佳景探訪
本栖湖
本栖湖は富士五湖の中で最も西にある湖だ。湖畔は山梨県富士河口湖町から身延町に跨いでいる。西岸からは湖越しに富士山を望み、紙幣に描かれた風景として知られる。風薫る五月の初め、本栖湖を訪ねた。



本栖湖

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本栖湖は富士五湖の中で最も西に位置する湖だ。湖畔は二つの自治体に跨り、東岸は山梨県富士河口湖町、西岸は山梨県身延町に属している。したがって北岸と南岸に町境があるわけで、その両者を繋いだラインが湖面の町境だと思ってしまうが、湖面に於ける町境は定まっていないらしい。面積は4.7平方km、周囲は12kmほど、大きさは富士五湖の中では三番目だが、富士五湖の中で最も深く、最大水深は121.3mあるそうだ。これらの数値はいずれも2014年(平成26年)現在のものだが、昔はもう少し深かったようだ。かつては澄んだ湖水を湛えて透明度も高かったようだが、近年は水質の悪化が問題になっているという。

太古の時代、本栖湖から西湖にかけて「せのうみ(剗の湖)」と呼ばれる大きな湖があったという。現在の青木ヶ原樹海も湖だったというから、その大きさがわかる。その頃には河口湖ももっと大きく、明見や忍野の盆地も湖だったらしい。5500年ほど前から1000年間ほど、富士山は激しい噴火活動を繰り返したが、この時の火山灰や火山礫、溶岩流などによってこれらの湖は埋められて小さくなり、あるいは消滅していった。縮小した「せのうみ」はさらに二つに分断され、その西側の湖が現在の本栖湖の原型だという。

800年代、富士山はまた噴火活動期を迎える。800年(延暦19年)には噴火によって流出した溶岩が桂川を堰き止めて山中湖を造った。864年(貞観6年)にも富士山は大噴火を起こす。世に言う「貞観大噴火」である。貞観大噴火は山頂から10kmほど離れた北西側の斜面で起こり、膨大な量の溶岩が北西側の山麓に流出した。溶岩流は「せのうみ」をほぼ埋め尽くし、一部は本栖湖にも流れ込んだ。溶岩によって埋められた「せのうみ」の、辛うじて残った部分が現在の精進湖と西湖だ。山麓を覆い尽くした溶岩はやがて冷え固まり、その上に千年以上の時をかけて森林が再生した。それが青木ヶ原樹海である。ちなみに、本栖湖と精進湖、西湖は、湖面の標高がすべて同じである。検証されたことはないようだが、三つの湖は地下の水脈で繋がっており、そのために同一となるのだろうと言われている。

800年代の富士山噴火について、本栖にひとつの伝説がある。昔、本栖湖が「せのうみ」と呼ばれていた時代、湖の東に原中村という500戸ほどの集落があったそうだ。村では毎年、元旦に湖の水で身を清め、一年の無事安泰を祈願する習わしがあった。ある年、村人が湖で身を清めて祈っていると、朝靄の湖から龍が現れ、「近いうちに富士山が噴火する」と告げて小富士(現在の龍ヶ岳)に登っていったという。その日から地鳴りや地震が続き、噴火を恐れた村人たちは山を越えて富里村(現在の身延町北部)に避難した。そして大噴火が起こる。やがて噴火が収まって村人たちは帰ってきたが、家も畑も溶岩に飲み込まれ、「せのうみ」は埋められて小さな湖を残すだけとなっていた(伝説では、この時に「せのうみ」が本栖湖と精進湖、西湖に分断されたとしている)。途方に暮れた村人たちだったが、湖には魚が泳ぎ、山には獣の姿があるのを見て、そこに住み着くことを決意したという。「元の巣」に帰ってきたので、「もとす(本栖)」と村の名を改め、以来、災難からの守り神として龍神を祀り、信仰しているのだそうだ。

