東京都羽村市の西部、羽村堰近くの多摩川河畔、根搦前水田と呼ばれる水田地帯がある。この水田では農閑期の裏作としてチューリップを植栽しており、四月の花期には多くの観賞客を迎えている。新緑の美しい四月の半ば、根搦前水田を訪ねた。
春の根搦前水田
東京都羽村市西部の多摩川河畔、羽村堰のやや上流側に、河岸段丘の崖に囲まれてひっそりと水田地帯が横たわっている。「根搦(ねがらみ)前水田」と呼ばれる水田地帯で、ここは羽村市で唯一の水田なのだという。水田だからもちろん稲作が行われているわけだが、稲刈りが終わって翌年の田植えの準備が始まるまでの期間、休耕地となってしまう。その期間を利用してチューリップの栽培が行われており、花期を迎える四月、根搦前水田は色とりどりのチューリップで鮮やかに染められる。
春の根搦前水田
春の根搦前水田
根搦前水田のチューリップは、そもそもは1988年(昭和63年)の「花いっぱい運動」の際に配布用球根を増やすために、この地の農家に栽培を依頼したことに始まる。当初は球根を増やすことが目的で、規模も小さなものだったらしいが、チューリップの咲く景観の美しさが徐々に口コミで広まって観賞に訪れる人が増えていったのだという。それを受ける形で1993年(平成5年)の「TAMAらいふ21」事業で観賞用として宣伝、有名になったものらしい。「多摩新時代の創造」 をテーマに開催された「TAMAらいふ21」は思うような成功を得られなかったようだが、この根搦前水田のチューリップの知名度を高める役目は果たしてくれたということだろうか。現在(2008年)の根搦前水田では23ヘクタールほどの畑に36万球のチューリップが栽培され、その規模は関東最大級という。花期には「チューリップまつり」が開催され、桜の頃の「さくらまつり」とともに羽村市の「花と水のまつり」を担う。「花の名所」としてガイドブックなどで紹介されることも多くなり、毎年多くの観光客を集めている。
春の根搦前水田
春の根搦前水田
春の根搦前水田
根搦前水田は、その立地がいい。多摩川の河畔、河岸段丘の崖面に囲まれてひっそりと横たわる。段丘崖には木々が茂り、多摩川対岸の丘陵も緑に覆われている。適度な閉塞感と開放感が同居し、しっとりと落ち着いた空気感に包まれている。その中に、色鮮やかにチューリップが咲き誇る。緑濃い風景の中で赤や黄のチューリップはひときわ鮮やかに映える。そしてまたチューリップの背景として見る木々の緑はなおいっそう瑞々しく見える。この色彩のコントラストが見せる風景の美しさこそが、チューリップに彩られた根搦前水田の何よりの魅力だろう。

「チューリップまつり」の開催中は一角に羽村市観光協会の詰め所が置かれ、仮設トイレも設置されている。その脇には特設の「チューリップ展望台」が設けられており、チューリップの咲き誇る根搦前水田の全景を少し高みから見渡すこともできる。チューリップ畑の中には地元の人の露店もあり、地元野菜などを販売している。立ち寄る人の姿も多く、なかなか賑わっている。また東側の段丘崖下には「踊子草公園」という小公園があり、この公園の広場にも露店が並び、軽食を販売している。買い求めて設置されたテーブルで一休みするのも悪くない。「踊子草公園」はその名が示すように広場脇の林の中にオドリコソウが咲く。チューリップの咲く時期、そろそろオドリコソウも花期を迎える。根搦前水田のチューリップと共に、このオドリコソウも見ておきたい。
参考情報
本欄の内容は根搦前水田関連ページ共通です
交通
鉄道で訪れる場合はJR青梅線羽村駅が最寄りだ。羽村駅西口から羽村堰方面へと向かい、奥多摩街道から河岸を辿って上流側へと進むのが分かりやすい。駅から根搦前水田まで約1.5km、30分かからない。

根搦前水田には観光用駐車場は設けられていないので、車での来訪は避けたい。車で来訪した際には羽村駅西口周辺のコインパーキングなどに車を駐め、そこから徒歩で向かうのをお勧めする。

春の「花と水のまつり」開催中は多摩川河川敷の「宮の下運動公園」の一部が駐車場(有料)として開放されるので車での来訪も可能だが、たいへんに混雑するので余裕を持って出かけよう。周辺の道路は一方通行などの規制が行われ、要所に警備員が立っているから誘導に従って通行しよう。

飲食
根搦前水田周辺にいくつか食事の可能な店があるが、数は少ない。飲食店を探すなら羽村駅西口へ移動した方が賢明だ。

お弁当持参で訪れ、多摩川の河岸などでアウトドアランチを楽しむのもお薦めだ。

周辺
根搦前水田の周辺には阿蘇神社をはじめ、さまざまな寺社も建っている。寺社巡りを楽しむのもいい。

根搦前水田横の多摩川の堤防道は桜並木で、「桜づつみ公園」の名で花見の名所として知られる。春には圧巻の桜景色が広がり、花が終われば緑濃く葉を茂らせ、川風に吹かれながら気持ちの良い河岸散歩が楽しめる。

多摩川堤防を下流側へと歩けば数百メートルで羽村市水上公園、さらにその先は羽村堰だ。散策の足を延ばしてみるのもお勧めだ。

JR青梅線羽村駅のすぐ東側、五ノ神社の境内には「五ノ神まいまいず井戸」という古い井戸の跡がある。史跡などに興味のある人は訪ねてみるといい。

羽村駅東口から北東の方角へ羽村駅前中央通りを辿れば約1.4kmで羽村市動物公園、動物たちを見学しながらのんびりと過ごすのも楽しい。
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