春の芽吹きの季節や紅葉に染まる晩秋の景色もまた素晴らしいものに違いない。その眺めを楽しむために汗をかいて遊歩道を登るのも“その甲斐がある”というものだろう。
参考情報
本欄の内容は鎌北湖関連ページ共通です
交通

鎌北湖の最寄り駅はJR八高線毛呂駅だが、駅から4kmほどの距離がある。平日(祝日と年末年始を除く月曜日から金曜日)には毛呂山町町内循環バス「もろバス」が運行しているようだが、便数は少ない。

車で訪れる場合には毛呂山町中心部から県道30号線を南に数百メートル行ったところの「鎌北湖入口」交差点から県道186号線で西へ辿ればよい。遠方から訪れる人は関越自動車の道鶴ヶ島ICや坂戸西スマートIC、圏央道の圏央鶴ヶ島ICなどから、まず毛呂山町中心部を目指すとわかりやすい。

鎌北湖には堤体を渡った湖東側に第一駐車場が、湖の北岸を西へ進んだ奥に第二駐車場が設けられており、駐車スペースも合計で200台ほどで比較的余裕がある。

飲食

鎌北湖は山々に囲まれた静かなところだ。お弁当持参で訪れて、湖を眺めながらのランチがお勧めだ。

第一駐車場脇に軽食と釣具を商う店が建っており、うどんやそば、カレーなどの軽食が可能のようだ。

周辺

県道30号線から鎌北湖へ向かう県道186号線沿いには長閑な田園風景が広がっている。鎌北湖から歩くと少し距離があるが、余裕があれば足を延ばして里山散歩を愉しむのも悪くない。その田園地帯の一角には毛呂山総合公園がある。公園は春の桜が美しい。公園のプール跡地で、夏には蓮の花を見ることができるようだ。

鎌北湖の北側、阿諏訪川の源流付近には獅子ヶ滝が、また鎌北湖の南側、宿谷川の上流部には宿谷の滝がある。どちらも鎌北湖から車で直接行くことはできず、少し戻ってそれぞれの道へ辿らなくてはならないが、これらの滝も余裕があれば立ち寄っておきたい。
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