佳景探訪
龍宮窟
静岡県下田市、田牛地区の海岸に龍宮窟と呼ばれる海蝕洞がある。上部の開いた竪穴状の、特徴的な形状の海蝕洞だ。冬晴れの一月下旬、龍宮窟を訪ねた。



龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟
静岡県下田市の最南部に位置する田牛(とうじ)地区、田牛海水浴場の浜辺のすぐ北側、内陸部の丘陵から連なる小高い丘が小さな岬のように海に張り出している。その丘の中央部に、直径40mほどの竪穴が穿たれている。竪穴の底には小さな礫浜があり、海と繋がった横穴から入り込んだ波が打ち寄せる。龍宮窟と呼ばれる海蝕洞である。そもそもは波の浸食によって横穴状の海蝕洞が生じ、それが長い年月をかけて大きくなってゆき、やがて海蝕洞の上部が崩落、“天窓”のように上部の開いた形状になったものらしい。

龍宮窟の底の礫浜は外部と通じるトンネルが設けてあり、容易に入ることができる。内部から見る龍宮窟はまさに神秘的という形容が相応しい。ほぼ垂直に切り立つ崖が周囲を360度取り囲み、その底には小さな浜辺が抱かれている。上を見上げれば崖の上には木々が茂り、ほぼ円形に開いた“天窓”の向こうに空が覗く。崖肌には美しい地層を見ることができるが、これは太古の海底火山の噴出物が堆積してできた地層らしい。本来は地下深くで形成された地層だが、地殻変動によって隆起し、こうして地表に現れたものという。

今回訪れたのは真冬の一月下旬、浅い角度で指す日の光は崖の上部を照らすだけで、底の浜辺は日差しが届かず陰っている。外の海と繋がる横穴の向こうには明るい海原が覗き、その光が洞窟内に入り込んだ海水に反射する。そうした明暗のコントラストも神秘的な印象をさらに増している。おそらく真夏には上部に開いた“天窓”から夏の日差しが降り注ぎ、光と陰が織り成す幻想的な光景を見ることができるのだろう。その様子も見てみたい気がする。

浜辺に立って上部の“天窓”の全周と横穴とを含めた全景を一枚の写真に収めたいと思ってカメラのレンズを向けてみるのだが、通常の広角レンズでは収めることができない。そうした写真を撮りたいと思う人は魚眼系のレンズを用意しておくことをお勧めする。

浜辺から横穴を通して外の海原を見てみると、丘の上に灯台を建てた小さな島影が見える。南南西の方角、8kmほど沖合いに浮かぶ神子元(みこもと)島の島影のようだ。島内の丘上に建つ灯台のシルエットでそれとわかる。神子元島灯台は1870年(明治3年)11月に完成したもので、日本最古の洋式石造り灯台だそうだ。神子元島は爪木崎からも見え、爪木崎灯台下の展望所に解説を記したパネルが設置されているので、爪木崎に行く機会があったら見てみるといい。

この海蝕洞内部の光景、アニメ好きの人なら既視感を覚える人もあるのではないだろうか。実は1992年(平成4年)に発表されたスタジオジブリ制作の宮崎駿監督作品「紅の豚」の劇中、主人公のポルコ・ロッソの“隠れ家”として描かれる浜辺が、龍宮窟とよく似ているのだ。「紅の豚」に描かれるポルコ・ロッソの“隠れ家”は飛行艇がすっぽりと入ってしまう大きさだから、その規模は全く異なるが、海蝕洞としての形状はよく似ている。作品に登場する“隠れ家”のモデルが龍宮窟だという言う人もいるし、オーストラリアのグレート ・オーシャン・ロードであるとも、ギリシャのザキントス島であるとも言われているようだが、どこか特定の場所がモデルになっているというわけではなく、そうしたさまざまな風景からインスパイアされて考えられたものだろうということは改めて言うまでもない。
龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟
龍宮窟は竪穴を囲む崖の上部を散策路が巡っており、上部から龍宮窟の景観を見下ろすこともできる。崖上部から見下ろすと、龍宮窟という海蝕洞の特徴がよくわかる。海に突き出た丘の中央部にぽっかりと垂直に竪穴が穿たれ、その底には小さな浜辺があって波が打ち寄せる。その様子を俯瞰することができ、興味深い。丘の上部、海蝕洞の開口部南側には龍宮神社が祀られ、小さな社が建っている。昔の人々はこの特異な海蝕洞の景観に神の存在を感じて祀ったのだろう。

