佳景探訪
亀戸天神社
東京都江東区の亀戸天神社は「花の天神様」と謳われ、初夏の藤や早春の梅の名所として知られる。特に藤の見頃の時期には多くの参拝者を迎えて賑わう。藤の花が盛りの四月下旬、亀戸天神社に参拝した。



亀戸天神社

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亀戸天神社はその名が示すように学問の神として崇められる菅原道真を祭神として祀る神社だ。藤の名所として知られ、「花の天神様」と謳われる亀戸天神社、藤の花が見頃を迎える時期には大勢の参拝者が訪れ、たいへんな賑わいを見せる。境内の小径には藤の花を観賞する人たちが溢れ、社殿の前には参拝を待つ人たちが長蛇の列を作る。さすがに広く名を知られる亀戸天神である。


1646年(正保3年)、九州の太宰府天満宮の神官を務めていた、菅原道真の末裔、菅原信祐は、神託によって道真縁の“飛び梅”の枝で天神像を彫り、社殿建立のために九州を出る。諸国を巡り、ついに亀戸村へ至り、村に古来在った小さな祠に天神像を祀った。1661年(寛文元年)のことという。

隅田川東岸のこの地域は、昔は低湿地の荒れ野だったらしく、それを開墾してようやく農地が築かれ、江戸時代初期には土地を開発した領主が支配する「荘園」だったのではないかという。荘園を支配する領主のことを「本所」と呼ぶが、現在まで残る地名の「本所」は荘園時代の呼称が残ったものらしい。

江戸の町は隅田川西岸に広がっていたが、急激な発展とともに過密状態になってしまっていた。その江戸で、1657年(明暦3年)、大火災が発生する。世に言う“明暦の大火”(またの名を“振り袖火事”ともいう)である。この火災によって江戸の町の大半が焼失してしまった。その復興に際し、増えてゆく人口と拡大する町域へ対処するため、江戸の町は新たな“都市計画”の基に造り直されることになる。その一環として、隅田川東岸の本所にも町が築かれ、江戸の町に組み入れられることになった。

菅原信祐が亀戸村の小祠に天神像を安置したのは、ちょうどその頃だ。時は四代将軍家綱の治世、天神信仰に篤かった家綱はこの天神社を地域の鎮守とし、境内地を与え、1662年(寛文2年)、九州の太宰府に倣った配置で社殿や回廊、心字池などを建立した。これが現在までの残る亀戸天神社の直接の起源である。

そうした由緒からか、亀戸天神社は江戸時代には“東の宰府”として「東宰府天満宮」、あるいは「亀戸宰府天満宮」とも呼ばれていたという。1873年(明治6年)、時代が明治を迎えると東京府の府社となり、亀戸神社と改称、さらに1936年(昭和11年)に亀戸天神社と改称され、常に多くの人々の信仰を集めて現在に至っている。“亀戸天神”と呼ばれることも多いが、“亀戸天神”はあくまで通称、正式には「亀戸天神社」である。


蔵前橋通り(都道315号線)に面して設けられた正面入口から亀戸天神社の鳥居をくぐると、参道は心字池の中央部を太鼓橋で渡ってゆく。手前に心字池を置き、それを太鼓橋で渡った奥に社殿が建っている配置は九州の太宰府天満宮に倣ったものだろう。心字池には池を覆うように藤棚が設けられ、四月下旬から五月上旬には見事な藤の花が境内を彩る。緑と藤色に染まった境内に、太鼓橋の朱色が鮮やかだ。それらの境内の風景の向こうに、今は東京スカイツリーの姿がよく見える。日本情緒を漂わせる境内の風景と現代的な造形美の東京スカリツリーの姿との取り合わせも、現代の東京が見せる興趣というものだろう。

境内には御嶽神社や弁天社、花園社といった摂社末社も祀られ、牛と関わりの深かった菅原道真を祀る天神社として当然のことながら、本殿脇には神牛像も置かれている。他にもさまざまに碑や塚などの“見所”が点在しており、それらを訪ねながらゆっくりと境内を巡るのもよいものだ。決して広大な境内地というわけではないが、商店や住宅の密集する亀戸の市街地の中にあって緑濃い佇まいが魅力的だ。歴史ある天神社の風格を漂わせつつ、厳かに過ぎず、どこか庶民的な親しみやすさを感じるのは江戸庶民に愛されてきた天神社としての歴史によるものか。

学問の神である菅原道真を祀る神社であるから、学業祈願に参拝する人が絶えない。特に受験シーズンとなる1月、2月には合格祈願の絵馬を奉納する受験生の姿が多く見られるようだ。その知名度からか、遠方から参拝に訪れる人も少なくないという。

亀戸天神社ではさまざまな年中行事が執り行われるが、1月24日と25日に行われる「うそ替え神事(うそかえしんじ)」は特に有名で、大勢の人出で賑わうという。この「うそ」は鳥のことで、「鷽」と書く。ウソ(鷽)はスズメ科の鳥で、口笛に似た澄んだ声で啼く。口笛を意味する古語「うそ」から、その名で呼ばれるようになったらしい。この鳥のウソを象って檜で彫られた「ウソ鳥」を、新しいものに取り替えるのが「うそ替え神事」だ。前年に求めた古い「ウソ鳥」は神社に納め、新しい「ウソ鳥」を求めることによって、凶事もウソ(嘘)になり、吉兆を招くというので、多くの信仰を集めているという。この檜の「ウソ鳥」は神職が一本一本手彫りしているのだそうで、「うそ替え神事」のときにしか入手できない貴重なものらしく、開運のお守りとしても人気があるという。