本栖は甲斐(現在の山梨)と駿河(現在の静岡)を繋ぐ街道の宿場として賑わっていた時代もあったという。近年までその時代の面影を残す町並みがあったということだが、残念ながら今はない。本栖湖の東側には国道139号線が通り、南へ下れば富士宮市を抜けて富士市へ至る。北へ辿れば国道139号線は東へ曲がって富士吉田市から大月市へと至っているが、精進湖の脇から国道358号線が分かれて北へ向かい、甲府市へと繋いでいる。本栖は今も静岡県と山梨県とを繋ぐルートのひとつが通るところだ。

本栖湖の東で国道139号線から国道300号線が西へ分かれ、湖畔へと降りている。国道300号線は湖の北岸を辿り、さらに山を越えて身延町の中心部へ至っている。国道300号線が中之倉トンネルに入る直前で県道709号線が分かれ、県道709号線はそのまま湖畔を辿って本栖湖を一周しており、湖の景観を楽しみながら一回りすることもできる。一周すれば約12km、歩いて一巡りするのは少しつらいが、車で訪れたなら湖岸を一周してみるのもいい。南岸部は道路が狭く、運転には細心の注意が必要だが、湖岸を進むにつれて湖のさまざまな表情を楽しむことができる。

本栖湖は2013年(平成25年)に世界文化遺産に登録された富士山の構成資産のひとつだ。富士山周辺の観光には欠かすことのできない場所のひとつと言っていいと思うが、訪れる観光客はそれほど多くはないように見える。東岸の国道300号線が湖畔に降りる付近には観光客向けの飲食店や土産物店が何軒か並んでいるが、立ち寄る観光客の姿は多くはないようだ。今回訪れたのは五月の初め、夏になれば涼を求めて訪れる観光客が多くなるのかもしれない。

本栖湖は静かな湖だ。本栖湖は環境保護のために水上バイクやモーターボートなどの動力船の乗り入れが規制されており、それが奏功して静かで穏やかな印象をもたらしているのだろう。本栖湖の湖畔にはいくつかのキャンプ場が点在し、キャンプやバーベキューを目的に訪れる人も少なくない。キャンプ場を拠点にトレッキングやカヌーなどを楽しむ人もあるようだ。本栖湖の静かな佇まいはそうした楽しみ方に相応しいのだろう。

湖畔の散策を楽しむなら湖の東岸がお勧めだ。東岸部には駐車場も多く設けられ、駐車場からはすぐに湖畔へと下りてゆくことができる。山々に抱かれて水を湛える本栖湖は美しく、湖畔をのんびりと散策するのは楽しい。湖の南側に聳える端正な形の山は龍ヶ岳だ。穏やかな湖面には観光客の乗るボートが浮かび、その向こうにはウインドサーフィンを楽しむ人の姿もある。その横を遊覧船が客を乗せて湖の奥へと向かって行く。対岸の岸辺にはキャンプ場の様子が小さく見える。そうした光景が長閑ささえ感じさせて、よりいっそう湖の静けさを際立たせている。その静けさを味わいながら湖畔で過ごすひとときが、一般的な“本栖湖観光”としてお勧めの愉しみ方であるように思える。


本栖湖

本栖湖

本栖湖
今回訪れたのは五月の初めだったが、東岸の道路脇から駐車場にかけて桜が咲いていた。この地域では例年、桜は四月中旬から下旬にかけて見頃を迎えるらしい。今年(2014年)は少し開花が遅かったのだろう。あるいはこの地域でも特に本栖湖畔は開花が遅いのかもしれない。

桜はさまざまな品種があるようだ。ソメイヨシノやヤマザクラらしい桜に混じって真っ白の花を咲かせていたのはオオシマザクラだろうか。東京近郊ではあまり見たことのない桜もあった。少し小振りの木に小振りの花を咲かせていたのはフジザクラ(正式名はマメザクラ、ハコネザクラともいう)かもしれない。それぞれの木々には特にネームプレートも取り付けられておらず、樹木に詳しくない身としては乏しい知識から推測することしかできない。

