佳景探訪
下田公園
静岡県下田市街地の南に位置する下田公園は紫陽花の名所として知られ、六月には下田公園を会場に「あじさい祭」も開催される。紫陽花が咲き始めた六月初旬、下田公園を訪ねた。



下田公園

下田公園

下田公園

下田公園

下田公園

下田公園
下田市街の南側に、木々の茂る山が岬となって海に張り出している。この岬にはかつて下田城が築かれていたといい、「下田城趾」として下田市指定文化財になっており、今は「下田公園」という公園になっている。

下田城は1500年代の終わり、豊臣秀吉と小田原北条氏との攻防の舞台となった。天下統一を進めて関東に勢力を広げようとする豊臣勢に対して、小田原の北条氏は下田城を防衛のための重要な拠点と考えたのだ。1590年(天正18年)3月、一万人を超える規模の豊臣方水軍が清水湊に集結した。同年4月には豊臣水軍の主力が石廊崎沖を回って下田沖に到着したが、三方を海に囲まれた下田城は攻めにくく、籠城戦の様相となっていた。しかし豊臣軍一万四千に対して下田籠城軍はわずかに六百、4月下旬にはついに開城、籠城戦は50日に及んだという。

そうした歴史を四百年余の時の流れの中に封じ込め、現在の下田公園は静かな紫陽花の名所として知られる。その数、15万株、300万輪という。数だけを聞いても実感しにくいが、例えば東京近郊で“紫陽花の名所”として知られているところのほとんどは数千株から一万株ほどの規模だから、15万株という数の多さは驚きに値するものと言っていい。

下田港を見下ろす丘の北斜面に設けられた散策路を辿れば、歩いても歩いても散策路の脇には紫陽花が咲いている。これほどの規模の紫陽花を楽しめるところはなかなか他に無いのではないか。紫陽花は公園の西側に行くほど数が多いようで、「下岡蓮杖翁の碑」の上側の辺りではまさに丘の斜面を埋め尽くして紫陽花が咲き誇り、圧巻の景観が楽しめる。

訪れたのは6月初旬、「あじさい祭」が始まったばかりで、紫陽花はまだ五分咲きといったところだったが、それでも公園を埋め尽くすほどの紫陽花の花には圧倒されるような思いがする。六月中旬頃には満開を迎えるようだ。満開になったときの景観はきっとさらに素晴らしいのだろう。訪れた日はあいにくの雨、傘を差しての散策だったが、雨に濡れる紫陽花はなんとも良い風情だ。場所によっては紫陽花の花の向こうに下田港を望める。雨に煙る下田港の景色も紫陽花との組み合わせで見ればなかなか情緒のあるものだ。

「あじさい祭」開催中は園内の広場に露店と休憩所が設営されているが、訪れた時は「あじさい祭」が始まったばかりだったからか、土曜日の午前中で、しかも天気は雨ということもあってか、それほど賑わってはいないようだった。紫陽花が満開を迎える六月中旬の日曜日にはさまざまなイベントも行われるらしい。大勢の観光客で賑わうことだろう。
開国記念碑


下田公園/開国記念碑
1854年(嘉永7年)、ペリー提督率いるアメリカ合衆国の使節団と当時の幕府との間に日米和親条約が締結され、下田が開港場に選ばれた。条約の締結の舞台となったのは当時の横浜村(現在の横浜市中区)だったが、条約の締結を受けて合衆国総領事としてハリスが下田に着任、交渉の場を下田に移して和親条約の細則が定められた。いわゆる「下田条約」だ。下田は日本の開国に於いて重要な舞台だったのだ。1954年(昭和29年)、開国百年を記念して下田に「開国記念碑」が建てられた。それが「下田公園」内に建つ「開国記念碑」だ。碑にはペリーとハリスのレリーフが彫られ、ふたりの言葉が刻まれている。「余は平和の使節として此の地に来れり」というペリーの言葉はマッカーサー元帥が、「私の使命はあらゆる点で友好的なものであった」というハリスの言葉はウィリアム・J・シーボルトが、それぞれ選んだものという。
下岡蓮杖翁の碑


