佳景探訪
爪木崎
静岡県下田市、須崎半島の東端に爪木崎という岬がある。水仙の群生地として知られ、花期には水仙の甘い香りに包まれる。尾根伝いの遊歩道から見下ろす海原の景観も雄大そのものだ。水仙が見頃を迎えた一月下旬、爪木崎を訪ねた。



爪木崎

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静岡県下田市の中央部、地図を見ると下田の港を外海から隔てるように小さな半島が南へ突き出している。宮内庁の須崎御用邸があることでも知られる、須崎半島だ。その須崎半島の東端部の岬を爪木崎という。

爪木崎は水仙の群生地として知られ、花の見頃を迎える時期には多くの観光客を集めて賑わう。ずいぶん昔、正月休みを利用して爪木崎を訪れ、満開の水仙を堪能したことがあったが、今シーズン(2012〜2013年)は開花が遅れていたようで、1月の中旬を過ぎてようやく見頃となったようだった。1月下旬、爪木崎は満開の水仙に彩られ、甘い香りに包まれていた。

爪木崎の“入口”には「爪木崎」と名を記したゲートが設置され、訪れた人を迎えてくれる。ゲートの支柱には「歓迎 水仙まつり」のプレートが取り付けられていた。そのゲートをくぐり、整備された散策路を辿ってまずは灯台を目指そう。磯辺の景観などを楽しみながら灯台へと歩き、灯台からの雄大な眺めを堪能してから水仙の群生地へと戻るのが、爪木崎観光の“順路”と言っていいようで、多くの人がそのコースを辿っているようだった。


爪木崎

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岬の尾根を灯台へ続く散策路を進んでゆくと、散策路の南側に磯辺を見下ろすことができるようになる。磯辺は太平洋の波に洗われて荒々しい景観を見せている。その磯辺を辿る遊歩道も整備されているようだ。磯辺の散策を楽しむ人の姿が小さく見える。

その磯辺を間近に見下ろすことのできる展望所も設けられている。眼下の磯辺には無数の柱を束ねて立てたような、特徴的な岩場の景観を見ることができる。これは古い時代に溶岩の冷却によって形成された「柱状節理」というもので、爪木崎の柱状節理は静岡県の天然記念物に指定されている。

散策路脇には静岡県教育委員会の名で解説パネルが設置されている。それによれば、爪木崎の柱状節理は約五百万年前に安山岩質溶岩の冷却によって生じたものという。その形状から、地元では「俵磯」と呼ばれているそうだ。江戸時代には建設用材として切り出され、「俵石」の名で好評を博したそうである。柱状節理そのものは、“とても珍しい”というものではないが、爪木崎のものは眼下に一望できるうえに近づいて観察することができる点で価値の高いものだという。散策路脇には柱状節理が形成されるメカニズムを簡単に解説したパネルも設置されている。興味を覚えた人はその解説にも目を通しておくことをお勧めする。

尾根の展望所から見る「俵磯」は少し遠く、細部まで見ることが難しいが、双眼鏡や望遠レンズを装着したカメラがあれば、より大きく見ることができるだろう。もっとしっかり観察したい人は磯辺の遊歩道に降りてみるといい。こうしたものに興味のある人にはもちろん、そうでない人でも一度は見ておきたい景観である。


爪木崎

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岬の尾根の突端には白亜の灯台が建っている。「爪木崎灯台」である。普段は閉鎖された扉の上部には「爪木崎燈臺」の名が右から左に記された名標が取り付けられており、「昭和十二年四月一日(これももちろん右から左へ書かれている)」に初点灯した旨が併記されている。細身の塔体がすらりと建ち、その上部に燭台のように発光部を載せた姿はなかなか美しく、灯台というものの一般的なイメージを象徴するような姿だと言っていい。灯台の塔高は17mほど、光は約25km先まで届くそうである。

灯台の内部は見学することはできないが、台座部分の周囲は展望所を兼ねており、雄大に広がる海原を一望する。眼下には磯辺から小島のように連なる岩塊が波に洗われている。その向こう、東の水平線上に浮かぶ島影は伊豆大島だろう。北へ目をやれば重畳する伊豆半島の山々が海へ張り出している。遠く霞んで見える海岸の町はどの辺りだろう。南にはただ太平洋が広がるばかりだ。まさに絶景と言っていい。

南の水平線上には小さな島影が見える。10kmほど沖合いに浮かぶ神子元(みこもと)島の島影だ。爪木崎灯台下の展望所に第三管区海上保安本部下田海上保安部による神子元島灯台についての解説パネルが設置されている。神子元島灯台は米英蘭仏との江戸条約に基づいて建設された日本最古の洋式石造り灯台で、1870年(明治3年)11月に完成点灯したそうだ。

神子元島灯台の基本設計は英国スティーブンソン兄弟社、監督を務めたのはブラントンだという。ブラントンについて、解説パネルには「“横浜まちづくりの父”とも言われています」と記されている。開港間もない横浜の町は1866年(慶応2年)に発生した大火災によって大きな被害を被っている。その後の復興によって横浜は近代的な都市へ生まれ変わることになるわけだが、その復興事業に際しての都市計画を行ったのが英国人土木技師だったブラントンである。「横浜まちづくりの父」とは、そういうことなのだ。ブラントンは神子元島灯台の他にも犬吠埼灯台、石廊崎灯台など、30基ほどの灯台の建設に当たったという。