また、2月から3月初めの「梅まつり」や4月末から5月初めに行われる「藤まつり」、10月から11月にかけて行われる「菊まつり」など、花に関連する祭事も広く知られ、大勢の参拝客を集める。「花の天神様」と謳われる所以である。


藤の花が見頃を迎えた4月下旬、「藤まつり」開催中の亀戸天神社はたいへんな賑わいだ。参道から境内の通路まで、大勢の参拝客でごった返している。太鼓橋も込み合ってなかなか進めないほどだった。今年(2013年)は春から初夏にかけてのあらゆる花の開花が例年より早かった。亀戸天神社の藤も4月中旬から下旬にかけてすでに見頃を迎えていた。連休を迎える前の平日に時間を設けて訪れたのだが、それでもこの人出だ。連休中の賑わいは推して知るべしといったところか。

亀戸天神社の藤は初代宮司が社殿前に植えたのが始まりで、江戸時代にはすでに名所として知られ、浮世絵の題材にも多く取り上げられ、五代将軍綱吉や八代将軍吉宗の御成もあったらしい。現在、亀戸天神社の藤は100株を超えるという。心字池の岸辺に植えられた数多くの藤が咲き誇り、一部は池の上に儲けられた藤棚に伸び、池の水面にその姿を映している。その景観はまさに圧巻と言っていい。

藤棚を下から覗くように見上げれば、その下には心字池越しに対岸の藤棚が見える。少し離れて眺めれば、藤棚の向こうに遠く東京スカリツリーが聳えている。太鼓橋の上に立てば藤棚と心字池を眼下に見下ろすこともできる。場所によっては、そうした景観に朱色の太鼓橋がアクセントを添える。境内の小径を辿ればさまざまに美しくフォトジェニックな景観に出逢い、飽きることがなく、何度もカメラのレンズを向けてしまう。

藤の花は特に珍しい花ではない。町中の小さな公園にも藤棚が設けられていることが少なくなく、樹齢百年を超える古木の藤も各地にあり、「藤の名所」として知られるところも数多い。そうした中にあっても、亀戸天神社は屈指の「藤の名所」と言っていいのではないか。神社の境内を埋め尽くすように咲き誇る藤の花を、心字池や太鼓橋、灯籠などとともに見る景観は風雅な情緒に富み、江戸時代から藤の名所として知られてきたという歴史がさらにその魅力を引き立てる。今では東京スカリツリーとともに見る景観も魅力の一つに加えていいのだろう。亀戸天神社では「東京一の藤の名所」と謳っているが、それも充分に納得できる素晴らしさだ。花の好きな人なら一度は藤の咲き誇る亀戸天神社に参拝してみるべき、と言っても過言ではない。


亀戸天神社の「藤まつり」開催期間中、周辺の商店街も大いに賑わっている。商店街の散策を併せて愉しむのも一興というものだろう。

ところで、亀戸土産と言えば亀戸天神社の前に店を構える船橋屋の「くず餅」が有名だが、船橋屋の店先にも長蛇の列ができていた。お土産を買うのも一苦労である。この船橋屋の「くず餅」、今回訪れたとき(2013年4月下旬)、亀戸駅の改札横に特設の販売所が設けられており、そこで並ばずに買えたことを書き添えておきたい。
参考情報
本欄の内容は亀戸天神社関連ページ共通です
交通

亀戸天神社へはJR総武線「亀戸駅」、JR総武線「錦糸町駅」、東京メトロ半蔵門線「錦糸町駅」から徒歩十数分というところか。少しばかり総武線亀戸駅の方が近いようだが、それほど大きな違いはない。

車で訪れる場合は首都高速7号小松川線の錦糸町ICを利用するのが近い。亀戸天神社にも参拝者用の駐車場があるが、規模の大きなものではない。駅周辺に民間駐車場が点在しているので、それらを利用してもよいだろう。

飲食

亀戸天神社の北側にはあまり飲食店はないようだが、南側の蔵前橋通沿いから亀戸駅にかけての商店街に飲食店が数多い。

周辺

亀戸天神社東側の道路を北へ辿って行くと、やがて北十間川を越えて墨田区となり、さらに進むと東武亀戸線小村井駅南方の市街地の中にひっそりと香取神社があり、神社の境内に梅園が設けられている。規模は小さいが梅の種類や数はなかなかのものだ。亀戸天神社から歩いて十数分といったところだ。併せて訪ねてみるといい。なお、江東区亀戸三丁目の「明治通」沿いには亀戸の香取神社があり、距離も近いが、小村井の香取神社とは別の神社なので注意が必要だ。

小村井駅からさらに西方へと歩くと京島の町だ。京島の町は戦災を免れたところで、戦前の建物が残り、下町情緒溢れる商店街もある。足を延ばしてみるのも楽しい。

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