下田公園/下岡蓮杖翁の碑
公園内、北西側の丘の裾に「下岡蓮杖翁の碑」が建っている。下岡蓮杖は日本で最初期の写真家として知られている。下田に生まれ、合衆国総領事として下田に着任したハリスの通訳だったヒュースケンから写真撮影技術の基礎を学んだという。写真技術の習得に努力を重ね、やがて1862年(文久2年)、下岡は横浜弁天通に写真館を開く。上野彦馬が長崎に写真館を開いたのとほど同時期、もちろん関東では最初の写真館だった。初めの頃は迷信に惑わされて日本人の客は少なく、ほとんどが外国人客だったらしいが、次第に迷信も消え、写真館も繁盛していったという。横浜市中区の馬車道には下岡の功績を讃え、下岡蓮杖顕彰碑が建てられている。下岡は写真家としても活動し、当時の東京や横浜の風景を撮影した写真は貴重な歴史資料になっている。晩年の下岡は写真業を廃業、画家として余生を過ごしたという。1914年(大正3年)、92歳で没している。下田公園から下田港を挟んで北側に位置する寝姿山の山頂付近には「蓮杖写真記念館」が建っており、下岡蓮杖の遺品なども展示されている。写真趣味の人なら訪ねてみたいところだ。




下田公園

下田公園
お天気に恵まれれば公園内から見える海も美しいことだろう。潮の匂いを感じながら緑濃い丘を散策するのは爽快な気分が楽しめるに違いない。訪れたときはあいにくの雨だったが、紫陽花の花を楽しむにはかえって風情があって良かったかもしれない。下田公園の紫陽花は何しろその数が圧倒的で見事なものだ。まさに“紫陽花の名所”と言っていい。東京近郊から訪れるには少しばかり距離があるが、紫陽花の好きな人なら足を延ばしてみる価値は充分にある。紫陽花の花に包まれた舗道を、下田城に関する解説板や「開国記念碑」、「下岡蓮杖翁の碑」などにも目をとめながら歩くのが、「下田公園」の楽しみ方としてお勧めだろう。
参考情報
交通

下田公園は伊豆急下田駅から徒歩で20分ほど、下田の町を散策しつつ下田公園に向かうといい。「あじさい祭」開催期間中は下田駅から下田公園下を結ぶバス路線も運行されるようだ。

車の場合は、「あじさい祭」開催期間中なら武ガ浜地区に設けられる「あじさい祭専用駐車場」や、国道135号線沿いの「道の駅」の駐車場が無料で利用できる。それらの駐車場と下田公園とは稲生沢川の河口部の下田内港によって隔てられているが、「あじさい祭」開催期間中は渡し船が有料で運航される(2009年に訪れたときは片道100円だった)。片道だけでも渡し船を利用してみると楽しい。往きは渡し船を利用し、帰りは下田の町を散策しつつ駐車場へ戻るというコースを下田市でも勧めている。

下田の町の中にも時間貸し駐車場が存在するが、町中は道が狭く、駐車場の場所もわかりにくい。武ガ浜地区の専用駐車場や「道の駅」の駐車場を利用することをお勧めする。

飲食

「あじさい祭」開催期間中は下田公園内の広場に露店が出て、焼きそばやラーメン、おでんなどを販売しているようだが、公園内には本格的な飲食店はない。下田の市街地で気に入った飲食店を探すのがお勧めだ。

周辺

下田公園の紫陽花を堪能したら、下田の町の散策を楽しむのがお勧めだ。下田公園下から了仙寺まで、平滑川に沿って「ペリーロード」という散策路が整備されている。その北方には下田の町が広がる。町中には古い建物も残り、港町の風情を感じながらの散策が楽しい。下田公園のある岬の南側には下田海中水族館がある。イルカのショーなどを見ることができるという。伊豆急下田駅の横手からは東の寝姿山へ下田ロープウェイが通う。寝姿山の散策を楽しむのもいい。その他にもさまざまな施設が市街地や周辺に点在している。下田市街周辺の観光名所を記したリーフレットが用意されているから、観光協会などで入手しておくことをお勧めする。

車で訪れたなら周辺の海岸線へのドライヴも楽しい。爪木崎龍宮窟などを訪ねるのもお勧めだ。
下田公園

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