本栖湖畔の桜は数はそれほど多くはないが、桜と本栖湖とが織り成す景観や、桜越しに富士山の頂上を見る景観は素敵な春景色だ。さすがに見頃の最盛期を過ぎて散り始めているものが多かったが、この時期に桜を見られたのは嬉しいことだった。


本栖湖

本栖湖

本栖湖
本栖湖の北西側、国道300号線から県道709号線が分かれる辺り、道路は湖面から少し高いところを通っている。国道との交差点近く、県道からは眼下に本栖湖を見下ろし、その向こうに富士山の姿を望む。

この風景は2004年(平成16年)11月から発行されている現行千円紙幣(E号券、表面は野口英世の肖像)の裏面とそれまで発行されていた旧五千円紙幣(D号券、表は新渡戸稲造の肖像)の裏面にデザインされた、富士山と湖面に映った“逆さ富士”の絵柄の風景として知られている。

この紙幣のデザインの元になったのが、岡田紅陽の撮影した「湖畔の春」と題された写真作品だ。岡田紅陽はその生涯のほとんどを富士山の撮影に捧げた写真家として知られる。「湖畔の春」は1935年(昭和10年)の作品で、岡田紅陽の代表作であるばかりでなく、数ある富士山写真の中でも最高傑作のひとつに数えられている。

「湖畔の春」は道路からさらに山の斜面を登った高所から撮影されたものらしく、同じ構図で富士山と本栖湖を見る(あるいは撮影する)ためには相応の装備と時間と熱意が必要のようだ。そこまでこだわらなくても、県道脇からでも充分に見事な眺望を楽しめる。ただし、当然のことながら本栖湖の湖面に映る“逆さ富士”は湖面が鏡のように凪いだときでなくては見ることができず、その機会は極めて希なものだという。運良く“逆さ富士”を見ることができたなら、かなりの幸運であるようだ。
参考情報
交通

本栖湖は公共の交通機関で訪れるのは不便なようだ。河口湖駅からの路線バス、あるいは富士駅や富士宮駅からのバスを利用しなくてはならないが、便数が少ない。

本栖湖畔での移動などを考えれば車での来訪が便利だ。中央高速道路河口湖ICから国道139号線を西進、あるいは東名高速道路富士IC、新東名高速道路新富士ICから国道139号線を北上するのがわかりやすいだろう。河口湖ICからは20kmほど、富士IC、新富士ICからは30km余りというところだ。

本栖湖の東側湖畔に無料駐車場が複数用意されており、駐車台数にも余裕がある。西側には基本的に大きな駐車場はないが、国道300号線(本栖みち)と県道709号線との交差点近く、県道脇に駐車スペースが設けられている。

飲食

国道139号線から国道300号線へと逸れて本栖湖畔へ下る辺りに数軒の飲食店が建っている。本栖湖を眺めながらの食事が楽しめる。

お弁当持参なら湖畔の岸辺にシートを広げてピクニック感覚で食事を楽しむことも可能だ。

周辺

春から初夏にかけて、富士本栖湖リゾートで「富士芝桜まつり」が開催される。会場は本栖湖から国道139号線を南へ3kmほど行ったところだ。本栖湖畔の本栖湖青少年スポーツセンターから無料シャトルバスも運行しているようだ。

本栖湖から国道139号線を数km北上すれば精進湖、さらに河口湖方面へと辿れば富岳風穴や鳴沢氷穴などがある。国道139号線から北へ逸れて西湖へ足を延ばしてみるのもいい。

本栖湖から国道139号線を7kmほど南下すると道の駅朝霧高原がある。道の駅には「あさぎりフードパーク」という施設が隣接しており、施設内には朝霧乳業の工房やビュッフェレストランなどがある。国道139号線は朝霧高原の美しい風景の中を辿っており、快適なドライヴが楽しめる。途中に設けられた駐車場に車を停め、ひととき高原の風景を楽しみながら一休みするのもお勧めだ。
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