崖上を辿る散策路を歩けば、東には海原が広がっている。なかなか素晴らしい眺めだ。水平線の上には小さな島影が点々を浮かんでいるが、前述の神子元島の他、伊豆七島の姿も見えるのだそうだ。北寄りに回り込むと伊豆半島の海岸線が見える。海に突き出ているのは須崎半島だろうか。その向こうにうっすらと見える山の稜線は、方角から考えれば伊豆大島かもしれない。

この散策路の海側から海蝕洞を覗き込むと、底部の形状が“ハート形”に見えるというので、“パワースポット”としても話題になっているという。恋人同士で訪れたなら、その“ハート”を見てみるといい。

崖上を辿る道は未舗装の細道で、木の根などが露出して歩きにくいところや、狭く少しばかり危険を感じるところもある。訪れるときは歩きやすい靴を履いていくことをお勧めする。
田牛サンドスキー場
龍宮窟を抱える丘のすぐ北側の海岸に、風に吹き上げられた砂によって形作られた斜面がある。傾斜角30度というからなかなかの急斜面である。この砂浜の斜面はソリなどで滑って遊ぶことができる。「田牛サンドスキー場」の名で呼ばれている。今回はサンドスキー場の浜辺に下りることはしなかったが、特に子どものいる家族連れであれば、ひととき“サンドスキー”を楽しんでみるといい。田牛観光協会でソリを借りることができるそうだ。
龍宮窟

龍宮窟

龍宮窟
龍宮窟の中の浜辺で“天窓”を見上げていると、つくづくと思う。いったいどれだけの年月を要して、この景観が造られたのだろう。もちろん今でも常に波や風雨の浸食を受け続けているわけで、絶え間なく少しずつその形を変えていっているはずだが、人間の時間の尺度ではとてもそれを実感できない。悠久の時の流れの中で紡がれてゆく大自然の営みと、その中で偶発的に生み出される神秘的な景観には驚嘆するばかりだ。
参考情報
交通

龍宮窟へは車での来訪がお勧めだ。下田市街から国道136号線を4kmほど南下、「田牛入口」交差点を南へ折れて、さらに3kmほど進めば着く。道路脇に10台分ほどの駐車場が用意されている。駐車場は普段は無料だが、夏季は有料になるようだ。

車でない人は伊豆急行下田駅からタクシーを利用した方がいい。下田駅と田牛とを繋ぐバス路線もあるようだがバス便は極端に少なく、観光目的には利用できない。

飲食

龍宮窟近くには飲食店も土産物店などもない。近辺にもほとんどないようだ。下田市街へ戻った方が好みのお店を探すにも困らないだろう。国道沿いには点在しているようだから、車の人は移動中に見つけるのもいいかもしれない。

周辺

龍宮窟の南側は田牛海水浴場の浜辺だ。また龍宮窟から少し北へ行った辺りには碁石が浜海水浴場がある。ひととき浜辺の散策を楽しむのもいい。

北へ辿れば6kmほどで下田市街、下田の町を散策したり、下田海中水族館に行ってみるのもお勧めだ。紫陽花の季節であれば下田公園にも立ち寄っておきたい。下田市街から須崎半島へと辿り、爪木崎を訪ねてみるのもいい。爪木崎は水仙の群生地として知られる。水仙の花期でなくても、灯台からの雄大な眺めがお勧めだ。

龍宮窟
龍宮窟

関連する他のウェブサイト

関連する他のコンテンツ


海景散歩
静岡散歩