神子元島灯台は40万カンデラの光を約36kmの範囲に届かせるという。1969年(昭和44年)に国の史跡に指定されている。爪木崎から見る神子元島灯台は肉眼ではやはり少し遠いが、これも双眼鏡などを利用するといい。日差しを弾いて目映い海原に浮かぶ小さな島影、その中央部に建つ灯台のシルエットは少しばかり幻想的な印象もあって美しい。


爪木崎

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灯台から少し引き返し、尾根を北へ下りてゆくと、浜辺を抱えた小さな入江がある。「爪木崎」の名を記したゲートから左手に下りてゆくとこの浜辺なのだが、敢えて灯台を先に訪ねて、浜辺へ戻ってきたというわけだ。この浜辺の周囲が水仙の群生地だ。

浜辺の南側から西側、尾根の斜面から裾にかけて無数の水仙が群生して花を咲かせている。その光景は見事なものだ。水仙の甘い香りに包まれて散策路を歩けば、水仙の群落は場所によってさまざまな表情を見せてくれる。ひとつひとつの水仙の花も可憐だが、こうして数多くの水仙が群生する姿を目の当たりにすると圧倒されるような思いがする。水仙の花は花弁が白く、中央の副花冠と呼ばれる部分が黄色だが、群生している様子を離れて見ると花弁の白が目立ち、その白い花弁が日の光を反射して緑の絨毯の上に白い宝石を鏤めたかのように美しい。

群生地はもちろん立入禁止で、散策路の柵越しに眺めるだけだが、それでも充分にその美しさを堪能できる。花壇のように整備された一角もあるが、これは人の手によって植栽されたものだろうか。爪木崎の水仙群落は200万本と謳われている。辺りを埋め尽くすように咲き誇る水仙の群落は素晴らしいの一語に尽きると言っていい。

水仙の群生地の外縁部にはアロエが植栽されている。アロエは水仙とほぼ同時期に花期を迎え、柄の付いた真っ赤なブラシを逆さに立てたような、特徴的な姿の花を咲かせる。アロエに花が咲くことを知らない人も少なくないようで、「アロエの花」ということに驚いている人もいるようだった。実は爪木崎の北方に位置する白浜一色地区は「アロエの里」と呼ばれるアロエの群生地で、花期を迎える冬に「アロエの花まつり」が行われる。同じ下田市内ということで、爪木崎にもアロエを植栽しているのだろう。エキゾチックな雰囲気も漂うアロエの花は可憐な印象の水仙とは対照的で、冬の爪木崎の良いアクセントになっている。

水仙が花期を迎える12月下旬から1月下旬にかけて、爪木崎では「水仙まつり」が開催され、大勢の観光客を迎えて賑わっている。水仙群生地北側の駐車場を兼ねた広場の脇には露店も設営され、伊豆の海産物や農産物の直売を行っている。漁師直営という簡易店舗の飲食店も営業しており、うどんやラーメンといった軽食の他、「さんま寿司」や「漁師汁」などを提供しているようだった。「水仙まつり」期間中の日曜祝日にはさまざまなイベントも行われるようだ。水仙の花とともに、そうした賑わいを楽しむのもよいものだろう。


爪木崎

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灯台や尾根道からの眺めを堪能し、水仙の花を堪能した後は、浜辺から磯辺にかけての散策を楽しむのも悪くない。季節は真冬、風も冷たいが、海辺の散歩は楽しいものだ。灯台から見下ろした磯辺を、今度は波打ち際から見るのも表情が違って楽しめる。少し沖合いで海面に顔を出した岩礁には海鳥が羽を休める姿もある。冬の澄んだ青空の下、爪木崎の海は美しい青のグラデーションを見せる。水仙の咲く岬で、冬の海の風情も楽しんでおきたい。
参考情報
爪木崎の水仙群生地は特に入場料などは必要ない。

交通

爪木崎へは伊豆急行下田駅から「爪木崎」行きバスを利用すればいい。終点の「爪木崎」まで15分ほどだ。

車で訪れる場合は小田原方面から国道135号線を南下、あるいは沼津方面から国道414号線を南下するなどして、まず下田へ向かえばいい。下田市街中心部から1.5kmほど国道135号線を東へ行ったところに須崎半島へ逸れる道との交差点がある。国道135号線で河津方面から来た場合は下田市街へ入る手前だ。これを南へ向かえば爪木崎へ着く。

爪木崎には約200台分ほどの駐車場が用意されている。駐車料金などについては下田市観光協会サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)などを参照されたい。

飲食

下田市街へ移動すれば飲食店は多く、選択肢も増えるだろう。爪木崎や近辺にも数は少ないながら飲食店がある。また、今回訪れたとき(2013年1月)は「水仙まつり」開催中で、ラーメンやうどん、“漁師汁”などを提供する簡易店舗が駐車場脇に設営されていたので、それらを利用するのも一案だろう。

陽気の良い季節であればお弁当持参で訪れても楽しいに違いない。

周辺

爪木崎から西へ戻れば下田の中心市街が近い。下田は幕末の日米和親条約によって開港されたところだ。ペリーが上陸した地には碑が建てられ、ペリー一行が辿った道は「ペリーロード」という散策路に整備されている。町の中には「なまこ壁」の建物も数多く残り、古い時代の面影を探しながらの散策が楽しい。市街地の南に位置する下田公園は紫陽花の名所として知られ、海岸部には下田海中水族館も建っている。伊豆急下田駅近くからロープウェイを使って寝姿山に登るのもいい。

下田市街からさらに南に辿って田牛地区まで足を延ばし、「龍宮窟」と呼ばれる海蝕洞を見てみるのもお勧めだ。
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