佳景探訪
京島
東京都墨田区の北東部に京島という町がある。京島は戦災を免れたところで、戦前からの古い建物が残り、狭い路地が迷路のように入り組んでいる。九月の半ば、京島の町を歩いた。



京島

京島

京島

京島
京島の町は東京都墨田区の北東部、向島の東側に位置しており、西南側には東武亀戸線が弧を描き、北東側には明治通りが走り、その両者に挟まれた区域に横たわっている。西側から京島一丁目、京島二丁目、京島三丁目と並ぶ。京島は戦災を免れ、そのために戦前の町の佇まいが今も残っている。狭い路地が入り組み、古い建物が密集して建ち並ぶ様子は下町情緒に溢れ、町歩き趣味の人たちにはよく知られたところだ。

東武線曳舟駅を東側に出て「曳舟川通り」を渡ると京島一丁目の町だ。東に少し行くと京成押上線の京成曳舟駅がある。ふたつの駅の周辺はさすがに再開発が進んでいるようで、「曳舟文化センター」や大きなマンションなどが建っている。京成線の踏切を渡って東南側へと歩を進め、都道465号を越えると南側に京島二丁目、北側に京島三丁目の町が広がる。

京島三丁目の町に入り込むと町の佇まいが一変すると言っていい。細い路地が絡み合うように入り組み、初めて訪れるとまるで迷路のようだ。途中で屈曲する路地は通り抜けられるのかどうかもわからない。その角で猫がのんびりと休んでいる。道脇には古い建物が建ち並ぶ。二階建ての住宅の二階の窓には申し合わせたように物干し台が設けられている。建物の前には植木鉢が並べられ、自転車が無造作に置かれている。町は基本的に住宅街だが、ところどころに個人商店が店を構えている。その店もずいぶんと昔から商いを続けている様子だ。今はもう商売をやめてしまったのか、シャッターを下ろしたままの店もある。小さな工場らしい建物の横には古い工作機械や廃材などが無造作に置かれたままになっている。町の一角には手動汲み上げ式のポンプがあった。その周囲が整備されているから、これは保存されているものなのだろう。歩いているとさまざまな発見があって楽しい。


キラキラ橘商店街

キラキラ橘商店街

キラキラ橘商店街

キラキラ橘商店街

キラキラ橘商店街
京島三丁目の中央部から京島二丁目の東端辺りにかけて、町の中をほぼ南北に貫いて商店街が延びている。正式には「向島橘銀座商店街」という名のようだが、商店街には「下町人情キラキラ橘」の名が掲げられ、一般には「キラキラ橘商店街」と通称されている。なぜ「橘」なのかと思うが、戦前に橘館という映画館が建ち、そこからかつては「橘館通り」と呼ばれており、それが「橘」の名の由来だという。

狭い通り沿いにはさまざまな商店が並んでいる。鮮魚店、八百屋、総菜店などの生鮮食品の店はもちろん、衣料品店、靴屋、酒屋、書店、理髪店、金物店、家具店など、日常生活に必要な店はほぼ揃っていると言っていい。店先にも無造作に商品が並べられていたり、ちょっと雑然とした感じがあるのも下町の商店街らしく、古い時代を知る世代の人には郷愁を感じる佇まいだ。さすがに通り沿いのすべての店舗が商いを続けているというわけではなく、ところどころにシャッターが下りたままの店舗も散見されるのは仕方のないことかもしれない。

お店の人もお客さんも年齢層が高いのはこうした下町の商店街ではよくあることだ。ほとんどのお客さんは地元の人だろう。お客さんとお店の人はご近所さん、という様子が見て取れる。お店の人と買い物客との間で多くの会話が交わされる。店先の縁台で一休みするお客さんとそのお店の人とが談笑する姿も珍しいことではない。本来、“買い物”とはそういうものだったはずだ。“品物と代金との交換”を必要最小限の言葉のやりとりだけで済ませるような行為が、はたして“買い物”と言えるのか。この商店街を歩いていると、そんなことを思ってしまう。この商店街では人々はみな優しく暖かい。来訪者の立場で歩いてみても、その優しさと暖かさが伝わってくる。若い世代の人には、その“レトロ”な町の佇まいに新鮮な驚きを感じるだけかもしれない。しかし、この商店街の中に息づく人々の営みの温度と湿度、そしてそれを支える人々の思いをこそ、感じ取って欲しいと思うのだ。


京島

京島
「キラキラ橘商店街」を含む京島の町は、残そうとして残されたものではない。戦災を免れて“奇跡的に残った”という言い方が相応しいだろう。その“レトロ”な佇まいが町歩き趣味の人たちなどの間で人気だが、しかしこの町に暮らす人には、住み慣れた町の良さと共にそれなりに苦労や不便もあるだろう。木造の家々が密集し、細い路地が複雑に入り組む町は、防災上も決して好ましいものではない。町の中を歩いていると、ところどころで空き地を目にした。まるで浸食するように途中まで造られた真新しい広い道に出くわすこともあった。町内会などによる「京島地区まちづくり協議会」が中心になって地震や火災に強い町造りが進められているという。そうやって少しずつ、この町も姿を変えてゆくのだろう。来訪者の立場でその良し悪しや功罪を無責任に語ることはできない。ただ京島の町の“今の”姿を見て、その歴史と未来に思いを馳せるだけだ。
参考情報
交通

京島の町には東武伊勢崎線の曳舟駅や京成押上線の京成曳舟駅、あるいは東武亀戸線の曳舟駅や小村井駅を利用するといい。東武線の曳舟駅や京成線の京成曳舟駅からなら南東の方角へ、東武亀戸線の小村井駅からなら北西の方角へと歩けばすぐに京島の町だ。町中は道がわかりにくい。訪れる時にはスマートフォンのマップを利用するか、詳細な地図を携行することをお勧めする。

京島の町の中にも周辺にも駐車場はほとんど見あたらないようだ。車での来訪が避けた方が無難だ。

飲食

町中なのでのんびりとお弁当を広げられるような場所は見あたらない。強いて言えば「キラキラ橘商店街」沿いの田丸神社横の小公園辺りか。商店街の総菜屋さんなどで食べ物を買い求めて公園のベンチで頬張るのも、ひとつの楽しみ方ではある。

京島周辺で飲食店を探すのなら、東武線曳舟駅周辺に多いようだった。曳舟川通り沿いにはファストフード店やファミリーレストランなども建っている。数は多くないがもちろん「キラキラ橘商店街」の中にも飲食店があるから、どこかのお店を選んで下町風情溢れる商店街での食事を楽しむのもいいかもしれない。

周辺

曳舟駅から西へ向かえば向島、向島は料亭が建ち並んで風情のある佇まいの町だ。散策の足を延ばしてみるのもいい。向島の西側には隅田川が流れている。ひととき河岸の散策を楽しむのも悪くない。

曳舟駅の北方には有名な向島百花園がある。花の好きな人ならぜひ立ち寄ってみたい。

京島の町から南へ辿れば北十間川を越えて江東区、少し距離があるが亀戸天神へも充分に歩ける距離だ。
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